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Vol.102 2024.04.05

株式会社デジタルレシピ取締役・最高技術責任者
古川 渉一さん

<後編>

一生自分との闘いをやめない
地道な努力で培う余裕
人を強くする

株式会社デジタルレシピ取締役・最高技術責任者

古川 渉一 (ふるかわ しょういち)

1992年鹿児島県生まれ。中高時代は陸上100mに打ち込み、中1の7月に鹿児島県中学総体で優勝したことを皮切りに複数の優勝を経験。ジュニアオリンピックにも出場。鹿児島県立鶴丸高校卒業後、東京大学入学と同時に上京。在学中の2014年、30万人の学生に利用された学生向けイベント紹介サービス「facevent」を立ち上げる。東京大学工学部システム創成学科卒業後は、エンジニアとして「SocialDog」などの複数のシステム立ち上げに参画。同時期にWebマーケティングの会社ネクストライフを設立。2020年、デジタルレシピCTOに就任。著書『先読み!IT×ビジネス講座 ChatGPT 対話型AIが生み出す未来』(インプレス)等。

AIを活用し「まだ世の中にないサービス」を開発・提供しつづけている古川渉一さん。開発だけでなく本の執筆・メディア出演を通じて「AIの面白さ」も伝えています。公文式の創始者・公文公(くもん とおる)が残した言葉の通り「学年を越えて進む」ことで、数学も勉強感覚ではなくパズル感覚でとにかく楽しかったと言います。東京大学在学中からエンジニアとして様々なシステムをつくり、起業も経験していますが、実は20歳までプログラミングどころかパソコンすらほぼ触ったことがなかったそうです。そんな古川さんが歩んできた道のりとは? 「究極の一人遊び」と表現する公文式から学んだことなどとあわせてうかがいました。

目次

    内定先に就職せず
    「自分との闘い」に挑む

    「何で一番になるか」を探すため、いろんなサークルに顔を出すようになり、2014年に学生向けイベント紹介サイトを立ち上げました。実はそれまでパソコンすら触ったことがなかった私が20歳のときに出合ったのがインターネットやプログラミングです。紹介サイトは2年間で30万人に活用され「自分が面白いと思うものをインターネットで、顔も名前も知らない人に届けられるんだ」と衝撃を受け、プログラミングにのめり込んでいきました。

    それで、Webサービスをつくる研究をするために松尾研究室(=松尾豊教授)へ。そこでAIに出合うのですが、当時はディープラーニングが盛り上がっていた時代で、その基盤はどういうふうにつくられているのかを数学的に学び今に繋がっています。実は当時は、便利なマーケティングワードとして「AI」を使っているだけじゃないかと天邪鬼なことを思っていました。せっかくAIといういいものがあり、世界中に届けられるインターネットがあるのだから、正しく表現して正しい場所に置けばいい、と思うようになりました。

    いよいよ就職というときに、ITベンチャー企業に内定をいただきました。ところが、「自分でやってみたい」という、これまた自分との競争欲が出て、内定を辞退。1年間休学し、システムをつくっては企業に譲渡する、ということをしていました。それなりに稼げるようになったので、卒業後も就職せずに複数のシステム立ち上げに関わりました。

    そうして様々な「商品」をつくることができたので、次はそれを「いかに多くの人にリリースしていくか」に関心を持つようになり、Webマーケティングにのめり込み、Webマーケティングの会社を設立。やがて「商品づくり」と「集客・販売」の両方の仕組みができたので、そこはやり終えたと感じて法人を売却。その頃にデジタルレシピの代表と出会ってAIにも深く携わるようになり、現在に至ります。

    実は、小学校の時から将来の夢は教員でした。友人に勉強を教えたりして、自分は教えることに向いていると感じていたんです。勉強も「こんなに面白いのになぜやらないの?」と、お節介精神があるというか。このお節介は今の仕事にもつながっていますね。「AIという面白くて便利なものがあるのに、なぜ使わないの?」と。

    ただ人に伝えるには、まず自分が心の底から理解して楽しむことが大前提です。思いがあふれてこそ人に伝えることができると思うので、ビジネスをするにも「今この面白さは、自分にはあふれているのだろうか」と常に客観視しています。前編でもお伝えしたように、このふり返りが習慣化されたのは公文式のおかげです。

    中学生のときから変わらず好きな言葉
    「余裕が人を強くする」

    「余裕が人を強くする」。この言葉は、陸上男子400mの元日本記録保持者である高野進さんの言葉です。陸上は「勝つぞ! 自己ベストを出すぞ!」と思って力むと結果としてタイムが遅くなるんです。適度に力が抜けている状態、自然な状態、それがおそらく余裕がある状態です。

    陸上の100mであれば48~50歩ぐらいで走るんですが、一歩一歩に意味があります。どこの足をどう置いて、どう力を加えるのか、地面との靴の接地場所やタイミング、腕の力の入れ方や目線、一つひとつ頭で考えてできるわけではありません。もちろん、それは一つずつ練習のときに訓練をして当たり前のようにできる、つまり「反復練習」によって身についている。本番のときには何も意識しなくてももうやるだけだ、と開き直って余裕を持ってやるとしっかりいい結果が出る。日々の積み重ねがいざというときに発揮されるというのは、公文式にも通じていますよね。

    根を詰めずに、余裕があって自然な状態のときにパフォーマンスも出せるし人間としても成長ができる。そういう意味で、とても好きな言葉です。余裕をもつには地道な努力が必要です。

    陸上の100mを私は「肌の触れ合わないボクシング」という比喩で表現しています。スタート地点からゴール地点まで誰かに邪魔されるわけでもなくただ走るだけなのですが、大会では速い人たちが横に並んで走るわけです。その場で何が違いを生むのかというと、そこまでに練習によって培われた自信や、それをよりどころとした余裕です。それが強いということ。

    ビジネスの文脈になると、忙しい人って二流、忙しさを見せたらだめだと思うんです。忙しい人ほどメールでも返信が早いというのは、自分がボールを持たないようにしているから。要は本当に仕事ができる人、優秀な人は暇そうだし余裕がある。それは陸上でもビジネスでも同じで、中学1年生の時からずっと座右の銘として大事にしている考え方です。

    「熱中できるもの」にふたをしないで
    成功体験を積み重ねていこう

    ChatGPTに代表される生成AIは「ゼロから文章をつくる」ことに注目されがちですが、実は「情報の変換器」であって、「加工する」ことが得意なんです。だからこそ元々しっかりつくられていた「教材」を「核」にして、個人に合わせて、手間もコストもかからずに一瞬で加工することができるんです。「学びのハードル」がものすごく下がると思います。

    例えばこんな使い方も考えられます。子どもは「空はなぜ青いの?」「虹はなぜ見えるの?」と素朴な疑問を持ちますよね。そう聞かれたときに、保護者はちゃんと答えられるでしょうか。「科学的根拠に基づいた正しい説明をする」ということではなく、「子どもの純粋な疑問を満たす回答」という意味でです。そういうときこそAIの出番です。「小学生にもわかるように、なぜ虹ができるのか物語風に教えてください」と、AIに手伝ってもらうことができます。すると子どもの好奇心を満たす回答が得られるだけでなく、自身の発想を広げる力にもなります。

    ChatGPTという言葉自体がこれほど広まるとは驚きで、ChatGPTは原料のようなもの。トッピングしてきれいな器によそったほうがより使いやすい。事業者が加工して一機能として提供するもの。いずれChatGPTと気づかず知らないうちに使っているようになるでしょう。車が人間より早く走れるように、AIも人類が発展していくために使うツールです。

    今の小学生が社会人になる頃には、人間さながらのAIが当然のように存在する世の中になるでしょう。「交通事故をなくしたい」「瞬時に移動できる乗り物をつくりたい」などの「夢」「意志」「願望」が大事になります。これらはAIにはない、人間にしかないものだからです。

    子どもは小さい頃は、素直に自分の気持ちを言葉にしますが、学校という社会に出ると、空気を読むようになったりして、意志や願望を表に出さなくなります。結果「何をやっていいかわからない」となってしまうのではないでしょうか。保護者は「無理だよ」と言いたくもなるでしょうが、子どもの意志を尊重してあげて欲しいですね。私も親から肯定され続けてきたからこそ今があり、もし一言でもネガティブな言葉をかけられていたら、今の自分にはなれていなかったでしょう。

    子どもたちは「自分はやればできる」という成功体験を積み、熱中できるものにふたをせず、人と比べずに、自分が「やりたい」と思うことをやってほしいです。AIも敵視しないでくださいね。AIに勝つ・負けるということではなく、役割が違うと知ってください。アイデアをたくさん出すAIはありますが、そこから選んで実行するのは人間です。AIは最強の相棒でありツールです。だからこそ、それを使って「自分は何を成し遂げたいのか」、夢・意志・願望を持ち続けてほしいです。

    古川さんの座右の銘
    「余裕が人を強くする」

    私自身の夢は、ひとつはやはり多くの人にAIを正しく知ってもらうこと。事業や出版物、講演などを通じて、メッセージを発信し続けていきたいと思います。もうひとつは、一生「自分との闘い」をやめないこと。年齢関係なく、自分との闘いをやめたらそこで終わり。今目指しているのは、30代で世界トップのAIサービスの提供をすることです。実はこれまでは、世界は意識していませんでしたが、そこが自分との闘いの究極形だと考えて挑んでいます。

    「自分に厳しく、他人にやさしく」と母から言われて育ちました。うまくいったら周りのおかげ、失敗したら自分のせい。そう考えてここまでやってきました。これからも、そうしたことを大事にして、人と比べず自分の夢に向かっていきたいと思います。

    前編を読む

     


     

     

    前編のインタビューから

    -「AIと共存する未来」を伝えたい
    -公文式で身についた日々ふり返る習慣
    -勉強もAIも遊びのように触れてみよう

    前編を読む

     

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