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Vol.091 2022.10.21

千房株式会社 代表取締役社長
中井貫ニさん

<後編>

「全人格格闘技」
目の前のことに全力を尽くして
「ありがとう」の感謝の心で生きていこう

千房株式会社 代表取締役社長

中井 貫二 (なかい かんじ)

大阪府出身。慶応義塾大学経済学部を卒業後、野村證券に14年間勤務。父の中井政嗣さんが創業した「千房」の2代目社長になる予定だった長兄の急逝にともない、2014年専務として「千房」に入社。社内の改革を推し進め、45周年となった2018年に社長に就任。大阪外食産業協会会長、道頓堀商店会副会長など要職に就く一方、篤志面接委員として受刑者の改善更生に向けた面接、講話活動を行い再犯防止に取り組む。受刑者の更生保護を目指す公益社団法人OMOIYARIプロジェクト理事も務める。

「食い倒れの街」大阪から、本場のお好み焼きの味を全国に広めた「千房」。現在は店の雰囲気やメニューの異なる姉妹店も展開、その一方で元受刑者を雇用する取り組みを10年以上続けています。中井貫二さんは、証券会社の営業から一転、8年前に創業者である父から社長のバトンを受け取りました。大阪の飲食業界や地域を盛り上げる活動とともに、「職親プロジェクト」など更生支援も続けています。中井さんも関わりのある更生施設では、公文式学習の導入をスタート。ご自身も公文式を学習した経験から、「人間としての基礎力が身につく」と期待を寄せています。その「基礎力」とは。これまでの道のりや、元受刑者の就労支援の意義とともに語っていただきました。

目次

    元受刑者の育成は千房の人材育成の根幹
    支えることで支える側も成長する

    中井貫ニさん

    元受刑者の就労支援は社内で周知徹底されていると思い込んでいたのに、違った。「これはどうにかしなくては」と思ってまずやったのは、最初の全国店長会議で「この就労支援の取り組みはずっと続けていきます。でも、現場任せにはしません。会社一丸となって全力でバックアップします」と宣言したことです。

    具体的には、本社の管理本部が毎月面接をしたり、家計簿のような金銭出納帳をつけさせてお金の管理を一緒にやったりということです。こうして従業員の理解を得られるようにしていきました。なぜそこまでして続けるのか、ともよく聞かれます。それは、元受刑者の育成は創業当時からずっと続けてきたことであり、すなわち千房の人材育成の根幹だと思うからです。

    千房では、「信頼と友情そしてファミリーの心」を創業以来の経営理念のひとつとして大切にしています。例えば元受刑者の従業員が失踪してしまったら、閉店後に店舗スタッフ全員で探しに行きます。そうして「皆“家族”なんだ」ということが、実践を通じて身につきます。こうしたことが千房のよさであり、他社にはない強みです。なので、元受刑者の育成をなくすわけにはいかないのです。

    正直、大変です。しかし、反省は一人でもできますが、更生は皆の支えがないとできません。皆が一丸となって育成しようとなると、育成する側の自分たちも心優しくなれる。「自分たちも襟元を正さないと」と自覚するようにもなります。人として成長できるのです。

    「職親プロジェクト」に参加する他の企業さんでも同様の問題は起こります。そうした悩みを共有し、解決策を模索していく。このような取り組みを続けるのも、新たな被害者を生まないためです。罪を犯した人のうち、約2人に1人が再犯者で、再犯者の70%が無職です。職を持ってもらうことで、再犯防止につなげたいのです。それには元受刑者を引き受ける会社が必要です。損得でやっていたらとてもできないことです。ですが、この取り組みが善か悪かといえば、明らかに善です。社会にとって善である取り組みだから、我々は続けているのです。

    人間力の土台をつくりなおす

    土台がもろければ崩れやすい
    学び直しでその土台をつくり直す

    中井貫ニさん

    私は篤志面接委員にもなっています。篤志面接委員とは、刑務所や少年院に収容されている人たちの悩みを聞いたり矯正のために面談などをして立ち直りを支援するボランティアで、法務省から委嘱を受けて活動しています。

    篤志面接委員となった当初は、自分の中にも受刑者に対しての偏見があることに気づきましたが、やがてそれも払拭されていきました。何千人と面接をする中で、受刑者がどういう思いでいるかもわかるようになりました。彼ら彼女たちは、後ろめたさを感じたり偏見に悩んだりしています。そうした思いを受け止めながら生活や仕事をバックアップしていくわけです。面接を通じて私が感じたことは、現場の店長やマネジャーに随時伝え、元受刑者が現場で円滑に受入れられるよう努めています。

    元受刑者には、「いい意味で期待しないから大丈夫。自然体でやりなさい。でもうちの店を辞めてもいいけれど、刑務所には戻るな」と伝えています。「期待している」と言ってしまうと負担になってしまうからです。それでもうちの店を辞めたらまた罪を犯しそうな人には、「家族なんだから、簡単に縁を切れないぞ」と言って、なんとかつなぎとめるようにしています。

    職親プロジェクトから派生した、「OMOIYARIプロジェクト」という更生を支援する活動にも参加しています。その支援活動のひとつとして、加古川学園という少年院で、公文式学習を導入することになりました。公文式は「プリントを解く」学習法ですが、この流れの中に得られるものが多くあると思います。判断力や忍耐力、そしてわからなければ先生とやりとりが生まれ、コミュニケーション能力が培われます。100点をとったときの喜びを実感することもできるでしょう。

    私は証券会社の営業マン時代、「全人格格闘技」という思いで仕事をしてきました。相手の信頼を得るには、自分の心を開く、自分の人格すべてをさらけ出すことが大事だということです。これは飲食業でも一緒です。その「人格」、すなわち「人間力」は、小さい頃に培われるものだと思うのです。私は公文に通うことで人間力が培われたと実感していますし、それが自分の土台のひとつになっていると思います。

    少年院に入ってしまった子は、一線を越えてしまった子です。そうなってしまうのは、子どもの頃の経験が偏ってしまっているのでバランスがよくなく、人としての礎の部分が弱いからだと思います。土台がもろければ、どんなにいい経験が積み重なっても崩れやすい。その土台をもう一度つくり直す。人間力の基礎をつくり直すという意味で、公文式は大切な学びになると期待しています。

    かけがえのない人

    「個性」や「こだわり」を持つなら
    他者に認められる結果を出そう

    中井貫ニさん

    私は公文式の教室に掲げられていた色紙の言葉が忘れられません。
    「やってみよう やってみなければわからない」
    公文の創始者の言葉だそうですね。
    これが当時の自分の心に刺さり、「何でもどんどんやってみよう」「現状維持は衰退だ」と思うようになりました。

    中学受験した私は、第一志望校には不合格。大学受験も、就職試験も、すべて第一希望は落ちてしまいました。でも、まったく後悔していません。そのときそのときのベストを尽くして、「とりあえず全力でやってみる」ことを実践してきたからだと思います。

    父は厳しかったですが、母は私が「やりたい」といったことには反対せず、個性を伸ばしてくれました。親はとかく、わが子を人と比較したくなるものですが、個性を活かしてあげて、やりたいことはやらせてあげるといいのではないでしょうか。

    千房も「千房は千房だ」と考え、他社とは一切比較していません。お子さん自身も、誰かと比較する必要はまったくなくて、「自分は自分」「自分らしいか・らしくないか」という尺度でものごとを決めていけばいいと思います。それは自分なりの「こだわり」であるわけですが、ただ、こだわりはときに独りよがりになることがあります。そうならないためには、他者に認めてもらえるよう結果も出していくことです。

    私が今後やりたいことは何かというと、「世界一従業員が“幸せだ”と思う会社をつくること」。もっというならば、私を育ててくれた千房、従業員、家族、自分の生まれた街、育った街に恩返しをしたいと思っています。

    私は受刑者への講演時に毎回「“ありがとう”の反対は何か」と聞きます。答えは「あたりまえ」なのですが、皆答えられません。今のこの生活は「あたりまえ」ではない。常に感謝の気持を持つことだ ――これは亡くなった長兄がよく言っていた、と父から聞きました。私自身、ここまで生きてこられたのは、いろんな人に出会い、支えられてきたからです。感謝しかありません。支えてくれた従業員や家族に対して恩返しをするのは当然だと思っています。

    千房千日前本店

    もうひとつ、私が心に決めていることがあります。それは「従業員を守る」こと。当社はコロナ禍で、売上げがコロナ前の3%の水準、つまり97%下がった時期もあります。そうなると従業員は不安ですよね。私は「雇用は守ります」と全従業員にメールし、休業中も100%給与を支給しました。またパートをなくして、時間限定あるいは地域限定、店舗限定の正社員に切り替えました。会社の負担は増えますが、従業員に安心して働いてもらいたかったのです。

    荒波のとき船に乗っていると、近くを見ると船酔いしますが、遠くを見ればそれほど酔わないといいます。経営も同じです。今コロナ禍という荒波で、足下を見たら苦しいですが、数年先の千房を見ると、やはり人が大事なのはいうまでもありません。だから人を守りたい。まだ父は会長として働いていますが、父は人というかけがえのない財産を残してくれました。私はこの財産をしっかり引き継ぎ、これからも大切に守っていきたいと思います。

    前編を読む

    関連リンク大阪道頓堀のお好み焼専門店 千房-ちぼう-【公式】千房 株式会社 / Facebook千房 株式会社(@CHIBO_Co_Ltd) / Twitter日本財団職親プロジェクト公益財団法人OMOIYARIプロジェクトテレビ大阪「やさしいニュース」カメラが捉えた!日本最大級の少年院・独占密着ー180日の記録 / YouTube(🎞️2022/10/15)


    中井貫ニさん  

    前編のインタビューから

    -「恩返し」を意識している現在の活動について
    -父と母、人生の恩師からの教え
    -人の可能性を信じて

    前編を読む

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