*松川るいさんのご所属・肩書等は、インタビュー当時(2015年3月)のものです。
「自分は愛されている」という自己肯定感が私を前に進ませてくれている

いまはさまざまな会議でお話しするなど、人前に出る機会が多くなりました。人前で作文を読むことすら苦手で避けていた、幼いころのわたし(前編参照)からはだいぶ変わりました。もちろん、そのきっかけをつくってくれたのは、大親友の“めぐちゃん”なのですが、ふり返ってみると、もうひとつ大切なことがあると思っています。それは、「自分は愛されている」という気持ち。自己肯定感です。そして、その気持ちを育んでくれた両親の存在です。
自分が大切に思う人、自分が愛する家族とのあいだにしっかりした絆があれば、わたしは他人から何を言われても大丈夫だと思っています。そう思えるのは、たぶん、わたしが愛されて育ててもらったという実感があるからです。自分のことを絶対的に愛してくれる存在である両親がいることを知っているから、辛いことや悩むことはあっても、これまで前へ前へと進むことができたのだと思います。
だから、ふたりの子どもたちにも、「両親から愛されている」と心から感じてほしいのです。わたしの場合は仕事柄、子どもといっしょにいる時間が長いわけではないので、なるべく濃いコミュニケーションをしようと心がけています。子どもたちには、わたしがあなたたちのことを大切に思っている気持ちを明確な言葉にしていつも話しています。「ママの大切な〇〇ちゃん」「〇〇ちゃん、だ~いすき」と、もう臆面もなくベタベタの言葉をたくさん言っています。「ママはね、こう思う」と、自分が考えていることは、できるだけきちんと理由をふくめ説明もします。
わたしは、父や母が自分たち姉妹にかけてくれた言葉をいまでもとてもよく憶えていますし、それが支えになっていることが多々あります。だから、心のなかで思っているだけでなく、口に出して、言葉で伝えることはとても大切だと思うのです。
「どんなに仕事が立派でも、子どもがちゃんとしていなければ何にもならない」。これは、わたしの母がよく口にしていた言葉です。それを聞いて育ったからでしょうか。親は子どもをちゃんとした人間に育てないといけない。そういう信念がわたしのなかにあります。そうはいっても、仕事も家事も完璧にこなせるはずもなく、そうしようともぜんぜん思っていません。わたしはスーパーワーキングマザーではないので、家事も育児も、お任せできるところは専門の方にお任せするようにしています。
「仕事がこんなに忙しいのに、お子さんふたりも育ててすごいですね」と感心されることもありますが、それは、わたしだけががんばってもできることではありません。保育園や家族の協力があってこそだと思います。「男女の家庭内での固定的な役割意識と長時間労働。この2点が、日本の女性の社会進出を阻む最も根本的な障壁です」という話をよくさせていただきますが、そのとき必ず、よくない例として「うちの夫が典型例で……」と付け加えます。
というのも恥ずかしながら、うちの夫は「お皿を洗ってね」と言ったら、ほんとうに(わざと?)「お皿だけ」しか洗わないような、男子厨房に入らずの人なのです。調理器具やグラスはそのまま。このエピソードをお話ししたキャロライン・ケネディ駐日大使には、お会いするたびに「あなたの“お皿洗いハズバンド”はどうしてるの?」なんて聞かれたりするほどです(笑)。蛇足ながら、夫の名誉のために申しますと、わたしが職務復帰して1年近くたった現在は、お皿「以外も」洗うようになっています。日々、進歩しています。家政婦さんやシッターさんを毎日雇えるなら別ですが、夫が家事・育児を然るべく「分担」するようになってこそ、女性が継続して働き昇進するというのも日常的なことになると思います。