発達が遅れても、環境を整えれば必ず取りもどせる

センターの合言葉は「原理的に人は生涯発達しつづける存在である」。ただ、それにはそれぞれの発達段階で、発達課題を達成するための条件があります。それを具体化して保育や教育などの実践の場、あるいは家庭の子育てにつなげていくことが、このセンターの本来的な役割です。
これまでのセンターの研究成果のひとつとして、乳幼児期における歌いかけや読み聞かせは、社会力*を高め、思考力を養うのを促進することがわかりました。社会力と思考力は人が発達するために基盤となる力です。歌・読み聞かせで言葉を覚えるというのは、ついでの成果といってもいいほど。その観点から言うと、歌・読み聞かせプログラムを30年来推し進めているKUMONは、子どもたちの発達の根幹をサポートしているといえるでしょう。
*社会力:「人が人とつながり、社会をつくっていく力」(筑波大学・門脇厚司教授による造語)
そもそも人間は、スイスの発達心理学者ジャン・ピアジェが言うように、高い学習能力をもって生まれてきます。例えば赤ちゃんは初めて見るものに「甘いものかしら」と予測してペロペロなめる。ところが苦いと、「アッ、これはなめてはいけないものだ」と理解する。結果や応答が自分の予測と違っていたら、違っていた部分を新たな情報としてとり込み、さらに学習していくのです。
いまの場合は「もの」でしたが、赤ちゃんの対象が「人」だったらどうでしょうか。赤ちゃんは笑ったり泣いたりしながら、自分の周りにいる人と関わりをもとうとします。このとき、周りの人から何の応答もなかったとしたら、どうでしょうか。もって生まれた学習能力を使わなくなります。つまり、笑っても泣いても誰も相手をしてくれなかったら、赤ちゃんは笑わなくなり泣かなくなり、あっという間に発達が遅れてしまうのです。
でも、大丈夫。遅れは原理的にはいつでも取りもどせます。遅れているのは、もって生まれた大きな学習能力が使われていなかったからです。“人間の生きる力”ともいうべき学習能力は、発達の原点(出発点)にもどり、発達課題に対しステップを切って使うように環境を整えれてやれば、5歳であっても40歳であっても、比較的短期間で再生するのです。