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Vol.088 2022.05.13

絵本作家
きもとももこさん

<前編>

人にはそれぞれ“すわる場所”がある
やりたいことを見つけて続けていけば
きっとそこへたどり着ける

絵本作家絵本作家 きもとももこさん

きもと ももこ (きもと ももこ)

東京都生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。主な作品に『うずらちゃんのかくれんぼ』『うずらちゃんのたからもの』『ピーのおはなし』『かえるくんのおさんぽ』(いずれも福音館書店)など。

鮮やかな色彩、丸みを帯びたかわいらしいタッチ、ほのぼのするストーリー。大人も魅了する作品をつくり続けている絵本作家のきもとももこさん。デビュー作の『うずらちゃんのかくれんぼ』は、2004年に皇太子(当時)ご一家が公開したホームビデオに登場した作品として知られています。学生時代から絵を描く仕事をしたいという希望を持ち、会社勤めをしながらイラストを描き続け、縁に恵まれ絵本が完成。とはいえ、その道のりは平坦ではありませんでした。あきらめずに続けられたのは「絵を描くのが好き」という強い思いと、公文式で得た「続けていれば成果は出る」という確信があったからだそうです。

目次

    自分の考えを表現できるのが絵本作家の醍醐味

    絵本づくりは、お話が先にあってそこに絵をつけるパターンと、絵を考えてからお話をつくるパターンがあると思います。私は後者で、「こういう絵が描きたいな」と思い浮かべたところからお話をつくっています。こんな生き物を主役にして、それをこう動かして……とイメージしてお話を組み立てていき、デザインやレイアウトまで自分で手がけています。

    きもとももこさん

    例えば、最初の作品『うずらちゃんのかくれんぼ』は、「うずらを主人公にしたいな」というところから始まり、「キノコに隠れる」というシーンをイメージしたりして、お話を組み立てていきました。実は最初はまったく違うお話だったのですが、それは追ってお伝えしますね。

    私の場合、ラフを描くのに多くの時間をかけます。編集者とやりとりしながら、何度も何度も描き直すのはとてもたいへんですが、ものすごく大切な作業です。そこをクリアしたらアクリル絵の具で絵を描いて、デザインしたり、文字の配置を考えたりしていきます。「描きたい絵」からつくったお話を、どんどんそぎ落として完成させるわけで、私の場合1冊ができるまでに約3年かかります。とても地道な仕事ですが、自分の考えや思いついたことを手間をかけてていねいに形にできるのが、絵本作家の面白さだと感じています。

    私の絵本には動物がよく登場します。人間を描くのも嫌いではありませんが、動物は可愛くて大好きなので、動物を主役にして描くほうが好きです。道徳的なことを伝えたいというよりも、自分で描いていて楽しいと感じるお話をつくっているので、読者にもぜひそこを楽しんでいただきたいと思います。植物は、読者の方から何の花か聞かれたときにきちんと答えられるよう、『うずらちゃんのかくれんぼ』を作った頃は花の図鑑を見ながら自分なりのタッチで描いていました。

    絵を描いているのだから、小さい頃から絵本に親しんでいたかというと……じつは経済的に苦しい家庭で育ったため、好きな絵本を選んで買ってもらうという余裕はありませんでした。家にある絵本といえば、母が仕事先からもらったものばかり。しかも数冊程度しかなかったと思います。

    姉弟で楽しんだ世界美術全集

    絵本代わりに姉弟で眺めていた世界美術大全
    お気に入りはルネサンス期のページ

    絵本の代わりに家に揃っていたのが、世界美術全集でした。実は、私の父は小学校の教員でしたが、美大の油絵学科を卒業していて、もともとは画家志望。私が4歳くらいのとき、「やっぱり画家になりたい。絵を描く」と言い出して、突然、教員を辞めてしまったのです。姉は7歳、弟が3歳くらいのときです。しっかり者の母が働いてなんとかしていましたが、生活は楽ではありませんでした。

    きもとももこさん

    私が生まれ育った東京都練馬区は、当時、周囲は農家が多いところで、近所の石神井公園に弟を連れてよく遊びに行っていました。自然豊かな場所で外遊びをすることに加え、姉弟で楽しんでいたのが、絵本ならぬ、世界美術全集を眺めることでした。父にとって大切な全集だったと思いますが、幼い私たちが見ていても叱られることはなく、自分のお気に入りのページもできました。

    私が好きだったのは、ルネサンス期のページです。なかでも飽きずに見ていたのが、ドイツの画家シュテファン・ロッホナーの「最後の審判」。善良な人たちは天使になり、強欲な人は悪魔に連れて行かれて火にあぶられて拷問を受ける……という描写に物語性を感じて魅了され、飽きることなく眺めていました。

    父は自宅で絵を描いていたので、画材も揃っていて絵を描く環境は十分整っていました。父も私たちに「油絵を教えてあげる」というのですが、“指導”になるので私は苦手でした。その上、姉はものすごく上手で、弟も色彩を褒められるのに、私は「へたくそだな」で終わり(苦笑)。普通に色鉛筆で女の子のイラストを描くのは好きでしたが、油絵で描くのは楽しくありませんでした。

    そんな状態から、やや本格的に絵に親しむようになったのは、姉の影響が大きかったと思います。姉は高校生になるとカラーインクを使って絵を描くようになり、当時中学生だった私もまねて、ペンで動物を描いてはカラーインクで色を塗っていました。

    中2の頃、友人にイラストつきの年賀状を送ったところ、その子のお父さんがたまたまグラフィック・デザイナーで、私の年賀状を見て「いい絵を描いたら、仕事で使ってあげようか」と言ってくれたのです。真に受けて、何枚か描いて見せました。しかし実現することはなく……でも、とってもうれしかったです。やがて姉が美術系の大学に行くために予備校に通うようになり、私も絵の道に進みたいなと思うようになりました。

    きもとさんが公文式学習から学んだこととは?

    中学で数学の成績が落ちて公文式を開始
    成果はすぐ出てテストはいつも満点

    公文式を始めたのは中学1年生の冬です。定期テストで数学の点数がものすごく悪くて、塾に行かなくてはと思うようになり、近所で評判の公文式教室に行くことにしました。

    小学生のときに習っていたピアノやそろばんはすぐ飽きてやめてしまったのですが、公文式は私には合っていたようで、中学3年生まで続けることができました。教室という場所も大好きで、今でも教室のにおいを覚えているぐらいです。教室に通ううちに、数学の成績はみるみるうちに伸び、テストはいつも満点。高校受験が終わるまで続け、受験に役立ったのは言うまでもありません。

    大人になった今、周囲には、公文式で基本を徹底的に身につけることで、その後伸びているお子さんがたくさんいます。私は中1で始めましたが、小さい頃からやっておくといいかもしれませんね。ちゃんと続ければ、できるようになる。公文式からは、そうしたことを学んだと思います。絵にしても続けてきたからこそ、今があると感じています。

    高校卒業後は美術系の専門学校に進もうと思い、高校では全然勉強しませんでした。ところが高3の夏、志望していた専門学校が実施する夏期講習に参加したところ、自分でも不思議なほどほめられました。うれしいというより、逆に「ここは私が求めるレベルより低いところかもしれない。自分が思うような勉強ができないのではないか」という不安を感じて、最初は考えていなかったもう少し難易度が高い別の専門学校を目指すことにしました。そのために美術系の予備校に通いはじめたら、今度はレベルがとても高くてついていけないという思いをしました。

    予備校の講評会では、上手な人は上段真ん中、下手な人は隅のほうに絵を置かれるのですが、私は一番下手な層でした。それがくやしくて、絶対上にあがるぞと奮起しました。何をしたかというと、トップの受講生の隣に座って、どうやって描いているか観察したのです。すると2ヵ月後、「運が良ければ美大に受かるかも」というレベルまでアップすることができました。

    きもとももこさん

    美大受験にはいろいろな科目があります。そのひとつ「平面構成」という科目だけ、私は最初からよくできていました。子どもの頃から美術全集を見ていたり、親に付き合って美術展に行ったりと、名作をよく観ていたからかなと思います。「絵とはこういうものだ」ということが、幼い頃から自然にインプットされていたのかもしれません。そうこうしているうちに欲が出て「美大に行きたい」と思うようになりました。

    後編を読む

    関連リンクミーテ きもとももこさんインタビュー


    きもと ももこ

    後編のインタビューから

    -卒業制作の作品が「原弘賞」に
    -『うずらちゃんのかくれんぼ』ができるまで
    -きもとさんからのメッセージ

    後編を読む

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