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Vol.041 2017.02.24

宇宙飛行士 山崎直子さん

<後編>

興味を温めていれば
やがて道はつながる
自分がいる今を大切に歩もう

宇宙飛行士

山崎 直子 (やまざき なおこ)

千葉県生まれ。1993年東京大学工学部航空学科卒業。1996年同大学航空宇宙工学専攻修士課程修了後、宇宙開発事業団(NASDA、現JAXA)に勤務し、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」のシステム・インテグレーション(開発業務)に従事。1999年2月、ISSに搭乗する日本人宇宙飛行士の候補者に選定され、2010年4月、スペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗。著書に『夢をつなぐ 宇宙飛行士・山崎直子の四〇八八日』(角川書店)、『宇宙飛行士になる勉強法』(中央公論社)など。

ロマンと謎に満ち、人々を魅了する宇宙。その宇宙で、日本人2人目の女性宇宙飛行士として任務を果たしてきた山崎直子さん。夢に向かって努力を重ね、宇宙飛行士候補者に選ばれましたが、搭乗まで11年を費やしました。その間に結婚・出産されるなど、働く母としての苦労や重圧もあったはず。それをどう乗り越え、夢を実現させてきたのでしょうか。

目次

「一緒に成長できる力」があるか?
どんな職業でも必要な力は同じ

宇宙飛行士 山崎直子さん

大学院卒業後はJAXAへ就職しましたが、配属先は国際宇宙ステーションのプロジェクトチーム。そこでものづくりをしている企業の方と一緒に仕事ができたことが、のちに活かされました。 “塞翁が馬”と言いますか、何が将来によく影響するかはわからないものだと思います。

社会人としての経験を積みつつ、「いつかは宇宙に」と思いを温めていた私は、社会人3年目に、JAXAが募集する「宇宙飛行士候補者」に応募、さまざまな試験を受け、合格することができました。

試験のひとつに「閉鎖環境テスト」がありました。つくば宇宙センターにある専用施設で1週間缶詰にされ、試験をくぐり抜けた8人で共同生活するのです。テレビや電話など、外部との連絡がまったくとれない中で、試験官から課題が出されます。意味のない文字をひたすらワープロで打ち込んだり、レゴを使ってグループでロボットをつくったり……個人作業と共同作業の両方の課題がありました。今思えば、新しいことに遭遇したときに、今までの知識を使って自分なりに工夫する力がどれだけあるか、どれだけ学んでいく“伸びしろ”があるかを見ていたのだと思います。

なぜ自分が宇宙飛行士に選ばれたかは……じつは成績は伝えられないので私もわかりません。ただ、現在後輩の面接に立ち会ってきた立場から大事だと思うのは、「伸びる力」や「一緒に成長できる力」です。この力は宇宙飛行士だけでなく、どんな職業でも大事だと思います。状況を把握して一緒に学んで成長できる人、伸びしろがある人が、どこでも求められるのではないでしょうか。

山崎さんが宇宙に行って感じたこととは?

宇宙船から見る地球は想像以上に美しかった

宇宙飛行士 山崎直子さん
スペースシャトル「ディスカバリー号」のミッドデッキにて、水の玉を見つめる山崎宇宙飛行士(C)JAXA/NASA

1999年に訓練を開始したときには、3~4年後に宇宙に行ければいいなという気持ちでしたが、結果的にスペースシャトル「ディスカバリー号」に搭乗できたのは、11年後の2010年でした。その間、宇宙飛行士の同期は3人でしたが、全員一緒に訓練するばかりでなく、ときには私だけ待ちの時間があったり、産休で離れたり、コロンビア号の事故で搭乗時期が延期されたりと、自分の力ではどうしようもないことがありました。

そういう時は、不安やもどかしさもありますが、自分でコントロールできないことを悩んでいても仕方がありません。そういう時こそ、焦らずに、“そのとき自分ができること”にフォーカスしました。夢を実現させるには、自分のペースでやっていく、人と比べないことは大事かもしれません。

宇宙に行って意外に思ったのは、「普通の生活」ができるということ。日中は実験したり、三食食べて夜は寝袋で寝て……と、地球での生活と変わりません。無重力なので体を固定させて作業をしたり、船内はモノを固定させるためのマジックテープだらけだったり、宇宙食だったりしますが、住めば都だと感じました。

宇宙船から見る地球は想像以上に美しかったですね。海の青さと雲の白さが本当に美しく光るんです。地球自身が生きている、ひとつの生命体のような気がしました。かつ地球は宇宙の中のひとつの宇宙船で、70億人一人ひとりが乗組員なんだということを改めて感じました。

宇宙から見る地球もとても美しいのですが、地球に戻ってきた時にもものすごく感動しました。頭に漬物石が乗っているように重く感じて、フラフラしながら船外に出るのですが、そのとき草や木の香りが漂ってきて、一つひとつの自然の感触がなんて有難いんだろうと感じたのです。日常の景色が美しく、物事の本質や幸せは、案外身近なところにあるんだなと考えるようになりました。

山崎さんから子どもたちへのメッセージ

大切なことは、どの道を選ぶかよりも
選んだ道をどう歩んでいくか

宇宙飛行士 山崎直子さん
打ち上げ・帰還時訓練(C)JAXA/NASA

宇宙での仕事は、さまざまなミッションを同時並行にやらねばならないので、案外と女性向きかもしれません。しかし、歴代500人強いる宇宙飛行士のうち、女性はたった1割。そもそも宇宙飛行士候補の応募段階で男女比は9:1です。もっとたくさんの女性が興味を持って応募してくれれば、その比率も変わってくると思います。長期間の訓練はありますが、私もJAXAで育児休暇を取得しましたし、制度的には整ってきています。あとはいかに柔軟に運用していくかでしょう。

仕事と家庭の両立は、今でも試行錯誤の連続です。私は、常に100%を目指すのではなく、その時々の状況に応じてバランスをとるように心がけてきました。また、一人ではすべてをできないので、周りとのコミュニケーションや、感謝の気持ちも欠かせません。近くを見ると波に酔ってしまいますが、遠くの地平線を見ると酔いにくくなります。仕事と家庭で悩む女性には、ぜひ長い目で人生をとらえてくださいと伝えたいですね。

また、子どもたちに伝えたいのは、インターネットが発達しているからこそ、自分の体験を大切にしてほしいということです。いま情報はたくさんあって、情報を手にしただけでわかったような気になってしまいがちですが、世の中まだまだわからないことだらけ。自分の手足を使って、「嬉しかった」「悲しかった」など、いろいろな感情を芽生えさせて、体験を積んでいってほしいと思います。

私自身、現在14歳と5歳の娘がいますが、それぞれの個性の良いところを伸ばしてあげたいと思っています。ある程度の年齢になれば、親ができることは見守ることくらい。私は今でも夜には必ず「生まれてきてくれてありがとう」と娘たちに言っています。親に愛されているという安心感を基盤にして、子どもたちには自立していってほしいと思っています。

また、夢や目標は決してひとつである必要はないと思います。とはいえ、進路などひとつに決めなくてはならないときは悩みます。でも大切なのは、どの道を選ぶかよりも、選んだ道をどう歩いていくか、ではないでしょうか。ある道を選んだことで一度は離れてしまったように感じることがあっても、しばらくしてから離れてしまったと感じたことが案外つながってくることもあるからです。

私もかつては学校の先生になりたいと思っていましたが、今、宇宙教育を教える立場にいて、こういう形で「先生」をしていることを感慨深く思います。ですから、思い通りにならなかったり、遠回りになっても大丈夫。自分の興味にアンテナを張りながら、自分のペースで、今歩いている自分の道を大切にしてください。

関連リンク 山崎直子さんTwitter日本ロケット協会※山崎直子さんは日本ロケット協会の理事を務められています。


宇宙飛行士 山崎直子さん  

前編のインタビューから

-現在山崎さんが力を入れていることとは?
-山崎さんの子ども時代
-宇宙開発に携わりたいと思うようになったきっけかけとは?

 

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