「新しいこと」に挑戦しつづけ、常に時代の最先端の新規事業に従事
大学院を卒業後は、大手石油会社に就職しました。入社1ヵ月前に当初の予定とは異なるエンジニアリング部門にいくことになりました。そこでコージェネレーションという省エネの新規ビジネスに取り組み、充実した日々を送っていましたが、3年弱で辞めて、フランスに自費留学しました。石油ビジネスの中でも「上流部門」をしている会社に行きたいと思ったからです。上流部門とは、石油がどこにあるかを探して、掘って油田にし、原油を生産して、それをタンカーで運ぶ部門です。ところが、日本にはその原油を精製し製品にして小売りする「下流部門」の会社しかありません。改めてエネルギー問題をいろいろな角度から研究した結果、やはり世界は石油で動いていると確信し、上流部門をもつ会社で働きたいと思ったのです。
外国企業への就職を模索する中で見つけたのが、フランスのポンゼショセ工科大学院でした。いわばビジネススクールで、ヨーロッパの企業でインターンができて、単位にもなり給料も出る。フランス語はできないし、フランスにも興味はなかったけれど、授業は英語だったので、行くことにしました。その準備のために、会社勤務をしながら自腹で英語学校にも通い、休日も英語の勉強にかなりの時間を費やしました。
そのおかげで社内でも英語力を認められ、海外案件の依頼が来るようになりました。留学をきっかけにした海外体験がのちに力となったのは言うまでもありません。そんな実体験があるので、自分の息子たちにも「英語ができるようになって損はないよ」と言っています。ただ、これからの時代は、英語だけでなく、「英語×自分の専門テーマ」を見つける必要があるでしょう。
フランスへ渡ってからは、日本の石油会社でエネルギー関係の新規事業をしていた私のキャリアを見て、インターンをしていたフランスの国営石油会社からスカウトされました。そこで永久就職をしようと思いましたが、いろいろな事情が重なって日本に帰国。しばらくは無職でした。
その後あるとき、冷やかしで行ったつもりのシンクタンクの面接で、「運命の人」田坂広志さんに出会い、㈱日本総合研究所に就職することになります。気がついたら10年近くいました。そこでも、ある時は環境問題、ある時はインターネットコマースと、ずっと時代の最先端をテーマにして、新規事業に携わってきました。
新規事業をするうえでは、思うようにならないことも多々あります。八方塞がりになった時は「今、お前は試されているのだ。これは何か意味がある」と思うようにして、「その意味は何だろう?」と考えて取り組み続けます。そうして受け入れると、少しずつ岩が動くように、物事が動き出すのだと思います。
「運動」「認知」「栄養」「社会性」の4条件が人生100年時代を生きるカギ
人生100年といわれる時代、健康で自立した人生を送るためには何が必要かというと、「運動」「認知」「栄養」「社会性」の4つの条件が挙げられます。運動する習慣をもつこと、脳を使う習慣をつけること、バランスのとれた栄養をとること、そして人と交流する習慣をもつことです。これが、私が提唱するスマート・エイジングを実現する秘訣です。
加えて、これからの時代、「自分らしく生きる」ことも大切です。「自分らしく生きる」ために必要なことの一つは、「自分軸」を持つことです。これと対極なのが、「会社軸」。会社の基準を中心にして生きるということです。
私自身、じつは会社員時代は「会社軸」で生きていました。多くの人は、人生のかなりの時間を会社で過ごすことになります。そうすると、どうしても会社の価値観や社風、文化が染みついてしまいます。例えば責任転嫁してしまう習慣、上司に意思決定を頼る習慣などで、そうしたことが、退職すると結構邪魔になってしまいます。
退職後、「会社軸」ではなく「自分軸」で考えて動けるように、学生には、「生涯にわたる自分のテーマを見つけよう」と言っています。テーマは後で変わってもいいんです。ただ、何もないと流されてしまうので、仮のテーマでも必要なのです。
小・中学生の子どもたちに伝えたいことも、基本は同じですね。自分の好きな何かを見つけてほしいと思います。自分は何が好きなのか、なぜそれがやりたいのか、どうしてそれが面白いのか、といったことを、常に意識するといいでしょう。好きだからやっている、理由なんかない、でもいいですが、「なぜ、好きなのか」をはっきりしておくと、自分の気持ちがぶれにくくなります。
あとは、テレビゲームなどは最小限にして、外で体を動かして遊ぶこと。私は田舎育ちで、神社や川、山などが遊び場でした。今の都市部はコンクリートとアスファルトばかりですが、そうした中でも、工夫して遊び場を見つけてほしいですね。保護者の方には、「この子は何が好きか」を見つけ、それを伸ばしてあげてほしいと思います。
元気に明るく生きていく人たちを増やし、活気のある日本をめざそう
40歳を過ぎたころ、こういう仕事をしているせいもあるかもしれませんが、年をとるということの意味が具体的にわかるようになってきました。体のあちこちにガタがきて、介護など家庭問題が起きたりもします。20代で見えている世界、30代で見えている世界、40代で……と、どんどん視野が広がっていくんだなと理解するようになりました。
年を重ねるごとに、自分の思考の仕方、思考の深さ、物の見えかたが変わってくるのです。他人の立場がわかるようにもなりますし、若い時の自分の未熟さもよくわかります。今、私は57歳。もうすぐ60歳です。そうなったらまた、60代のものの見方ができるでしょう。年をとるのも悪くないという言葉の意味を実感できるようになりました。
そう考えると、スマート・エイジングは、「賢く年をとる」というよりは、「世の中の視野が広がる歳のとり方」「ものごとが起こることの意味がわかっていく生き方」といったほうが適切かもしれません。
ただ、歴史からもわかるように、思考の深まりは、年齢だけによるものではありません。
戦没した学徒兵の遺書を集めた遺稿集『きけ わだつみのこえ』には、二十歳にもならない若者たちの言葉が遺されていますが、とても成熟しています。「明日死ぬ」という状況、緊張感を持った時に書いているからでしょう。たとえ若くても、置かれた状況や時代環境によって思考は深まるということです。
今後はさらにスマート・エイジングの実践者が増える活動をしていきたいと思います。今私は、企業を対象に「スマート・エイジング・カレッジ東京」を運営しています。東北大学での知見を活かし、企業の健康寿命延伸ビジネスを多様な角度から支援する「事業支援カレッジ」です。今季は5期目で、63社が参加、延べにすると305社ほどに参加いただいています。手応えは感じていますが、まだまだ道半ばです。
個人の方にも、もっともっと、スマート・エイジングの考え方を知っていただき、実践していただきたいです。そのために、本を書いたり講演したりとさまざまなアプローチで啓発していきたいと思っています。
私が考える究極のゴールは、一人ひとりが、スマート・エイジングの実現のために必要なことを、当たり前にやるようになることです。そうして元気にいきいきと生きる人たちが、少しでも増えていけば、日本という国は、たとえ高齢者が増えても活気にあふれた明るい国になっていくのだと思います。
前編のインタビューから -「スマート・エイジング」という概念 |