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Vol.077 2024.02.16

朝日大学 経営学部経営学科・英語教育センター教授
亀谷 みゆきさん

<前編>

英語を使って
何ができるようになるかという
目標設定

朝日大学 経営学部経営学科・英語教育センター教授

亀谷 みゆき (かめがい みゆき)

岐阜県生まれ。朝日大学経営学部経営学科・英語教育センター教授。英語教育センター副センター長。専門は応用言語学(英語教育)。1989年より英語科教員として岐阜県立高等学校に勤務。2016年に朝日大学准教授に着任して以来、学内の英語教育改革を担当。文部科学省における高等学校学習指導要領解説など多くの委員を務める。また自治体の英語指導力向上アドバイザーを歴任するとともに、全国各地で行われる英語教員研修の講師としても活躍している。

「英語の授業は英語で行う」英語教員の第一人者として、30年以上にわたり英語教育に携わってこられた亀谷みゆきさん。大学における英語教育改革に尽力する一方で、国の英語教育施策検討のための委員や自治体の英語指導力向上アドバイザーとして、全国を飛び回る多忙な日々を過ごしています。
「英語は使いながら学ぶことが大切」だと言う亀谷さん。劣等感を覚えることもあったというご自身の学生時代の英語習得の経験から、英語教員として大切にしてきたこと、そして英語教育研究者として考える日本の英語教育の課題などについてお話しいただきました。

目次

より良い英語の授業の実践と普及に尽力

私は27年間の高校英語科教員生活を経たのちに大学教員となり、現在は岐阜県にある朝日大学の経営学部経営学科・英語教育センター教授として、英語教育に取り組んでいます。大学院での専攻は言語科学で、外国語教育学が専門です。中でも英語の教授法について力を入れて研究をしています。

私が副センター長を務める朝日大学英語教育センターは、社会で活用できる英語力の育成を目標に掲げています。「聞く」「読む」「話す」「書く」という英語4技能の向上を図る授業づくりを目指して、全学における英語関連科目のシラバスや教科書を統一したのも、その活動成果の一つです。また英語科目の教員として、学生向けの授業も担当しています。教授法の向上には常に研鑽と実践が必要ですから、自らが直接学生と関わる授業の機会を大切にしているのです。

大学での仕事の他にも、さまざまな英語教育事業に携わっています。文部科学省における外国語教育推進に関する調査・研究には、高校の英語科教員の頃から協力をしています。「学習指導案」として全国の高校に配布されている「高等学校版 新学習指導要領に対応した外国語活動及び外国語科の授業実践事例映像資料」DVDには、私が高校教員時代に行った授業の映像が収められています。その後、大学教員に転じてからも「学習者用デジタル教科書の効果・影響等に関する実証研究事業有識者委員会」や「小・中・高等学校を通じた英語教育強化事業企画評価委員会」の委員などを務めています。

全国各地の自治体では英語教育推進アドバイザーをさせていただいており、現地で学校教員向けの研修を行うとともに、実際の授業を見せていただき、指導や助言を行っています。そして世界最大の非営利テスト開発機関である ETS(Educational Testing Service)が開発したテスト「TOEFL Junior®」と「TOEFL Primary®」を運営する、公文教育研究会GC&T事業推進部の顧問もお引き受けしています。

英語に夢中だった学生時代
子どもたちの笑顔のため教員に

私が英語に初めて出会ったのは、中学1年生の英語の授業でした。その当初から私の英語に対する興味関心は非常に強かったと記憶しています。英語を通じて触れることができる世界は、それまでの私が知らなかったことばかり。当時の私には、英語はまさに「新しい窓」のように感じられたのです。英語という窓を通して広がる新たな世界に、私は魅了され、そして夢中になりました。

そんな私が大学に進学することになったとき、高校2年時の担任でもあった英語科の先生が、「それほど英語が好きなのであれば、大学ではE.S.S.(English Speaking Society/大学のクラブ活動)に入って、英語に触れる機会を作ってみたらどうか」とアドバイスしてくれました。この先生は、のちに私が母校で教育実習をする際に、私の指導教官を務めてくださることになります。

大学に入学して間もなく、私は先生のアドバイス通りE.S.S.に飛び込みました。しかし、そこで私は大きな衝撃を受けることになりました。E.S.S.には帰国子女や幼いころから英語に慣れ親しんでいる学生が多かったこともあり、中学・高校の授業だけで学んできた私の英語のレベルとE.S.S.で使われている英語のレベルとの差がとても大きかったのです。例えば、顧問の先生や先輩方が部員たちの前でお話をされる際、他の部員が一斉に笑い出すようなタイミングであっても、話がよく理解できない私は、周りと同じタイミングで笑うことができませんでした。

そんな挫折と劣等感の中で始まったE.S.S.での日々でしたが、どうしても英語が使えるようになりたいという一心だった私は、往復4時間の通学電車の中でひたすらディクテーションに取り組むなど、E.S.S.の活動に打ち込みました。そして、そんな日々の努力は次第に実を結び始めました。

よく覚えているのは、2年生になる直前の春合宿のことです。舞台でニュースキャスターの役を演じていた私に、普段から厳しく指導をしてくださっていた先輩が、“Miyuki, you can do it!”(みゆき、できるようになったじゃない!)と声をかけてくれたのです。その時は本当に嬉しかったですね。特にその役のセリフは、私が発音に苦労していた“world”という単語から始まるものだったこともあり、とても強く印象に残っています。

その後の私は、授業はそっちのけでE.S.S.の活動に没頭する一方で、長期休暇のたびに海外に足を運ぶようになっていきます。そして英語を使って互いの思いや考えを伝え合うことの喜びや、英語という窓の外に広がる世界に実際に足を踏み入れる経験を重ねる中で、私の中で英語の教員になりたいという思いは次第に大きくなっていきました。

大学4年生での就職活動では、英語を使った仕事で社会貢献がしたいという思いから、教員採用試験と並行して航空会社の採用試験を受け、内定をいただきました。客室乗務員も英語教員も、どちらも大好きな英語を活かせる仕事で、そして「笑顔」が大切な仕事であることも共通でした。客室乗務員の笑顔は搭乗するお客様のために、教員の笑顔は子どもたちの笑顔のために。

最後まで本当に悩んだ仕事選びでしたが、最後は英語教員になることを決断しました。今振り返ってみると、子どもたちの笑顔のために仕事ができる教員の道は、自分の生き方に合っていたと思います。それから30年以上、私は英語教育に携わってきました。英語教員として関わった多くの教え子たちと築いてきた信頼関係は、私の何よりの財産となっています。

日本の英語教育に必要なのは
「使いながら学ぶ」こと

そんな経緯で英語の教員になった私ですが、実は大学4年次の教育実習の時、革新的な英語教育に取り組むことになったのです。母校での教育実習の指導教官が、大学でのE.S.S.入りを勧めてくださった先生だったことはすでにご紹介しましたよね。その先生が、まだ教員免許もない実習生である私に、「せっかくE.S.S.で英語を扱うことに抵抗がなくなったのだから、教室の中で生徒も先生も英語を使う授業をしてみなさい」と言うのです。

しかし私自身がそのような授業を受けてきたことがなく、今まで受けてきた授業の中にはヒントがありませんでした。そこで、指導教官の先生と一緒にいろいろな教授法の本を読みながら授業案をつくり、2週間の実習期間を、生徒も先生も英語を使う授業でやり遂げたのです。この経験が、その後の私の授業スタイルの原点となりました。

高校教員となって最初の赴任先は国際コースのある高校だったこともあり、私は「英語の授業は英語で行う」ことになりました。そしてその後の赴任先でも、行く先々で「英語の授業は英語で行う」というスタイルがずっと続きます。初めにご紹介した、全国の高校に配布されている「授業実践事例」DVDに収められているのは、このころに実際行った授業を録画した映像です。

そのような授業をつくるためには、私自身も常に教授法について勉強し続ける必要がありましたが、そんな経験が、高校教員でありながら文部科学省の「高等学校学習指導要領解説外国語編・英語編」作成のような国の仕事に関わらせていただいたことや、現在携わる英語教育改革や授業づくりにつながっているのではないかと思います。

外国語の教授法はまだまだ発展の途上にあります。ですから私たちは、今ある教授法をこれでよしとするのではなく、常に最適解を追い求めることが必要なのですが、「使いながら学ぶ」ということが、その際の大切なポイントの一つだと、私は考えています。言語習得の過程で大きな達成感を味わうことができるのは、実践の機会においてです。また言語は、実際に使うことで、正確さや語彙力が後からついてくるという面があります。しかし日本においては、英語の修得に必要な実践の機会が、家庭や個人の裁量に任されてきた部分が大きいのです。ですから子どもたちが達成感を持ちながら英語を学び続けるためにも、そして英語力を高めていくためにも、学校の授業の中にもっと実践の機会を設けることが必要でしょう。

実際に国が定める学習指導要領もそのような方向に向かっています。先般、2023年の全国学力調査の結果が公表されました。この調査では4年ぶりに中学校の英語も調査対象となったのですが、その結果は、スピーキングの平均正答率が12%にとどまり、特に「話す」「書く」に課題があるというショッキングなニュースとして報道されました。しかし、私は日本の中学生の能力が落ちているとは考えていません。

このテストで測定される英語力は、以前に行われた同様の学力調査に比べると、どのように英語を使うのか、英語を使って何ができるかといったことを、より実際のコミュニケーションに則した形で問う内容に変化しています。ですからこの結果は、子どもたちの能力の問題ではなく、学校で行われている授業内容が、国が求める授業デザインに追いついていないという見方ができるのです。

後編を読む

 


 

 

後編のインタビューから

-TOEFL®で「英語で何ができるのか」を可視化しよう
-公文の英語のよいところは 「好き・楽しい」と「動機付け」
-大切にしているのは「可能性を決めつけない」こと

後編を読む

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