「思い」が込められたブランドは感動を与えてくれる

「ブランド」と聞くと、日本ではいわゆる「ブランドもの」を連想しがちです。「実態的価値を問わずに名前だけを追う」という意味が込められている場合も少なくありません。消費者ばかりでなく、企業においても「ブランド」は、「商品名」や「サービス名」としか理解されないケースもあり、経営での位置づけも高くはありません。しかし、実はブランドとは「組織の存在理由そのもの」であり、消費者にかけがえのない感動や喜びを与えてくれるもの。私は欧米企業を中心に、ブランド力があると評価されている企業の経営者にインタビューした結果、そのことに気がつきました。
それらの企業に共通しているのは、自分たちの夢をものすごく大切にしているということ。ビジョンや哲学と言ってもいいでしょう。世の中の「ビフォー」すなわちここを変えたらもっと良くなるのではないか、を見つけてそこにもっていくためにどうすればいいか、を徹底的に考えています。
例えばメルセデス・ベンツは、「クルマ社会をより明るくするのはクルマを発明したわれわれの宿命」という一貫したミッションのもと、「車とはどうあるべきか? 私たちはこうしたい」という深い思いを持っている。その夢や思いが、従業員を、最終的には顧客をひきつけ、「なくてはならないもの」になっていく。それがブランドの本質です。
私は大学で経済学を教えながら、ブランドに関する研究を続けていましたが、実務を手掛けたいと考えるようになり、現在は大学を離れ、「丸の内ブランドフォーラム」というブランド実践の場を主宰しています。ブランドの先駆者である企業の経営者や研究者などの話を聞き、ワークショップを開き、成果を社会に発信することを主な活動としています。