スペシャルインタビュー
Academic Milestones - 学びを究める力

2019/10/11更新

Vol.057 中部大学 副学長 国際センター長
辻本雅史先生  前編

くり返しによる「学びの身体化」
その学びは本物になる
学び続けて生涯自分を成長させよう

辻本 雅史 (つじもと まさし)
1949年愛媛県生まれ。京都大学大学院教育学研究科博士課程(教育史専攻)単位取得退学。光華女子大学、甲南女子大学教授を経て、京都大学教育学部助教授および教授、同大大学院教育学研究科教授を歴任。2012年早期退職後は京都大学名誉教授に。同年9月からは国立台湾大学日本語文学科教授に就任。2017年8月より現職。著書に『近世教育思想史の研究』(思文閣出版)、『教育を「江戸」から考える―学び・身体・メディア―』(日本放送出版協会)、『学びの復権』(角川書店、岩波現代文庫増補再刊)など多数。

儒学思想の視点から、現代の日本の教育課題を読み解く辻本雅史先生。江戸時代の教育は、今の学校教育とは異なり、「教える側」ではなく「学ぶ側」が主体で、学ぶ内容も一人ひとりの目的やレベルによって違っていて、それこそが学びの自然な姿だといいます。そんな江戸時代の学びの原理と公文式の学習スタイルには、多くの共通点があると指摘します。辻本先生の目には、現代の教育はどう映っているのか。教育改革が叫ばれる今、日本の教育に必要なことは何か、大人は子どもをどう導けばいいのか、歴史を学ぶ意義を踏まえながらお話いただきました。

くり返しで自分の身体に取り込むと自分のものになる
「学びの身体化」を実践している公文式

こうした江戸時代の学びの原理に、とてもよく似ているのが公文式の学習システムといえます。しかし、じつはかつて、私の息子が小学校低学年の頃に「公文の教室に通いたい」と言ったとき、「人間計算機になってどうする」と即座に否定しました。計算をくり返すことで、「算数の計算を早くこなせるようになる」教室だと勝手に解釈していたのです。

当時、まだ若い教育学者だった私は、「ものごとをただくり返して暗記するような教育は良くない。丸暗記しても意味がわからなくてはダメだ」と思っていました。しかしその後、考えを改めたのは、益軒先生のお陰です。益軒先生の著作を読み込み、意味や理論がわからなくても、まずは「型を覚える」ことで、やがて理論が自然に身につくようになると理解したのです。

江戸時代においては、儒学の学び方として、6~7歳で「論語」を丸暗記させていました。これを「素読」といいます。意味がわからなくても暗記することで、スラスラと言えるようになるのです。たとえば九九は、暗記したらそのあとは考えなくてもリズムにのって出てきますよね。そうなるのは、身体の中に知が浸みこんでいるからです。

私は「暗記する」ことを「学びの身体化」といっています。暗記する、すなわち「身体化」したものは、自分のものになります。自分のものになれば、それを使って考えたり表現したりすることができます。「考える」というのは、言葉がなければできないことですから、自分のものになった言葉を使って考えることができるわけです。

それで「暗記は大事」と考えるようになりました。ただ大切なのは、何を暗記するかということです。たとえば、「論語」は孔子の言葉を弟子たちが書きとめたものですから、論語を暗記すれば、「聖人」孔子の深い意味がこめられた言葉を使って考えるようになります。同じように日本人の豊かな感性が表現されている「百人一首」を身体化すれば、感性豊かに表現する言葉が身につくようになります。言葉は「心の容れ物」と私は考えています。

計算の場合、たとえばかけ算を反復していると、原理を知る以前に反射的にできるようになり、やがてかけ算の原理がわかってきます。スモールステップでプリントをくり返す公文式の特徴のひとつでもあります。さらに公文式では、先生は教えずに、子どもたちが自主的に自分のレベルにあったプリントを、自分のペースでくり返しています。これらも江戸時代の学習法と原理的に共通しています。

生涯学び続けることができる仕事の素晴らしさ

関連記事

2019/10/18更新

Vol.057 中部大学 副学長 国際センター長
辻本雅史先生

くり返しによる「学びの身体化」で その学びは本物になる 学び続けて生涯自分を成長させよう

2019/11/01更新

Vol.058 早稲田大学 教育・総合科学学術院 教授
澤木泰代先生

言語を学べば、 知らなかったことを知ることができる 一歩一歩、「知るよろこび」「進むよろこび」を味わおう

2017/02/17更新

Vol.041 宇宙飛行士 山崎直子さん

興味を温めていれば やがて道はつながる 自分がいる今を大切に歩もう

2017/05/12更新

Vol.043 海洋冒険家 白石康次郎さん

自分の幸せのために 思いの方向に舵を切ろう

2018/06/01更新

Vol.054 「輪島キリモト」8代目 ブランドディレクター
桐本滉平さん

過去の自分を超えていく 実感をもとに伝えていきたい 輪島塗と漆の魅力

バックナンバー

2020/08/28更新

Vol.063 往来物研究家
小泉吉永先生

江戸の知恵には学びがあふれている “好き”をとことん掘り下げて 出会いを引き寄せよう

2020/05/08更新

Vol.062 筑波大学国際発達ケア:エンパワメント科学研究室教授・保健学博士
安梅勅江先生

「エンパワメント」の力が 「みんなが夢を持てる世界」を実現する

2020/04/03更新

Vol.061 臨床心理士、国際TA協会公認交流分析家
末松渉先生

「心の危機」は成長の機会でもある 「学ぶ喜び」を知って 「生きる力」にしていこう

2020/02/21更新

Vol.060 合同会社MAZDA Incredible Lab CEO
松田孝さん

プログラミングをきっかけに 未来社会に向けて 「新しい学び」を獲得していこう

2020/01/10更新

Vol.059 慶應義塾大学医学部
精神・神経科学教室専任講師・医学博士
佐渡充洋先生

「ネガティブな自分」を 理解することは「ポジティブな学び」 楽しいことも苦しいことも一生懸命体験しよう

記事アクセスランキング

おすすめ記事 Recommended Articles
KUMONトピックス
Feature Report 進化し続ける活動
カテゴリーを表示
NEW
Vol.371
公文式フランス語最終教材修了生から見る
自立した学習者の姿とは?
フランス語を学習したことが 日常生活の豊かな彩りに
Vol.370
浮世絵から見える江戸時代の人々「重陽の節句」
大輪の菊に健康と長寿を願う ~人々の暮らしと「重陽の節句」の関係~
Vol.369
特別企画 子育てのヒント‐「自立」のためにできること(2)
子どもの自立に「甘え」は欠かせない 「甘えさせる」と「甘やかす」の見極めが大事 お話:子育てカウンセラー・心療内科医 明橋大二先生
Vol.368
~創始者公文公の言葉より~
    公文式の原点⑤            <学年を越えて進む>
OB・OGインタビュー
Catch the Dream 夢をかなえる力
NEW
Vol.072 後編
読売巨人軍 球団職員
矢貫俊之さん
行き詰まっても逃げないで あきらめずにぶつかって 答えは自分で見つけよう
Vol.072 前編
読売巨人軍 球団職員
矢貫俊之さん
行き詰まっても逃げないで あきらめずにぶつかって 答えは自分で見つけよう
Vol.071
アート・トランスレーター
田村 かのこさん
今ある“型”にはまらなくていい 自分にできることを一つずつ進めていけば自ら“型”をつくることができる
Vol.070
文化遺産コンサルタント
佐々木義孝さん
「今の環境でしか出来ないこと」から 「その環境で自分が夢中になれること」 を探して、実践していくと、道は開けてくる
KUMON now! フェイスブックページ
KUMON now!に「いいね」して、子育てに役立つ情報を受け取ろう!