パリでインターンを体験
「輪島塗」と伝えても全然売れず……
![]() インターン先のギャラリーでの様子 |
一浪ののち晴れて大学には合格したものの、私のように具体的なビジョンをもって入学する人は周囲に少なく、友人もできず、それこそ退学すら考えました。ところがやがて、大学の枠を超えた国際貢献などをする団体に所属して、東京にいる意味を見出せるようになりました。
そして大学生活が一変したのは、大学2年から始まったゼミがきっかけです。幸運にも「輪島塗のマーケティング研究」を専門にされている先生が自分の大学にいらしたんです。そのゼミに入ってビジネスコンテストに出場したり、輪島キリモトを題材にしたフィールドワークをしたり、充実したゼミ活動を続けていました。
その過程で、「日本の市場だけを見るのではだめだ。売るためには海外を視野に入れなければ」ということを感じるようになりました。「モノにはエネルギーがあり、人の感情を動かす」と思っていたので、「海外で輪島塗が人の感情を揺り動かす瞬間を見たい」という思いがわき上がったんです。
それで大学4年のとき、文部科学省の「トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム」に応募しました。これは意欲のある若者の海外留学を支援促進する制度で、私は「パリで日本の伝統工芸を世界に通用するブランドへ。モノづくりの革新によって日本の地方に活力を。」をテーマに応募して、採用されました。留学先をパリに選んだのは、パリが世界のライフスタイルの発信地で、伝統と革新のバランスがいい都市だと考えたからです。
パリではインターンとして、日本文化を発信するギャラリーで販売を任されました。ところが、「輪島塗」と訴えたところで全然売れません。「輪島塗だからいいものだ」と思っていた自分の愚かさを思い知らされました。
リサーチを重ね、フランスの人たちが求めるのは、素材が何で、なぜそれを使ったのか、作り手の思いといった「人の感性に寄り添ったコミュニケーション」だということに気づきました。そうして見せ方、使うシーンの説明、洗練された文章など発信の仕方を変え、渡仏から8ヵ月経ってようやく売れるようになりました。
うれしかったのは、エルメスの若手デザイナーがお客さんとして来てくださり、私の話を聞いてすぐ輪島に行ってくれて、輪島キリモトの職人さんたちと交流し、好みのものを買ってきてくれたこと。「やはりモノがもつエネルギーというのはある。輪島キリモトの職人さんたちの仕事は世界で戦える」と、勇気をもらいました。