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Vol.073 2023.02.03

特別対談 棋士 藤井 聡太さん

<前編>

終わりのない将棋の極みへ
可能性のある限り
一歩ずつ上を目指していきたい

棋士

藤井 聡太 (ふじい そうた)

2002年生まれ、愛知県瀬戸市出身。師匠は杉本昌隆八段。2016年に史上最年少の当時14歳2ヵ月で四段昇段(プロ入り)を果たす。2022年には最年少五冠を獲得し、現在は「竜王」「王位」「叡王」「王将」「棋聖」のタイトルを保持。

2016年の棋士デビューから瞬く間に頭角を表し、無敗での公式戦最多連勝記録(29連勝)を樹立。最年少記録を次々と塗り替えながら、2022年現在、5つの将棋タイトルを保持する、将棋界を代表する存在となった藤井聡太竜王。そんな藤井さんの将棋の原点が、じつはくもん出版の「スタディ将棋」でした。藤井さんが頂点を目指して、一歩一歩積み上げてきたこれまでのあゆみと、公文式学習の共通点を、公文教育研究会 代表取締役社長の池上秀徳との対談を通じて探ります。

目次

「スタディ将棋」がきっかけで将棋にのめり込む

公文教育研究会 池上(以下、池上):
本日はよろしくお願いします。藤井さんは棋士として輝かしいご実績をお持ちで、各地を回るタイトル戦など、たいへんお忙しい日々を過ごされていると思いますが、普段はどのような日常を過ごされているのでしょうか。

藤井聡太竜王(以下、藤井):
こちらこそよろしくお願いします。棋士の藤井聡太と申します。
棋士ということで、普段はだいたい週に1回ぐらいのペースで将棋の対局をしています。それ以外の時は将棋の勉強をして、対局に備えています。棋士は自由に時間が作れる一面もありますので、たまには息抜きもしながら日常を過ごしています。

池上:
藤井さんは将棋に触れたきっかけがくもん出版の「スタディ将棋」だと伺っております。

藤井:
5歳頃のことですが、祖母と「スタディ将棋」で遊んだことが将棋を始めたきっかけでした。祖母から将棋のルールを教わったわけではなく、祖母も初心者だったので、一緒に遊びながら覚えていきました。
「スタディ将棋」は駒そのものに動かし方が矢印で描かれているので、将棋のハードルを下げてくれて初心者でも始めやすかったです。

池上:
お祖母様と「スタディ将棋」で対局されていかがでしたか?

藤井 聡太さん藤井竜王が懐かしみながら指す、当時の「スタディ将棋」。
当時の駒の形は四角形だった。
現在の商品(「NEWスタディ将棋」)は
駒の形も本将棋と同じに五角形になっている。

藤井:
祖母は本当に初心者でしたので、最初の頃から私の方がたぶん勝っていたと思います。
祖母相手ではありましたが、将棋で互角に戦って勝つ経験を小さい頃からできたことは、すごく楽しかった思い出があります。当時はとても負けず嫌いでもありましたから。
やがて今度は祖父と対局するようになり、もちろん最初は勝ったり負けたりのレベルでしたが、そのうち祖父にも勝てるようになりました。そして次のステップとして、祖母が地元の将棋教室を探してきてくれて、通うようになりました。
「スタディ将棋」がきっかけで将棋に夢中になって、勝てることの嬉しさを身に付けて、だんだんと将棋そのものの面白さに気づいて、のめり込んでいきました。

池上:
将棋を覚えてだんだん強くなって、さらに強い相手と切磋琢磨できる将棋教室という場に出合ってさらに将棋が好きになられたということですね。
初めて将棋の大会に出られたのはおいくつぐらいの時だったんですか。大会に出始めた頃はすでにお強かったのでしょうか?

藤井:
おそらく6歳ぐらいの時の大会だったと思います。大会に出始めたのは小学生になる前で、その時は小学校低学年の大会に出ていたのですが、まわりは年上ばかりで最初はなかなか勝てませんでした。

池上:
藤井さんでもそうだったのですね。

藤井:
ええ。それが小学1年生になって、少しずつ上に勝ち進めるようになって。

池上:
藤井さんは詰将棋でもたいへん有名で、詰将棋解答選手権でも実績をあげられています。将棋教室では詰将棋もすごく勉強されたそうですね。
※詰将棋(つめしょうぎ)……将棋のルールを用いて、駒が配置された将棋の局面から、相手の玉将を詰めていくパズル。

藤井:
詰将棋を通じて基礎を練習できたことがすごく良かったのかなと思います。

池上:
公文式学習は、基礎からスタートして、少しずつステップを踏みながら学習を高いレベルまで進めていくのが特長でもありますが、藤井さんもご自身の能力を高められるために日々の振り返りや積み重ねというところを大事にされているのでしょうか。

藤井:
はい、そうですね。たとえば公式戦の対局では、やはり必ずどこかでちょっと良くなかったかなという反省があって、ではなぜその手を指してしまったのかを考える、というところで自分の今の弱点を知ることができます。それを把握した上で、「じゃあどうするんだ?」「改善できるのか?」ということを積み重ね、考えながら取り組んでいます。

勝ったり負けたりを繰り返しながら、少しずつステップアップ

勝ったり負けたりを繰り返しながら、少しずつステップアップ

池上:
公文式学習では数学、英語、国語の教科別に学習の進み具合を示す「進度」というものがあって、進度が上がっていくことで子どもたちに達成感が生まれて、それがより頑張るための励みにもなります。
将棋でも級位や段位がありますが、藤井さんも強くなるにつれて段位が上がっていくという喜びを感じられてきたのでしょうか?

藤井:
私が最初に地元の将棋教室に通うようになった頃は20級からのスタートでした。でも、通い始めて1年ぐらいで4級まであがりました。1ヵ月で1級以上のペースだったので、やはりそれはすごく励みになったと思います。

藤井 聡太さん

池上:
すごい昇級ペースですね。藤井さんは、将棋教室から地元の強い子どもたちが通う東海エリアの研修会に行かれ始めたと伺いました。
いくつぐらいからですか?

藤井:
小学1年生の終わり頃、ちょうど2年生になる前ぐらいだったと思います。
その当時は、まだアマチュアの初段ぐらいで、地元の教室ではかなり上の方になっていたんですが、やはり研修会に入るとまた勝ったり負けたりを繰り返して……。とくに研修会だと棋士の方の指導対局を受けられたりするので、より強い方と対戦する機会がとても増えました。

池上:
ひとつのグループの中で一番強くなるとそのグループの中ではもう相手がいなくなって、次の強いグループに進む。そしてまた一から勝ち負けを積み重ねて……、地元の教室、研修会、奨励会、そして棋士とステップを踏んで、さらに強くなっていくというステップを上っていかれたのですね。

藤井:
自分としては、研修会に入る時期も奨励会に入る時期も、「ちょうどよかった」のだと思っています。前のグループよりレベルが上がると、最初はついていけないことがほとんどです。ところが、上のグループに進んで教わるレベルが上がると、もちろん最初はなかなか勝てませんが、勝ったり負けたりを繰り返しながら、少しずつステップアップすることができました。

池上:
藤井さんのおっしゃる「ちょうどよかった」というお話にすごく共感します。KUMONの教材にも進度があるとお話ししましたが、わたしたちも「ちょうど」という考え方をとても大切にしていて、それは藤井さんのおっしゃるステップアップにつながる「ちょうど」なんですね。「ちょうど」といっても、自分にとって楽にできるというレベルに留まるのではなく、少し頑張らなきゃいけないぐらいのところまで含んだ「ちょうど」なんです。
易しいばかりだとつまらないし、難し過ぎても手が届かない、でもちょっとがんばれば手が届くという環境に入るとそこで頑張れる、ちょうどの積み重ねこそ、伸びていく秘訣かなと思うんです。

将棋AIを活用しながら鍛錬の日々を積み重ねる

将棋AIを活用しながら鍛錬の日々を積み重ねる

池上:
KUMONは人間の可能性は測り知れないものであるという考えを持っていて、子どもたちには自分の可能性に限界を設けないでどこまでも伸ばしてほしいと思っています。可能性を伸ばすフィールドや方法は人によってそれぞれ違うでしょうけれど、藤井さんは将棋でご自身の可能性をさらに伸ばすための努力をどのようにされているのでしょうか。

藤井 聡太さん

藤井:
自分としては、強くなることで、今までと違う考え方や新しい見え方が発見できると思っていて、そこにおもしろさを感じています。努力の先にある自分自身の楽しみを感じていたいなと思います。
将棋を始めたての頃であればあまり意識せずとも、対局を通じて少しずつ強くなることができますが、だんだん強くなってくるとそれ以上伸ばすのが難しいところが出てきます。その場合は自分の弱点や課題をしっかり知ることで、より効率よく強くなる道が開けてきます。
たとえば負けてしまった対局というのは、必ずどこかでミスが出てしまっているものです。その課題をしっかり振り返るということが大事なのかなと思います。
幸い最近は、将棋AIの存在など強くなるための環境が整ってきて、それがすごく有用なツールになってきております。もちろん私も活用しております。
それまでは将棋を勉強するために、実際に対人で指すことはもちろん、詰将棋もありましたが、近年はAIが非常に強くなったので、これが新たな将棋の勉強法となっています。AIをどう活用すればより強くなれるか、ということを棋士の皆さんがそれぞれ考えながら取り組まれています。

池上:
将棋AIは将棋の世界に大きな影響を与えてきているのですね。最近は将棋の対局をリアルタイムで観ることができる機会が増えてきましたけど、どちらが優勢かをAIが示したり、次の候補手をAIが挙げたりすることもあります。藤井さんの指し手はAIとかなり一致することが多いですね。

藤井:
私自身は長い持ち時間の対局ですと、なるべく一手ごとに考え直して、というのは少し意識しています。

池上:
よく聞かれるご質問だと思いますが、藤井さんは何手ぐらい先まで読まれるのかなと。

藤井:
そうですね、やっぱりその局面による部分がかなり大きいです。次の一番良い手を探すために深く考えることになるので、そのためにさらにその先まで読みます。逆に深く読んでもなかなか明確な判断が出せるような局面でなければ、やっぱりある程度のところで形勢判断に移ることになるので、一概に何手先までというのは難しいです。
けれどもやはり終盤ですと、ここ数十手先までの局面の判断が勝ち負けに直結する、という状況もあるので、そういう時だと先を読めるだけ読む、という感じです。

藤井 聡太さん

池上:
藤井さんの読みのスピードと量は桁違いだと、他の棋士の方が評価されていますけど、とくに終盤とかはもう最後の詰みのところまで読まれる感じですか。

藤井:
将棋の終盤は非常に複雑なので、はっきり分かるということはなかなかないんですけど、自分としてもできる限りやっぱり何とか深くまで読みたいと思っています。

関連リンク 日本将棋連盟                                 棋士 羽生善治さん|KUMON now! OB・OGインタビュー女流棋士 カロリーナ・ステチェンスカさん|KUMON now!OB・OGインタビュー棋士 谷合廣紀さん|KUMON now!OB・OGインタビュー


藤井 聡太さん  

後編のインタビューから

-AIでは測れない人間同士の対局だからこその学びもある
-自分の可能性を新たに知ることがモチベーションに
-今の自分より明日の自分を積み重ねてさらなる高みへ

 

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