子どもには「インフォーマルな知識」がある

大学院で教育心理を学んだあと、大学の教育学部の講師となった私は、本格的に教育心理学と関わるようになります。教育心理学というのは、おもに子どもの教育と発達を研究して、健やかな発達を支援することを目的とする学問分野です。
たとえば、「勉強がきらい」という子は、どの学校にも少なからずいるでしょう。こうした子どもたちの授業の理解や学力の低さについてはたびたび問題になりますが、その背後には、現在の授業が、私の言葉で表現すると『教科の理論』で行われているからではないかと考えています。教科の理論とは、数学・理科・英語など各教科の論理体系を、子どもにもわかるように簡潔にまとめたものを教育カリキュラムとしていることです。これで、子どもたち全員が授業についていければ問題はありませんが、現実にはそうではありません。
そうならないためには、『教科の理論』から、これも私の言葉ですが『子どもの理論』によるカリキュラムに転換すべきだと思っています。『子どもの理論』とはどういうことかというと、その要素は2つあります。1つめの要素は、子どもは日常生活から得た知識がいろいろあるということ。それを私は「インフォーマルな知識」と呼んでいますが、それがどのくらいあるかを具体的に知ることです。
インフォーマルな知識とは、たとえば、「割合」は「比べる量を基(もと)になる量で割る」ものですが、この公式は小学5年生で教えられるものなので、4年生の子は知りません。けれども、学校で習っていなくても割合の元になる考え方を持っている子はいます。スーパーで3割引きの商品と4割引きの商品のどちらが安いかと聞くと、答えられる子が少なくないからです。
実際、私の研究では、子どもたちは大人が考える以上に、豊かなインフォーマルな知識を獲得していることがわかっています。しかし、多くの大人はそのことをほとんど知りません。インフォーマルな知識は「学びの素」であり、これがあれば、基礎的なことは理解できるので、それを踏まえて教えれば学習はスムーズに進みます。