KUMONを研究する中で「あり得ない!」場面に何度も遭遇した
Q.井上先生がKUMONにご注目されたきっかけについて教えていただけますか。
私は自身の研究として、「模倣」と「イノベーション」の関係性を解き明かそうと、企業の事例研究を続けてきました。KUMONに関心を持ったのは、ライバル他社から真似できないような、独自の仕組みを築いておられるからです。
そもそも、教育サービス業はグローバル化が難しいと言われています。その原因のひとつに、サービス業自体に標準化がなかなか進まない難しさがあるという点が挙げられます。もうひとつは、教育は文化や社会制度に根付いているために海外展開が難しいという点です。しかし、KUMONは50の国と地域で学ばれています。それがなぜなのか、不思議で仕方がありませんでした。もともとKUMONがユニークだということは聞いていたので、一体その秘密は何かということで、事例研究の一社として興味を持ちました。
KUMONが模倣できない秘密は、「ソリューション」と「コミュニティ」に隠されている
Q.なぜ、KUMONは模倣できそうで模倣できない仕組みになっているのでしょうか?
KUMONの方々にはいろいろな現場に案内いただきましたが、教室見学や指導者の学びの場など、私にとっては「あり得ない!」と感じるような場面にいくつも遭遇しました。特に、フランチャイズの教室の指導者同士が熱心に話し合って、自分たちのメソッドを切磋琢磨しているという点には驚きました。ライバル他社がなかなか模倣できないKUMONの独自の仕組みを簡単に説明すると、「標準化された教材を軸に、自学自習とちょうどの学習を実現するために指導者と事務局がネットワークを作っている」と言えると思います。
かつて、外部の方がKUMONを模倣しようと、教材をコピーしたり、同じような教材を作るなど、試みた例があったとうかがいました。ところがどこもうまくできない。単純に考えると、教材自体は真似して同じようなものを作れるのかもしれません。しかし、KUMONの強みは教材だけではないのです。経営学では「ソリューション」と言うのですが、教材を誰に、どのタイミングで、どういう風に渡すかというこの「教材の渡し方」にノウハウが隠されているのです。指導者は、学習者がKUMONで学び始めたばかりの頃にはやや簡単な教材を渡して勢いをもたせたり、徐々にちょっと背伸びをするような難易度の教材を渡したりと、一人ひとりの「ちょうど」がどこにあるかを見極めているといいます。また、その子の教材を解く様子や家庭の状況、その日の気分やモチベーションなど……指導者はそれらも勘案して、その日の教材を渡しているともうかがいました。しかし、「これがどうしてどの教室でも実現できるのだろう?」というのは不思議で仕方ありませんでした。
研究を進めていくと、それを実現しているのは、小集団ゼミ活動や自主研究会という学びの場にあることがわかりました。指導者が同じ教材で、同じ目的を持って、子どもたちのために、お互いのノウハウや悩み、そのための解決策や意見を言い合って切磋琢磨している。そういうコミュニティがあるから、「ちょうどの学習」を各教室で実現できることがわかりました。このようなことは、なかなか他にはできないというか、世界中を探してもないと思います。
Q.KUMONが持つ可能性について先生のお考えをきかせていただけますか?
KUMONには、教室でなければ与えられない価値があると思っています。教室だからこそ、その場でその脈絡で子どもをほめることができる。それに対して子どもが喜ぶというこの瞬間ですね。公文式の教材、教室、指導者という3つがそろうからこそ、それが可能になるのだと思います。これから教育のICT化で、人々の学びはどんどん進化していくでしょう。KUMONには標準化されたスモールステップの教材がある。そして、それを決して教える形ではなく自分で気づかせる形で、「ちょうど」のタイミングで渡す。これを磨いていく中で、ICTではできない部分をKUMONは開拓していかれるのではないかと感じています。
Q.KUMONに関わる全ての方々に向けて、先生からメッセージをいただけますか?
日本の教育を良くしていただきたいですね。児童期という多感な時期に、のびのびと、そして自信を持って自学自習していくという習慣をつける。本当に基礎の部分が、その後の一生を大きく左右するという実感を持っています。そういう意味で、世界の学びをよりよくするということにぜひ今後も取り組んでいただきたいと思います。
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