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Vol.034 2016.08.19

経営学者 藤川 佳則先生

<後編>

いまのあたりまえが
未来のあたりまえとは限らない
「地球儀を眺める」ような視点をもとう

経営学者

藤川 佳則 (ふじかわ よしのり)

京都府生まれ。1982年一橋大学経済学部卒業、同大学院商学研究科修士。2000年ハーバード・ビジネススクールMBA(経営学修士)、2003年2003年ペンシルバニア州立大学Ph.D.(経営学博士)。ハーバード・ビジネススクール研究助手、ペンシルバニア州立大学講師などを経て、現在は一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授。専門はサービス・マネジメント、マーケティング、消費者行動論。『マーケティング革新の時代ハーバード・ビジネス・レビュー』(ダイヤモンド社有斐閣)、『一橋ビジネスレビュー』(東洋経済新報社)、『マーケティング・ジャーナル』(日本マーケティング協会)などに執筆。訳書に『心脳マーケティング』(ダイヤモンド社)ほか。

「サービス・マネジメント」という新しい学問領域の第一人者、藤川佳則先生。サービス産業を体系的に研究し、この分野のイノベーションやグローバリゼーションの知見の構築を通じて、企業や国家の成長戦略に寄与することを目指されています。また、所属する一橋大学大学院国際企業戦略研究科では、地球規模で社会に貢献することができるプロフェッショナルの育成にも注力されています。藤川先生の行動の軸にあるのは、「地球儀を眺める」ような視点と「上には上がある」という視座。その行動原則に至るようになったきっかけは何だったのでしょうか。日本や世界の変化が激しい今の時代において、どう考え、どう行動すべきかのヒントもうかがいました。

目次

寝る間も惜しんで勉強する学生ばかりの中、
どう生き延びるか

経営学者 藤川 佳則先生

1年間の交換留学からの帰国後も、しばらくは「大学卒業後は商社に入ろう」と考えていましたが、野中先生や竹内先生が進めるプロジェクトにリサーチアシスタントとして参画する機会を得るうちに、研究や教育のおもしろさを感じるようになりました。その後、世界的な評価を受けることになる『知識創造企業』のプロジェクトで企業の事例分析を担当したり、日米欧10か国100以上の産業を分析し、各国の競争優位性を明らかにするプロジェクト(のちに経営学者マイケル・ポーター氏の『国の競争優位』として書籍化)のメンバーになったりする機会に恵まれました。 

これらを通じ、「ビジネススクールに拠点を置く研究者」にひかれるようになりました。研究活動においては、過去の偉大な企業や経営者に関する知見に触れながら、現代の企業経営の現場における調査に基づき新たな知を生み出していく、また教育活動においては、未来を担う次の世代の若者にその醍醐味を伝え、彼らの人生形成の一端を担うことができる。とても魅力的な仕事だと感じ、この道を目指すことに決めました。 

時代はバブル絶頂期。同級生たちは就職活動をしていましたが、私は迷うことなく大学院へ進むことにしました。そしてその後、この道を究めるにはここで学びたいと、ハーバード・ビジネス・スクールへ行きました。 

ハーバード・ビジネス・スクールは本当に厳しい世界でした。1学年に900名以上が学ぶ世界最大規模のMBA(経営学修士)プログラムには、世界中から優秀な学生が集まっています。その中でいかに生き残るか、それが課題でした。1クラス90人が履修するすべての教科において、相対評価に基づいて成績がつきます。クラス上位20%はA、中位70%がB、下位10%がCとなります。全体評価でCが多いと進級できません。評価基準としては、授業での発言が最も重視されるのですが、当然毎回全員は当たりません。発言できる機会をいかにつかみとり、その限られた機会をいかに活かして全体の議論に貢献することができるか。毎日の授業が相当のプレッシャーでした。当時は睡眠中ですら、挙手して当てられて一生懸命発言している夢を見て、英語で寝言を言っていたほどです。 

ある時、ある授業でC評価をとってしまいました。その授業では、教授の授業スタイルや、クラスメートの発言内容に不満を持ちながら受けていました。今から振り返ると、そうした気持ちが、私自身の発言内容や授業態度に現れてしまったのだろうと思います。ちょうどその頃、一橋大学のゼミの指導教員であった竹内先生が渡米中で、お会いした時にそうした不満を伝えたらこう言われました。「なりふりかまわず結果を出せ。自分自身がどう感じていようが、周りがそれをどう思わかは関係ない。プロは結果がすべてだ」。それ以降、本来授業で伝えるべき自分の考えをその場で伝えられなかった時には、研究室まで教授に会いに行って質問をしたり、授業後にクラスメールを送ったり、苦手な科目ほどより一層の努力することにしました。

なぜそんなことができたか?やはり、自分が苦労しているこの瞬間にも、同じ世代の人間が、世界中のどこかで未来をつくるために学んでいると思うと、自分も負けてはいられないという気持ちがあったのだと思います。

藤川先生にとって「学び」とは?

イノベーションを学んできた自分が
学びのイノベーションを牽引する

経営学者 藤川 佳則先生

私にとって「学び」は人生そのものです。「勉強している」という感覚はなく、毎日の生活として、一生続けるもののように思っています。そんな「学び」を、今目の前の学生たちにどのように提供するか。現在私が注力していることの一つに、海外のビジネススクールとの連携があります。一橋ICSでは、2012年から世界のトップ28のビジネススクールと連携し、MBA教育のイノベーションの推進に取り組んでいます。その一環として実施しているのが、約1週間の短期集中プログラムの世界同時開講。直近の2016年3月に実施したプログラムでは、世界18都市において現地のビジネススクールが短期集中プログラムを同時開講しました。

学生は連携するどの大学の授業にも参加することができます。たとえば、ブラジルのサンパウロにいくと、「Marketing at the Bottom of the Pyramid (最貧困層向けマーケティング)」という授業科目を受講することができ、イスラエルのテルアビブに行くと、「Startup Nation (スタートアップ大国としてのイスラエルのエコシステム)」と題した授業科目を履修することができます。このように、その場に身を置くからこそ学び取れることに焦点をあて、「場」がもたらすイノベーションの論理を解き明かすことを追求しています。

私たちは常に学生に「イノベーション生み出そう」と言っていますが、この取り組みは、教えている自分たち自身がまずはそれを実践しようということでスタートした試みです。このプロジェクトのスピード感も興味深いですよ。年2回、提携校の担当者が集まってアイディアを出して、やってみる。そしてどうだったかを振り返る。これまでにないスピードで仮説・実践・検証をくり返し、プログラムをブラッシュアップさせていこうとしています。私も、日本で学生を受け入れる立場として、「日本に来るからこそ学べる何か」を質高く提供し続けていきたいと思っています。その先頭に私自身が立ち続けていきたいですね。

藤川先生から子どもたちへのメッセージ

情報を鵜呑みにせず自分で切り拓いていこう

経営学者 藤川 佳則先生

いまや、人工知能(AI)やロボット工学、ビッグデータ(大規模集積情報)などの進展によって、今人間が行っている仕事の大部分はコンピュータなどテクノロジーによって代替されるようになると言われています。新しい産業革命の真っ只中にあるとも表現されます。そうなると、今以上に「自分で人生を切り拓いていく力」が必要になるでしょう。そこで気になるのが、子どもたちの、親や周りの大人からの「影響の受け方」です。大人の「影響の与え方」もそうですが、受け取る側の子どもも気をつけなくてはならない。言葉を変えれば、「大人を信用しすぎるな」ということです。

というのも、大人は子どもや若者に何かアドバイスする時、自分たちが生きてきた時代背景を暗黙の前提においている可能性があります。しかし、いま現在のあたりまえが、未来においても当たり前であるとは限りません。就職の相談にしても、周囲の大人がどういうキャリアを積んできたかは参考にはなりません。現時点における成功した方のアドバイスであったとしても、それはその方が過去のある時代において的確な判断をしたに過ぎないわけで、それが今後にもそのまま当てはまるとは限りません。アドバイスする側はそれを意識するべきでしょうし、受ける側はそれを鵜呑みにしないで、自分で考えて切り拓いていくべきです。

私たちの職業も、今と同じ形で残っているかわかりません。テクノロジーの担う部分が大きくなっていったときに、きっと人間である私たちがやるべきことは、より研ぎ澄まされた分野に絞られていくのだろうと思います。テクノロジーとうまく付き合いながら、人間だからこそできることに取り組み、今より質の高い知を生み出すことが求められるようになるでしょう

そのために、常に世界にアンテナをはり、「今この瞬間にも地球上で誰かが努力している。自分は何をどこまでできているだろうか」という、「地球儀を眺める」ような視点と、常に「上には上がある」という視座を持ち続けていきたいと思います。

関連リンク
一橋大学大学院 国際企業戦略研究科


 

経営学者 藤川 佳則先生 

前編のインタビューから

-「サービス・マネジメント」とは?
-ビジネスマンのおじたちが教えてくれたこと
-人生に大きな影響を与えた大学時代の経験とは?

 

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