「脳を使う」 「運動」 「栄養」 「人との関わり」が鍵
みなさんは「アンチ・エイジング」という言葉を聞いたことがあると思います。この言葉には、年をとるということは「病気である」「醜くなることである」という概念が隠れています。東北大学ではこれを根本から変えようと、「スマート・エイジング」という考え方を広めようとしています。年をとるということは「成長現象」=「より賢くなること」「何かを得ること」であるというのが私たちの考えです。
そのためにはどうしたらよいのでしょうか?
「健やかで穏やかな生活を送るための四大要素」として①脳を使う習慣、②身体を動かす習慣、③バランスのとれた栄養、④人と積極的に関わる習慣が提唱されていますが、これらは私たちが賢く年をとる(スマート・エイジング)上でも大切な要素です。
4つのうち②③④は、目標が達成できているか自分や周りの人がわかる、努力をすれば誰でもできる目標です。一方、1番目の「脳を使う習慣」は異なります。私たち人間は、自分の脳が今どれぐらい働いているかを関知することができません。ですから「どうやって脳を使うか」については、私たちのような脳の研究者の知識を使っていただくしかないのです。
「思考の脳」の機能は20歳から加齢とともに低下する
![]() 知識(語彙)を問うテスト(黒線)は上がる |
今日の話の主役は大脳の前方、「前頭前野」と呼ばれている部分です。
年齢とともに脳の働きがどう変化するかを見てみましょう。20代~80代の人に行われた心理学的な検査の結果を見ると、前頭前野の働きは20歳のころをピークとして加齢とともに低下することがわかります。逆に、脳の中でも年と共に上がるものがあります。それは知恵や知識を扱う領域です。このテストを見ていくと60代から80代の点数がいいことがわかります。脳の働きは中年期を過ぎてから衰えるのではなく、実は20代から下がっているのです。ただ、中年期まで頑張っていられるのは、知恵や知識が増えているので、ごまかしがきいていただけなのです。
![]() 認知機能が向上する |
放っておけばまっすぐに下がってしまう、この前頭前野の働きの低下を、何とか緩やかにし、あわよくば横ばいにする、もっと頑張って右肩上がりにすることができないか。ということで、さまざまな実験をしました。そして、大脳の特に左の「思考の脳」、左半球背外側前頭前野と呼ばれる部分がトレーニング中に働いていれば働いているほど、効果が出やすい、ということがわかったのです。
脳はよくコンピュータに例えられる。情報処理が速く、容量が大きいほど高くて良いコンピュータ
⇒「情報処理速度を速くするトレーニング」と「記憶の容量を増やすトレーニング」を行うことで、脳機能を維持または改善を図る
- ①情報処理速度トレーニング/1~120をできるだけ早く数える(飛ばさないで、確実に発音する)
- ②作動記憶トレーニング/ランダムな数字を覚えて復唱する(桁を増やしていく、覚えた数字を逆に言う)
・1~2週間で効果が現れ、様々な情報処理速度が速くなる
・直接関係のない能力(抑制力、注意力、記憶力)も上がる
・脳のMRIをトレーニング前後で比較すると、成人以降であっても大脳の一部の脳の体積が増える現象が起きた
⇒脳は年とともに委縮すると言われるが、科学的に実証されているトレーニングをきちんと行うと脳の体積は増える。これが脳トレ!