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Vol.109 2025.03.21

アスリート・ステアクライミング日本代表
/株式会社ONODERA GROUP
立石ゆう子さん

<後編>

自分のペース
一段ずつのぼっていけば
必ずゴールにたどり着ける

アスリート・ステアクライミング日本代表/株式会社ONODERA GROUP

立石 ゆう子 (たていし ゆうこ)

1986年東京都生まれ、千葉県育ち。学生時代は陸上競技に打ち込み、26歳の時に仕事の傍ら競技生活をスタート。2017年に初めて参加した「あべのハルカススカイラン」で優勝。翌年から本格的にステアクライミングを開始し、世界トップレベルの成績を残す。その一方で、給食サービス事業を手がける株式会社LEOCの厨房事業所に2020年から勤務。2024年6月より親会社のONODERA GROUP所属アスリートとなり、働きながらステアクライミング日本代表選手として世界戦にも挑戦中。最近の実績は、2024年 TWAタワーランニング世界選手権2024準優勝、2025全日本ステアクライミング選手権大会優勝など。

超高層ビルや塔などの階段をコースに利用した、マラソンレースの一種「ステアクライミング」。立石ゆう子さんは「階段競技」とも言われるこの競技で、日本のみならず世界のトップを争うアスリートとして活躍されています。小1から延べ約9年続けた公文式で、「継続する力」「自分で目標をつくる力」を身につけたとふり返ります。仕事をしながら一児の母としての時間も大切にされている立石さんに、一人三役の日々にどう向き合っているのか、目標を実現するために心がけてきたことなどをうかがいました。

目次

    実業団は諦め食の世界へ
    コーチとの再会で陸上に戻る

    進学した中高一貫校では、陸上部に所属し、長距離走をしていましたが、とくによい成績を残すことはできませんでした。大学でも陸上を続けたかったのですが、私が入った大学では女子陸上部が廃止になるタイミングで、男子メインの陸上部には入れてもらえず、他大学の陸上部に電話をかけまくって一緒に練習させてもらえないか頼みました。

    当然ながら受け入れてくれる大学はなかったのですが、その中の一校の先生が、社会人チームを紹介してくれました。チームに連絡して活動できるようになり、さらにそこのコーチと相性がよく、タイムが伸びたんです。

    Empire State Building Run-Up
    Empire State Building Run-Up

    大学卒業後は実業団に行くことも考えましたが、そのコーチと一緒に陸上を続けたかったこと、また当時は仕事と陸上の両立は考えられなかったことから、二番目に好きな食の道に進むことにしました。

    大学での専攻は社会学で、食とは無関係でしたが、たまたまテレビで見た京都の料亭に興味が湧き、メールと電話で「働かせてほしい」とアプローチしました。すると面接をしてもらえて、未経験の私を採用してくれたんです。

    京都のその店でしばらく下働きをしたあと、フランス懐石料理の店に移り、デザートを担当。やがてケーキづくりをもっと勉強したいと思うようになり、フランスへ渡りました。でも現実はなかなか厳しくて、ビザが切れる3か月で帰国しました。

    その後、都内のフランス料理店で働いていると、社会人チームでお世話になったコーチから「子どもの陸上コーチをしてくれないか」と連絡がありました。それが再び陸上と関わるようになったきっかけです。

    深圳・平安国際金融中心(Ping An International Finance Centre
    深圳・平安国際金融中心
    (Ping An International Finance Center)

    「走れないコーチはかっこ悪いな」と思い、4年ぶりに練習を再開。26歳の時でした。それからは子ども向けの陸上コーチとカフェでのアルバイトという生活を続けましたが、31歳の頃に行き詰まりを感じるようになりました。陸上を続けたい気持ちはあったので、いろいろ調べている過程で出会ったのがステアクライミングです。おもしろそうだと「あべのハルカススカイラン」に参加したら、初参加で優勝したんです。

    そのレースは世界シリーズ戦のひとつで、副賞で香港での世界戦の参加権をもらいました。そこで知り合った人たちと意気投合し、一緒に世界戦を回るようになりました。同時に山岳競技も始めていたのですが、出産を機にやめて、ステアクライミングに専念することにしました。

    2020年からは前編でお伝えしたように給食サービス事業を担う会社の厨房事業所で働き始めました。アスリートを応援してくれる会社で、仕事と競技の両立ができています。2024年6月には親会社のONODERA GROUPにメインスポンサーになっていただき、トレーニングもこれまで以上に励めるようになりました。働きやすい環境をつくっていただき、周囲の方々には本当に感謝しています。

    助けを求めてもいい
    笑っているお母さんでいたい

    20 Fenchurch Street (The Walkie-Talkie)
    20 Fenchurch Street(The Walkie-Talkie)

    競技という目標があると、日々の生活にも張り合いが出ます。仕事と競技、育児との両立は大変ですが、今は「無理をし過ぎない」ことを心がけています。競技人生を長く続けていこうと思っているので、自分で抱え込まないようにしています。

    これまでは「自分で全部がんばる」でしたが、子どもが生まれてその考えが変わりました。大変なら大変と伝え、周囲に助けてもらうようにしています。そして周りの人が困っている時には助けられるようにしたいと思っています。

    一人の時は「こうするにはこうしないと」と、どんどん自分の殻に入ってしまっていました。それでよかったこともたくさんありますが、そこに育児が加わって、さらにやることが増えると、どんどん笑顔が少なくなり、それが子どもにも伝わってしまいます。

    子どもが不機嫌なのは眠たいとかお腹がすいた時などで、それ以外はいつもにこにこしていて、自分の味方でいてくれる。それに気づいて「自分もそうありたい」「笑っているお母さんでいたい」と思うようになりました。そうするにはやはり自分の中にこもっているのはよくありません。

    何かひとつが崩れると、その時はうまくいったとしてもバタバタと連動して倒れてしまうので、うまくバランスを取るようにして、ひとつのことだけでなくトータルで考えるようにしています。

    例えば子どもの具合が悪くなったら、私も調子を崩しがちです。練習も子どもに合わせざるを得ず、その時は練習ができないなあと残念に思うのですが、子どもが元気になれば練習にも復帰できるし、私もペースダウンして体力を養うことができます。無理してがんばると自分が倒れてしまうので、結果的には休んだ方がいいですよね。思い返してみると、寝るのが遅かったり、私がレースでピリピリしていてそれが子どもに伝わっていたりで子どもが無理していたのが出てしまったのかな、とも思うようになりました。

    子どもを産んでも環境が変わっても
    好きなことを続けていい

    将来どうなりたいかを『想』像して目標を立て、
    その目標を達成するにはどうすべきかを
    『想』像して日々努力する。
    そして、応援してくれる人、
    支えてくれる人も『想』い活動する。

    今後については、「タワーランニング世界ツアー戦2025」で、世界ランキング1位を取ることが直近の目標です。去年は2位だったので、今年はトップを目指したいと思っています。このランニングは8戦の合計ポイントで競うもので、初戦は1月に中国・深圳で行われ、私は4位でした。
    第二戦はオーストラリアで行われますが、まずはそこでがんばりたいですね。

    長期的な目標は、もっと多くの日本の女性に「子どもを産んでも、環境が変わっても、スポーツを続けていいんだ、好きなことを続けていいんだ」と思ってもらうことです。

    海外の選手と話をすると、出産することがマイナスではなくてプラスになっています。夫が協力することはごく自然で、生活環境が変わっても「セーブしよう」と考える人は少なく、夢を諦めない人は多いと思います。

    もちろんそのためには、たくさんの方の協力が必要ですが、「続けていいんだ」と思う最初のステップがなかなか踏み出せない環境が、日本にはまだあると思います。そのステップが低くなるように「立石さんがやっているなら自分もやってみよう」と、ちょっとした後押しになるといいなと思っています。

    私が公文式で目標をつくっていたように、お子さんたちにはどんなことでもいいから小さい目標を立てて欲しいと思います。「テストで100点を取りたい」「お母さんにほめられたい」など、内容は何でもいいと思います。その目標をクリアするためにどうしたらいいかを考えることを通じて、日々の生活が変わると思います。

    お子さん一人で考えるのが苦手であれば、保護者の方と一緒に考えたり、公文の先生に相談してみたりしてはいかがでしょうか。私の経験上、公文の先生は応援してくれるのが上手なので、いいアドバイスをくれると思います。

    「ステアクライミング・ジャパンサーキット 大阪大会」兼 「全日本ステアクライミング選手権大会」(2025年2月)にて優勝(ONODERA GROUP提供)
    「ステアクライミング・ジャパンサーキット 大阪大会」兼 「全日本ステアクライミング選手権大会」(2025年2月)にて優勝(ONODERA GROUP提供)

    保護者の方には、「まずは自分をほめてください」とお伝えしたいです。私自身、子育ては本当に毎日大変だと実感しています。子育てという大仕事を私はやっているんだと胸をはって、大変になったら周囲に助けを求め、無理をせずに毎日笑って過ごしてほしいですね。お子さんだけでなく、保護者の方も小さな目標や生きがいをもつと、生活に張りが出ると思います。

    そのひとつとして、ステアクライミングはどうでしょうか? レースは一般の方でも参加できますし、複数メンバーで協力してのぼるリレー式もあり、ご家族での参加もできます。東京タワーであればゆっくりのぼって20分程度。何百段ものぼるのは大変そうに思えますが、給水所も多くありますし、自分のペースでなら必ずのぼり切ることができます。ぜひお子さんと参加して、体力づくりと思い出づくりをしていただければうれしいです。

    (撮影協力:埼玉グランドホテル深谷、深谷市 浅間神社)

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    前編のインタビューから

    -絶景が楽しめ、育児とも両立可能な競技
    -「お見送り」「お迎え」の時間は自分との約束事として厳守
    -「週末のマラソン」や「朝の公文」は習慣化で「継続の力」を実感

    前編を読む

     

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