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Vol.024 2015.09.20

早稲田大学商学学術院教授 井上達彦先生

<前編>

学びは本来わくわくする楽しいもの
「知りたい!」という欲求
「食べたい!」と同じ
人間の根源的欲求

早稲田大学商学学術院教授

井上 達彦 (いのうえ たつひこ)

1968年兵庫県生まれ。1997年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了、経営学博士。広島大学社会人大学院マネジメント専攻助教、早稲田大学商学部助教授などを経て、2008年より現職。独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、ペンシルベニア大学ウォートンスクール・シニアフェローなどを歴任。おもな著書に『模倣の経営学』『ブラックスワンの経営学』(いずれも日経BP社)など。

アメリカのように、日本でも「起業」を目指す若者がもっと増えてほしい――そんな思いで大学生に「実践の経営学」を教える井上達彦先生。さまざまな企業の事例研究を通じて、「模倣」がイノベーションを生み出すことを論じ、関連書籍も多数出されています。その着眼点や、アメリカで身につけた体系的なまとめ方は、研究者だけでなく実業界の方々からも注目されています。理論ではなく「実践の経営学」に興味をもったきっかけなどを、生い立ちを振り返っていただきつつ、うかがいました。

目次

「商い」は問題解決の手段起業を目指すような学生を育てたい

早稲田大学商学学術院教授 井上達彦先生

たとえば新幹線500系の先頭の形状は、カワセミのくちばしを模倣しています。これはトンネル進入時の騒音問題を解決するため、自然界からヒントを得たものです。このように自然界や異業種、あるいは過去など、「遠い世界では当たり前だけど、自分の世界に持ち込むと新しいものになる」というのが「模倣」の大原則です。

模倣というと、否定的なイメージがありますが、イノベーションを生み出した企業の多くは、模倣をうまく取り入れています。ぼくは反面教師も模倣だと思います。たとえば、バングラデシュで貧しい人たちへの少額融資(マイクロファイナンス)を成功させたグラミン銀行も、既存の銀行と逆のことをして成功しました。また、KUMONのように「模倣できそうでできない」会社もあります。このように、ぼくは模倣とイノベーションの関係性を解き明かそうと、企業の事例研究を続けています。

大学のゼミでは「ビジネスモデルと競争戦略」をテーマに学生と向き合っています。「ビジネスモデル」とは、要は「価値を創造するしくみ」です。どのようなしくみがあれば、社会の役に立つことができるか。お客さまの声に耳を傾けたり、お手本となるモデルを探したりして「事業をデザインする」方法について学んでいます。日本では商いというと、「金儲け」のイメージが強いかもしれませんが、民間企業には政府やNPOでは解決できない社会問題を解決する力もあります。

ただ、事業は継続していくことが大事で、良いものをつくるしくみができている会社でも、突然倒産してしまったら、利用者は困ります。そうならないよう継続的に収益を上げ続けることが必要です。ぼくのゼミでは、そうした「事業継続できるビジネスモデルを考えられる人」、もっと言えば、「起業を目指す人」を育てたいと考えています。新しく会社ができて新陳代謝が起きれば、経済は成長するからです。ヒトの細胞と同じで、死んでいく細胞のスピードが、新しい細胞が生まれるスピードを上回ると、老化現象が起きてしまいます。経済の成長は将来の雇用にも関わりますから、ビジネスの老化は死活問題なのです。

「考える力」を養った子ども時代の経験とは?

心理学者の母について大学のゼミへ「大学ってこんなに楽しいのか!」と理想を描く

早稲田大学商学学術院教授 井上達彦先生

でもぼくは、小さいころから経営学の研究者になりたかったわけではありません。そもそも「何になりたい」というのは、あまりなかったですね。ただ、父は社会学者で母は心理学者。その影響は受けているかもしれません。

とくに母が関係する大学のゼミには、幼いぼくもよく連れて行ってもらい、そこで「ゼミって楽しそう」と感じたことを覚えています。毎日のようにゼミ生が集まって、論文を輪読したり社会調査のアンケートを検討したり、ワイワイと議論していて、すごく魅力的に見えました。母のおかげで、「大学とはこんなに楽しく、いきいきとしたものなのか」と印象づけられましたね。

母については、こんな思い出もあります。共働きでカギっ子だったぼくは、あるとき、カギを忘れてしまい、何時間も家の前で待っていました。母はなかなか帰ってこないので、事故にでも遭ったのかと心配していたら、帰ってきたとたん、「自分のことは自分で守らなきゃあかんやろ。なんでカギ忘れるんや!」と怒られて。ぼくは「さびしかったやろ」とか慰められると思っていたのですが……。そんなふうに自立を促すような親でもありました。

子どものころは、鉄道模型にはまったり、キャンプをしたり、魚釣りをしたり。のびのびと過ごし、いろんなことに熱中していました。夏休みは姫路の父の実家にずっといて、自然の中で自分で工夫して遊んでいたのが、「考える力」を養うことになったように思います。いたずらもよくして、怒られましたね。でも、「学習のサイクル」で考えると、「いたずら心」があることは大事なのだと、後に知りました。失敗して怒られると、なぜ失敗したかを振り返ったり、怒られないように工夫したりするからです。だから、いい経験をしたのだと思います(笑)。

 

いろいろと考えてたどりついた進路だったのに…?

高2のときに読んだ理工系の教養書に触発され大学は環境会計に進むが……

早稲田大学商学学術院教授 井上達彦先生

小3のときの担任の先生には感謝しています。その先生は、給食のときに「お皿をきれいに」と、パンで拭くよう教えるなど、しつけに厳しかった。担任がその先生になって、急に両親の呼び方が、「パパ」「ママ」から「お父さん」「お母さん」に変わったり、ノートをきれいに書くようになったり。このときに学ぶ姿勢の基礎を学べたのはよかったと、いま振り返って思います。やはり基本的なことは、厳しくてもしっかり身につけさせる。自分が子どもをもったいま、その大切さを理解しました。

高校時代はテニスに熱中していましたが、大会で負けたら勉強に切り替えようと決め、高2から受験勉強に軸足を移しました。進路は社会心理学と迷ったのですが、経営学を選び、国立大学に行けば車を買ってくれるという約束を親としたので、横浜国立大学の会計学科へ進みました。なぜ会計かというと、高2のときに勧められて読んだ『エントロピーの法則』が影響しています。

エントロピーというのは、熱力学の法則で、「無秩序になるものを秩序立てようとすると、さらなるエネルギーが必要になる」という法則なのですが、この法則をもとに地球環境などを論じていて、最終的には地球資源が枯渇する、という環境問題が書かれた本でした。難しい本と思われるかもしれませんが、ぼくは小説が苦手で、読むのはだいたいこのような教養書だったのです。

その本を読んで環境問題解決の手法に興味を持ち、そのひとつとして「環境会計」というのがあることを知りました。環境会計の先生が横浜国立大学にいらっしゃったので、そこに進学を決めたのです。ところが入学後、ぼくは簿記が苦手で、むしろ人を相手にするほうが好きだと気づいて、ゼミは経営にしました。そして研究者になろうと決めたのは、このころ、アメリカ留学したことがきっかけでした。


早稲田大学商学学術院教授 井上達彦先生  

後編のインタビューから

-大きな転機となったアメリカ留学
-「実践の経営学」のおもしろさに目覚めた大学院時代
-井上先生が考える「学び」とは?

 
 

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