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Vol.008 2014.04.25

教育心理学者 秋田喜代美先生

<後編>

学びの楽しさは
新しい世界が開けること
夢中になれると人は伸びる

東京大学大学院教育学研究科教授

秋田 喜代美 (あきた きよみ)

東京大学文学部卒業後、銀行員、専業主婦を経て、東京大学教育学部へ学士入学。同大大学院教育学研究科博士課程修了。立教大学文学部助教授を経て、現在、東京大学大学院教育学研究科副研究科長。日本保育学会会長、NPOブックスタート理事も務める。

子どもの育ちをより豊かにするにはどんなことが大切か――すべての大人が認識しておきたいテーマについて、教育心理学者として探究を続ける秋田喜代美先生。大学卒業後、銀行員、専業主婦を経験する過程で、「学びへの探究」に目覚め、再び大学へ。幼子を育てながらの研究生活は、ライフワークでもある「読書と子どもの発達」という研究テーマを紡ぎだし、英国で行われている“ブックスタート”を日本に導入する際の研究にもつながりました。

目次

読み聞かせを録音した『声のアルバム』は宝物になった

秋田喜代美先生

女性は結婚して家庭に入ってしまうと、誰かから評価されることは極端に少なくなります。私もそれまでは、学習でも仕事でも、周りから認められることに喜びを感じながら生活していました。子育ても十分評価されるべきことなのですが、ほめられることはあまりなく、同年代の働き続ける女性を見るにつけ、焦る気持ちが出てきたというのが正直なところです。

次女を出産したのは、博士課程1年目のとき。彼女に絵本を読み聞かせたことがおもしろく、“読書と子どもの育ち”をテーマに研究するようになります。読み手の声と子どもの反応を研究するために、わが家の毎日の読み聞かせを録音したのですが、これは研究データとして重要なだけでなく、私たち家族の絆を育むツールにもなりました。

私の不在時に読み聞かせをしてくれていた夫や義母の声に耳を傾けると、「こんな風に読んでいるんだ」「いいコミュニケーションをしているな」とうれしくなったり、娘たちの言葉に、「おもしろいことを言っているな」と笑ってみたり。今では貴重な『声のアルバム』であり、わが家の宝物です。

そうして、読み聞かせへの関心がいっそう深まっていったころのことです。学びの研究と学校改革の実践で知られる教育学者の佐藤学先生(東京大学名誉教授)に、「学校で子どもを見るのもおもしろいよ」と誘われます。学校に行ってみると、確かに家でわが子に読み聞かせるのとはまた違う。1冊の本をクラスの皆で読み合う様子も興味深く感じました。同時に、学校には魅力的な先生がたくさんいることをあらためて知り、なぜ魅力的なのか、どうしたらこうなれるのかを研究したいと思うようにもなりました。

小中学生のあいだに、お気に入りの1冊を見つけてほしい理由とは?

「忘れられない1冊」が読書習慣をつくる

秋田喜代美先生

こうした研究を続けるなかで、英国が発祥の“ブックスタート”と関わるようになります。ブックスタートは、乳幼児健診に参加したすべての赤ちゃんと保護者に、絵本の入ったブックスタート・パックを、「赤ちゃんと、絵本を介した心のふれあいの時間をもつことの楽しさ」を説明しながら手渡す運動です。

2000年に英国へ行き、ブックスタートを目の当たりにしました。単に絵本を配る運動ではなく、「家庭のなかで絵本という文化財が生活や子育ての一部となることがいかに大切か」という活動として根づいていることを実感し、日本でも実践したいと推進活動をしてきました。

日本でのブックスタートは2001年4月に本格化して、現在では全国48%の自治体に広がっています。そのころから乳児向けの絵本もたくさん発刊されるようになり、ひとつの文化として定着しつつあると成果を感じています。生後4ヵ月くらいの赤ちゃんでも絵本を見せると、目がきらきらし、表情が変わるのです。絵本を介し、子どもの可能性や子育ての喜びを見出すことにつながれば、とてもうれしいですね。そして、この絵本を介した心のふれあいが、親子の絆をしっかりとつくっていきます。公文でも乳幼児期からの読み聞かせを薦めているそうですが、とてもよいことですね。

一方で、成長するにつれて本から離れてしまうという悩みもよく聞きます。小学校では学級文庫があり、本への興味をひく工夫はされていますが、中高生になると親の関心も勉強に移り、読書量はぐんと減ります。ここで重要な役割を果たすのが学校図書館ですが、残念なことに、文字・活字文化推進機構(公益財団法人)でやらせていただいた調査では、「中高生の8割は公共施設を含め、図書館を利用しない」という結果が出ました。物質的に本があっても、生徒たちと図書館をつなぐ先生や司書の方の思いがないと、子どもたちは本からだんだんと離れていってしまうのです。

この調査では、読書習慣のある子や大人は「忘れられない本やお気に入りの1冊を持っている」傾向にあることも明らかにしました。読書は量が重視されがちですが、過去に「おもしろかった」という経験があれば、読み続けるのです。「忘れられない1冊」と子どもが出会うには、「読書は楽しい」という姿を大人が示していくことも必要です。親子で一緒に図書館や書店に行って、たくさんの本とその文化に接し、できれば小中学生のあいだにお気に入りの1冊を見つけてほしいですね。

子どもの育ちにとても大切な事とは?

「どんな人からも学べる」という学習観を持てば「学び上手」になれる

秋田喜代美先生

学び続けるには「学び上手」になること。それが、学びに目覚めた私の体験から言えることです。一方では自信を持ち、もう一方で慎み深く学ぶ。新しい世界を丁寧に見たり聞いたりする。そうすることで人との出会いに恵まれ、いい学びの輪が広がっていきます。

「どんな人からも学べる」という学習観を持つことも大切です。年齢を重ねたり地位が高くなったりするほど、それがむずかしくなっていきますが、いかに瑞々しさを保ちながら、自らを新しくする努力を続けるか。私自身は、恩師である波多野誼余夫先生(はたのぎよお、心理学者・元慶応義塾大学教授)の「研究がしたいの?勲章が欲しいの?」という言葉を心のなかで反すうし、いつも初心に戻って気を引き締めるよう心がけています。

教育心理学の視点でいえば、学びや教育に大切なのは、意欲や動機づけです。「学ぶ」とは、自分にとってこれまで見えなかった新しい世界が開けてくることであり、頭に知識を詰め込むことではありません。その意味で、意欲や動機づけは「心に火をつけること」とも言われますが、では火をつけるにはどうすればいいのでしょうか。

それには、親や先生は「指導する」のではなく、子どもの声に耳を傾け、聞き合う関係をつくること。それにより子どもは「自分は受け入れられている」と感じ、安心感を得て、もてる能力を発揮していきます。

人は夢中になったときに伸びますから、安心感のある場をつくり、夢中になれる教材を用意して、新しい世界と出会える時間を長く保証してあげることが大事です。その意味では子どもが夢中になれる環境を整えた公文式学習は、子ども自身が「自分でやれた」と満足感を得られるので、伸びるのに適した学習法といえますね。子どもに関わる人なら、子どもが夢中になっているのを見ると、理屈抜きにうれしくなるはずです。親でも先生でも、そういう時間をたくさんもてば、子どもといい関係が築けると思います。

もうひとつ心がけたいのは、“子どもが大きく見える瞬間”をとらえることです。叱られているときは、子どもは小さく見えますが、生き生きしているときは有能で大きく見えます。「子どものなかに可能性がある」と感じる瞬間を、親や先生が見つけることが、子どもの育ちにはものすごく大切です。それが子どもを元気にし、ひいては日本の未来も元気にしていくことにつながっていくのだと思います。

関連リンクNPOブックスタート日本保育学会

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