コロナ禍でままならなくても
楽しいことにすり替えていこう
メンタルトレーナーとなり心に残っているのは、ある中学校でスクールカウンセラーをしていたときのことです。当時いじめが起きていました。いじめている生徒に「いじめをやめなさい」という指導は先生方がされていたので、私は違う側面からアプローチしてみようと考えてメンタルトレーニングを実践しました。
1ヵ月後にはいじめがなくなり、いじめていた子に聞くと、「今までは先生からも親からも自分が悪いと決めつけられてむしゃくしゃして、いじめをせずにはいられなかった。今は親も先生も自分の夢が叶うように言ってくれていると思う」と語ってくれました。夢を見つけることで認識が変わり、いじめをする必要がなくなったのです。メンタルトレーナーとして子どもたちの心を導きたいと強く思った出来事でした。
最近は「コロナ禍でのストレス対策」というテーマでの講演依頼が増えてきています。コロナ禍でストレスを感じている度合いが高まっている人が増えているのでしょう。人は、「相手が自分の話を理解してくれていること」がわかると安心できますが、マスク姿だとわかりにくく、それがストレスになっています。「受け入れてもらっている」と想像すれば、ストレスは和らぐと思います。
マスクを外してもいい環境では思いっきり深呼吸をしてほしいです。子どもたちにとっては、楽しみにしていた行事が中止になってしまうなど、影響が大きかったと思います。そうした中で、「今は有事であり、貴重な体験ができている」と思うようにすることもストレス緩和の方法です。例えば、外食できないので普段は食べないようなお取り寄せをして家族でおいしくいただくなど、楽しいことにすり替えていくといいと思います。
コミュニケーションの在り方は進化していくものだと、私自身も初めて実感しています。何ごとにもメリットとデメリットがあるように、リモートと対面にも両方があります。デメリットは、実際に会えないと話が広がらないこと。でも、だからこそ会えることが貴重なのだとわかりました。
メリットは移動に時間がかからなくなったことです。私は長野県に住んでいるので、講演や打ち合わせに行くのに、往復10時間ぐらいかかる日が多かったのですが、リモートになってから移動時間がゼロになりました。家に居ながら打ち合わせや講演、個人セッションもできるようになり、10時間を別のことに使え、体力の消耗も減りました。
どんなことにも一長一短あるので、良いところを生かしつつ、足りない部分を埋めていけばいいのではないかと思います。
誰でも無限の可能性がある
“結果の奴隷”にならずに挑戦していこう
私は誰でも無限の可能性があると信じています。何かを実現してみたいと思うとき「それは難しい」とか「それは無理」と思わずに、「やってみなくちゃわからない」と思うようにしています。
やってみてもすぐにはうまくいかないけれど、それでも「まだあきらめるのは早い」と自分に言い聞かせます。やりたいという気持ちがあるのであれば、“結果の奴隷”にならずに挑戦し続けるようにしています。頭の中で「無理だろう」との思いがあっても、やり方を変えれば実現できる方法もあると思います。
わが子に対して心がけているのは、大人の先入観で却下しないこと。却下してしまうと、次に何か思いついた時に言ってくれなくなってしまいますからね。私は危険なこと、命に関わること以外は、「わが子がどんなことを言っても応援する」と決めています。もちろん、言いたいことはたくさんありますよ。「それちょっと、お金がかかるのでは」「その進路では稼げないのでは」とか……(苦笑)。でも、それを胸の中でグッとこらえて「へー、楽しそうだね。じゃあ、どうしたらそれができるか一緒に考えてみようか」と考えることを促します。相手の欲求に合った言葉がけをするといいですよね。
わが子も公文式学習で学んでいましたが、プリントをやらせたいときは「先にやったら安心して遊べるよ」、終わったときは「今日もがんばったね」と声かけしたり。教室からいただいた賞状を家の中に貼ったりして、子どもの喜びを強化することも大事にしていました。
前編でもお伝えしたように、「言葉」はとても大事です。どう声がけするかで相手は不安になったり安心したりします。子どもも学校で勉強してきて疲れているので、私は帰宅したら「お疲れさま。今日は何を飲む?」と、まず労います。そうすると子どもも落ち着きます。頃合いを見計らった上で「宿題はあるの?」などと聞きます。
「早くやりなさい」というと、本人はわかっていることを言われているので当然、反発しますよね。「やらなくてもいいんだよ」というと、「いや、やるよ」と自分から進んでやることもありました。完璧でもいいし完璧でなくてもいい。どちらでもいいと、両極をゆるすようにしています。
親の役割は、どんな世の中になっても、子どもがちゃんと生きていけるよう力を与え、支えることだと思います。子育ては葛藤の連続ですが、一緒にがんばっていきましょう。
誰もが「心のトレーニング」が
できる環境を整えたい
加藤さんからのメッセージ 「どんな自分も大切な自分」 |
私は夢は大きくなくてもいいと思っています。よく大人は子どもに「大きくなったら何になりたい?」と問いかけますよね。そう問うと、子どもは職業を答えるようになりますが、「身近な人に元気でいてほしい」という夢でもいいと思いますし、いくつあってもよくて、いつ変わってもいいと思います。
「夢がない」場合は、好きなこと、楽しいことをリストアップして「どうして楽しいのか」を考えていくといいのではないでしょうか。そしてその要素がある仕事や生き方は何かを考えていくと、見えてくると思います。
私自身の夢は、どこでも誰でも「心のトレーニング」が学べる環境を整えることです。今の学校教育では5教科の学習がメインですが、心のトレーニングも重要な位置づけとして学習できたらと思います。
2022年にくもん出版から『メンタルトレーナーから学ぼう』の3シリーズを発刊しましたが、心のトレーニングをプリントにするなどして、心の学習教材も開発してみたいですね。公文式のいいところは、年齢に関係なくその子にあわせてレベルアップできることですが、心のトレーニングも年齢に関係なくワークシートにできると思っています。書店に「脳トレ」コーナーがあるように、「心トレ(こことれ)」コーナーをつくることも、実現したいことのひとつです。夢は進化するものですから、これからもやりたいと思うことをどんどん行動してカタチにしていきたいですね。
自分の心の取り扱い方法を知れば、苦しい時間は減ります。安心感や穏やかな満ち足りた感覚は、自分の考え方がもたらすものです。どんな人にも、どのような環境であっても、心の平安を持ち続けられるように、これからも応援していきたいと思います。
最後に、心が苦しくなったとき、心が元気になるコツを一部紹介しましょう。
・心臓(胸)に手を当てて自分の呼吸を感じる
・相手にもやもやしたとき、相手に言ったつもりで紙に書き出し破る
・「今日のよかったこと」を3つ見つける
……などです。「よかったこと」は、朝に見つけると、その日一日快適に過ごせますし、「いいこと」を見つけようという意識になるのでおすすめです。
私は2年ほど前から「出会ったみなさん、ありがとう」と、1日100回心の中で唱えています。続けていると、「意識を変えると人生が変わる」と実感します。意識の変え方は「感謝」が最強です。感謝していると見えない力が働くのか、イガイガしたものが溶けて様々な関係性がよくなります。ぜひ、心に元気がないなと感じたら、思い出して試してみてください。
関連リンクメンタルトレーナー 加藤史子 公式サイト メンタルトレーナーから学ぼう 書いてスッキリ心が元気になる方法 ①心や感情のしくみを知ろう メンタルトレーナーから学ぼう 書いてスッキリ心が元気になる方法 ②友だち関係がよくなる技 メンタルトレーナーから学ぼう 書いてスッキリ心が元気になる方法 ③夢をかなえる方法
前編のインタビューから -「心の健康」の鍵とは? |