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Vol.060 2020.02.21

合同会社MAZDA Incredible Lab CEO
松田孝さん

<前編>

プログラミングをきっかけに
未来社会に向けて
「新しい学び」を獲得していこう

合同会社MAZDA Incredible Lab CEO

松田 孝 (まつだ たかし)

1959年東京都生まれ。東京学芸大学卒。上越教育大学大学院修士課程修了。東京都公立小学校教諭、東京都狛江市教育委員会主任指導主事(指導室長)をはじめ、東京都の小学校校長を3校歴任。2019年4月より合同会社MAZDA Incredible Labを立ち上げ、代表に就任。総務省地域情報化アドバイザー、金沢市プログラミング教育ディレクター、小金井市教育CIO補佐官も務める。著書に『学校を変えた最強のプログラミング教育』(くもん出版より近日発売予定)。

東京都の小学校教諭を振り出しに、教育委員会指導主事、小学校校長などを歴任されてきた松田孝さん。校長として最後の赴任校となった小金井市立前原小学校では、ICT(情報通信技術)の活用やプログラミング教育を先駆けて実施し、注目を集めました。現在は3つの公的な肩書きを持つほか、自ら会社をつくり、民間企業と連携してICT教育の普及に取り組まれています。新たなチャレンジを続ける松田さんが考える「学び」、そして「教育」とは? プログラミング教育によって子どもたちはどう変わるのか、教員の道に進まれた理由などについてもうかがいました。

目次

    ICTを活用して学びの変革に挑戦!

    私は足かけ36年、東京都の公立小学校を中心に、学校教育に関わってきましたが、2019年3月に、定年を1年前倒しして「辞職」しました。現在は、これまでの経験、そこから得た知見を基に、日本政府が提唱する未来社会の姿、「Society 5.0」を生きる子どもたちに必要な力を育む学びの実現に向けて全国を奔走中です。

    合同会社MAZDA Incredible Lab 松田孝先生(前編)

    「Society 5.0」とは、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」とされています。AI技術やIoTの進展によって、暮らしや働き方が大きく変わっていく中、未来を生きる子どもたちは何を身につけていかねばならないか、学びの場は学校だけではないということも念頭に置きつつ、これからの「新しい学び」のあり方について考え、行動しているところです。

    具体的には、総務省地域情報化アドバイザー、金沢市プログラミング教育ディレクター、小金井市教育CIO補佐官という3つの肩書きで仕事をしています。自分で会社もつくり、昨年末には、「GIGAスクール構想」(学校現場で児童生徒1人1台端末、および通信ネットワークの整備をめざす構想)が立ち上がったこともあり、通信会社や端末機メーカー、コンテンツベンダーなどと提携してその実現に向けた啓発活動や支援事業もしています。

    学校を辞めて1年が過ぎ、やはり自分は公務員には向いていなかったなと実感しています(笑)。公務員というのは、多くの人が「そうだね」「いいね」というところを、ていねいに実践していくのが仕事です。逆にいえば、多くの人の合意や共感を得られないことや初めてのことには、どうしても慎重になってしまいがちです。

    ところが私は、雪山でスキーをするとすれば、誰かが滑った跡ではなく、自分が初めて滑りたい。これまで誰もやっていなかったことにチャレンジしたいタイプです。それで定年まであと1年となったタイミングで、子どもたちの未来に責任をもつ教育の実現のために新たなチャレンジをすることにしました。

    辞めたことで、学校教育を相対的、客観的に眺められるようになったのはよかったと思います。社会が大きく動いていることを肌で感じ、そうした中で教育はどうあればよいか、切実に考えられる環境になりました。

    公文教育研究会も新しい取り組みに挑む企業だと感じます。昭和の時代、一律一斉の学習が行われている中で、一人ひとりの力を最大に伸ばして自分で学んでいこうとする力をつける教育法を広めていったのは、ものすごい識見と先見性だと感心します。学習療法など、高齢社会において大事な取り組みをされているのも素晴らしい。ただ時代は変わってきています。「Society 5.0」の時代において、創業者の思いをいかに具現化しながら、どう自己変革されていくのか、楽しみにしています。

    「プログラミング教育」による生徒の変化

    5分も経つと授業に飽きる子が90分間集中

    合同会社MAZDA Incredible Lab 松田孝先生(前編)

    私がプログラミングと出会ったのは、2013年の夏、知人にプログラミングイベントに誘われたのがきっかけです。じつは2010年から3年間、狛江市立学校の教育のICT化推進に関わっていたので、プログラミングについては、多少は知ってはいましたが、詳しくはありませんでした。

    そのイベントに参加してプログラミングが「すごい!」とか「わかった!」と実感したわけではなく、正直なところ「モヤモヤ」感が募っていったのです。しばらくたってからなんとなく気になって、知人の力を借りながら、当時校長として赴任していた学校で、授業に取り入れてみることにしました。

    すると、いつもは授業が始まって5分もすると、学習に飽きてイスを揺らしたりする子どもが、プログラミングの授業では2コマ90分間、ずっと集中しているではありませんか。さらに、お互いのプログラムを見て「おもしろい!」「すごい!」「どうやるの?」などというやり取りが始まりました。わからないところを教え合う「学び合い」が、プログラミングを介して生まれていたのです。この様子を見て、これぞ、これからの子どもたちに必要な「新しい学び」だと感じ、積極的に取り入れることにしました。

    ところが、当時、こうしたプログラミング教育の授業に対し、反発の声も少なくありませんでした。校長としてどう進めようか悩んでいると、ICT教育を推進したいという当時の小金井市教育委員会の教育長から、私のICT教育を核にした学校経営に「お金はないけれど活動にブレーキはかけない」とお声がかかったのです。任命権者である都教委の異動を介して、小金井市立前原小学校に着任することになりました。

    先生方との初顔合わせ時には「プログラミング教育を実践します」と宣言したものの、じつは、どう実現するか、私自身ノープランでした。そんなスタートではありましたが、幸いにも狛江市時代から構築してきたネットワークのおかげで、応援してくれる企業もあり、環境整備を進めることができました。先生方のスキルのレベルアップには、イベントや研修会を活用しました。

    1年目はなかなかうまくいきませんでしたが、2年目は毎月1回、校内研究会で全教員がプログラミングの授業をやるなど組織的に取組めるようになりました。

    プログラミングは、子どもたちの思いを表現する新しいメディア

    さまざまな学びの展開が期待できる
    プログラミング教育の可能性

    合同会社MAZDA Incredible Lab 松田孝先生(前編)

    私は、プログラミングは子どもたちの思いを表現する新しいメディアだと思っています。「低学年にプログラミング?」と、疑問に思う方もいるかもしれませんが、タブレット操作でいろいろな表現ができるとわかったら、低学年でもものすごく楽しそうに取り組みます。とくに印象に残っているのは、3年目の11月に、「IchigoJam」(基板をむき出しにしたプログラミング専用パソコン)で公開授業をしたときの様子です。子どもたち自身でプログラミングしてロボットを動かしたり、LEDライトを点滅させたりして、本当に楽しそうでした。子どもたちが自然と教え合う姿は、見ていてとてもほほえましいものです。

    Society5.0に向かう授業というのは、先生が「教える」ものではありません。先生はごく簡単に説明し、その後は子どもたちに活動をゆだねる。ゆだねられた子どもたちは何らかの気づきを得て、それを先生方も含め共有し、深め合っていく。こうした過程こそが、未来を生きるこどもたちに必要な資質・能力であるねばり強さや協働性、そして学びに向かう自己調整の力を育んでいくのだと思います。

    低学年のときにはいろんな表現を楽しみ、高学年になるとプログラムそのものにも習熟し、その上で中学に進む。そんな流れができるのはステキだと思いませんか。そもそも表現したいことを実際に表現するには、とくに理数系の考え方をたくさん駆使しなくてはなりません。例えばゲームをつくるときには三角関数を使います。プログラミングを体験すれば、マイナスや小数といった考え方も低学年のうちから体感できるのです。デザインや効果音をどうするかなど、自分たちで考えるようにもなります。つまり、プログラミングを核に算数や理科、デザインや音楽などいろいろな学びにつながっていくのです。これこそが子どもたち一人ひとりの個性を生かして学ぶSTEM教育の本質なのだと考えます。

    ただ、どうしても現状は「プログラミングの学び」と、国語や算数など「教科の学び」が別々になってしまっています。私は、今こそ従来の「教科の学び」のフレームを再考しなくてはならない時代にきていると感じています。Society5.0の社会を主体として生きる資質・能力は、Digital LiteracyとIntelligence、そしてCompetencyです。これらの力を育む学びのトリガーがプログラミング教育なのだと考えています。

    関連リンク 合同会社MAZDA Incredible Lab


     

    後編のインタビューから

    -大学時代の恩師からの教え
    -教育とは、子どもが「自分自身を好きになる営み」を応援すること
    -「自分の頭で考えること」を大切に、自分を好きになるために

     

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