スペシャルインタビュー
Academic Milestones - 学びを究める力

2015/05/29更新

Vol.021 小児科医 田中恭子先生  後編

「自分には何ができるか」。
気付き”を一歩先につなげること、
をつねに問いつづけ子どもたち
ご家族によりそう医療をめざす

田中恭子 (たなか きょうこ)
長野県出身。順天堂大学医学部を卒業後、順天堂大学医学部附属病院に勤務。2002年に英国ダンディー大学心理学部に留学。帰国後、順天堂大学医学部小児科准教授。2013年に東京大学医学部附属病院こころの発達診療部に国内留学。2015年4月より国立成育医療研究センターこころの診療部思春期メンタルヘルス医長。順天堂大学医学部小児科非常勤講師。順天堂越谷病院メンタルクリニック児童思春期部担当医。専門分野は子どものメンタルヘルス。さまざまな病気や障害のある子どもとその家族のケアに従事。小児医療現場での「遊び」の重要性を唱え、病気や障害をもつ子どもたちとその家族が安心して遊べる場として、順天堂大学病院内に「わくわく広場」を創設。自身も一女の母として子育て中。※2015年3月の取材時は順天堂大学医学部小児科准教授

小児科医として、子どもたち一人ひとりとご家族によりそう医療をしたい――。そんな想いから、医師になってからも心理学を学び、問題や課題が山積みの仕事にも進んで取り組む田中先生。日々の診療と研究のかたわら、病気の子や障害のある子たちの支援団体の立ち上げにもかかわるなど、小児科医という枠を越えて精力的に活動されています。医師であり、一児の母でもある女性として、仕事にも育児にもまっすぐ向き合いながら、自らの道を切り拓いていく。その原動力についてうかがいました。

「愛着」は人が生きていくうえでの最大の基盤 いろんな人とのコミュニケーションのなかで育んでいきたい

3年ほど前からですが、東京都の虐待カウンセリング事業にもかかわっています。虐待の問題に向き合ってみて、あらためて「愛着」の大切さを痛感しています。ここでの「愛着」は、心理学での「愛着(attachment)」です。動物や人間でも、赤ちゃんがおかあさんにしがみついたり、後追いをしたりしますが、それも愛着のひとつの現れといわれています。人間の場合、生後6か月くらいで特定の人物(母親)への愛着が形成されはじめ、2~3歳ごろまで形成がつづき、この時期を順調にすごすことが、その後の対人関係や情動の正常な発達にとって重要とされています。

ですから、「愛着は人間が生きていくうえでの最大の基盤になる」ということもわかっていただけるのではないかと思います。しかし虐待は、その愛着の形成を妨げてしまうことになります。では、その親御さんを説得すればよいかというと、それもちょっと違う気がするのです。

子育てが苦手な親御さんたちのなかには、自分自身が無条件で愛された経験が少なく、人や子どもをどう信頼して愛したらいいかわからず、自己評価も低い。そういった共通点があるともいわれています。またご自身が受けた虐待をしつけの一部のようにとらえていて、わが子に同じことをしてしまうという「虐待の負の連鎖」もあります。親御さんと子どもだけでは、なかなか解決の道が見つけられない状態になっているのです。

苦手なことは誰でもあります。もちろん虐待という結果で示す行動は決して許されるものではないと思いますが、そこをただ単に責めたり非難したりするだけでは、虐待という社会現象は減ることはないと思います。だからこそ、だれかが早くに気づいて、非難するのではなく、親としての役割を可能な範囲で維持できるように、その苦手な部分は周りの人や社会が手助けしてあげることが大切です。

子育てが苦手という親御さんの場合でも、その親子や家族の関係を尊重しつつ、子どもの周りにいるいろんな人たちとのコミュニケーションのなかで愛着が形成できたら、もっとたくさんの子どもたちが健やかに育っていけると思います。

そのためには、親子や家族を周囲が温かく見守りつつ、適切なサポートをしていける社会の仕組みも必要です。きめ細かな配慮とかなりの時間を要しますが、今後やっていかなければいけないことだと考えています。そして、そのヒントのひとつが「Baby Kumon(ベビークモン)」だと思っています。歌と絵本の読み聞かせを子育てに活かすという考え方もいいですし、月に1回、親御さんが公文教室の先生とかかわりをもつことで、子育てに不慣れだったり、なかなか自信がもてないお母さんも、「これでいいんだ」と安心できます。その安心が、親子の心におよぼす影響は大きいはずです。

順天堂大学病院では10年ほど前から、病気や障害のある子たちの子育て支援の一環として、「わくわく広場」を月1回開催しています。おもちゃを介して楽しく遊ぶなかで、育児や発達相談を受けたり、地域でのメンタルヘルス事業につなげたりなど、子どもたちの成長や発達を、親御さんと医療スタッフで分かち合い、さらにその先につなげていくという活動です。

親御さんは子どもの遊び方や興味の引き出し方などを専門スタッフ(医療スタッフやおもちゃコンサルタントなど)に相談できます。わたしたちも、診療時とは違った親子のかかわりを間近に見ることで、「これからどう治療を進めていくか」「このお子さんのこんな素晴らしい力を伸ばそう」など、スタッフ間で話し合いながら、その後の診療につなげています。

また、2010年には「子ども療養支援協会」を立ち上げました。病気の子や障害のある子たちの支援は、医療のほかに心理的・社会的な支援が加わることで、格段に良いものになりますが、さらにきめ細やかさやていねいさも求められます。そこには、専門性の高い人がかかわることが大切で、イギリスの「ホスピタル・プレイ・スペシャリスト」(前編参照)、アメリカの「チャイルド・ライフ・スペシャリスト」に相当する、日本の文化や社会に合った専門家、「子ども療養支援士」の育成をめざしています。

田中先生の口ぐせとは?

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