労働経済学とは「働く世界」を分析する学問
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私が専門とする「労働経済学」は、失業までも含めて「働く」という世界、つまり社会での人の動きを分析する、経済学の中でも「人」を扱う学問です。そのなかで最近力を入れているのが「人事の経済学」と「教育の経済学」です。
そもそも「経済学」とは、モノについている値段の決定メカニズムと、それを人為的に変える、いわば「環境を変える」ことで結果がどう変わるかを研究する学問です。
「人事の経済学」とは人の労働の値段、つまりある人の給料を上げることによって、皆よく働くようになるのかどうか、といったことを研究する学問です。「皆よく働くようになろう」といった意識への働きかけが先にくるのではなく、労働価格という環境を操作することで、うまくいくようにする。社会や組織がつける労働の価値を変えることで、人の動きが変わっていく側面を重視し、それをどう変えたらよい方向に導けるのかを研究しています。
「教育の経済学」も同様で、教育の環境を変えることで、人がどう変わっていくかを研究しています。たとえば最近では公文式を導入している学校における公文式学習の教育効果測定に携わりました。公文式学習を外から与えることによって、すなわち環境を変えることによって生徒の態度や意欲がどう変化したか、さらにはそれが能力や成績にどう影響を及ぼしたか、といった観点で研究をしたのです。
教育によって個人がどう成長するかということは、その先の就職や人生にも影響を及ぼします。ところが学問的には教育学と労働経済学は離れています。教育学では、学校教育から労働市場に入るところまでは気にしますが、そこから先は気にしません。一方、労働経済学は、学校が労働市場に送り出してきた人材を元に議論をしますが、彼らが具体的にどんな教育を受けてきたのかは意識の外です。
しかし学校に行く理由は、その後社会に出て幸福に生きていくためであり、学校教育とその先を考えることは本来切り離せません。その意味で、私の中では教育学と労働経済学は一本につながっていて垣根がありません。最近は、それらを総合的に捉えて研究することに特に注力しています。