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Vol.470 2023.02.07

児童発達支援・放課後等デイサービスでの公文式学習(前編)

未就学児から18歳まで
継続した療育で
自分がしたい暮らし」を目指して

大阪市内で3つの施設を運営する「るみっく」は、発達に気になるところがある子どもや障害のある子どもたちが、放課後などを使ってコミュニケーション能力を養うトレーニングや学習支援などを行う施設「放課後等デイサービス」です。
「るみっく」には3つの施設があります。主に未就学児対象の「るみっく」、軽度の小学生の利用が多く学習支援が中心の「るみっく蒲生教室」、そして小学校高学年以上対象で就労も見据えた「るみっくぷらす」です。いずれのグループ施設においても、公文式学習を活用しながら、就学前から高校卒業まで一貫して子どもの育ちを支えています。
前編ではこの3つの施設を運営する一般社団法人St.rise代表理事の石原史子さんにお話をうかがい、施設を開所した背景や公文式を導入した理由、公文式学習での利用者さんの変化などを紹介します。

目次

    わが子が笑顔でいられる場をつくりたい

    翼を広げて、大空に羽ばたく白い鳥たちが描かれた「るみっく」のエントランス。それは「るみっく」石原代表が、通所する子どもたちにかける思いとつながっていました。

    「“るみっく”には“未来の光”という意味を込めています。どんな障害があっても、キラリと光る個性を生かして未来に向けてはばたける。子どもたちの個性をのびやかに育みたいと思っています」
    そう石原代表は施設名への思いを語ります。

    児童発達支援での公文式学習石原代表と娘の里菜さん

    石原代表が「るみっく」を開所する大きなきっかけとなったのは、娘の里菜さんが小学3年生のときに発達障害と診断されたことでした。まずは母親として障害について学ぼうと、当時勤めていた会社を辞め、福祉業界へ転職。介護支援専門員(ケアマネジャー)の資格を取得し、介護施設で働くようになりました。

    やがて里菜さんは特別支援学校高等部を卒業。一般企業に就職しましたが、しばらくすると職場の人達とのコミュニケーションに悩むようになり、笑顔が消え、「やめたい」と口にするようになったといいます。

    「娘が笑顔でいられる場をつくりたい。そう強く思いました。私もちょうどキャリアチェンジの時期を迎えていたこともあり、それなら娘と一緒に笑顔で働ける場を、自分たちでつくろうと考えたのです」

    もともと里菜さんは子どもが好きで、保育士になる夢を持っていたこと。そして石原代表は、仕事をしながらの子育てが大変だったとき、多くの方々に助けられたとの思いから、「今度は自分が恩返しする番だ」と考えていたこと。そんな二人の思いが重なり合って生まれたのが、児童発達支援・放課後等デイサービス「るみっく」でした。

    「私自身が障害のある子の母親です。だからこそ障害児の保護者の立場に立った、きめ細やかな療育を提供できるし、提供したいと思いました」と石原代表は開所の思いを語ります。

    一人ひとりの“その子らしさ”を大切にし、“キラリ”と光る部分を伸ばしていこう。
    家族同様の愛情で、子どもたちに接していこう。
    子どもたちの小さな成長も見逃さず、一緒に喜ぼう。
    将来子どもたちが社会参加する際に必要となる、ルールやマナーの習得をサポートしていこう。
    そして、心身の成長に最適な活動を取り入れて、子どもたちの能力を高めていこう。

    そんな運営方針を掲げて、「るみっく」は2014年にスタートしました。

    自立した社会生活を送るために

    自立には「言葉」と「数」が必須

    開所当初から石原代表が重要視していたのは、利用者の「18歳以降の自立」。療育内容もそれを見据えたものにしようと考えました。

    「私が考える、障害のある子の自立とは『自分がしたい暮らしができる』こと。そのためには、自分で考え、自分で行動し、困ったときには『助けて』と言えることが必要です。将来、自立した社会生活を送れるよう、そのための練習をさせてあげたい。そう考えて『るみっく』では子どもたちにさまざまな活動を提供しています。

    その中でも要となっているのが公文式学習です。将来社会参加をしたとき、人の話や書かれている内容を理解できなければ本人が困ります。公文式学習に取り組むことで、自立の土台となる言葉や文字、数や計算の力を身につけることができると考えています」

    児童発達支援での公文式学習るみっくでの
    すうじ盤やプリント学習

    実は石原代表自身が公文式の学習経験者で、里菜さんと里菜さんのお兄さんも、就学前から公文式を学習していたそうです。

    「子どもたちがまだ小さかったころ、自分で子どもたちにひらがなを教えようとしたのですが、何からどのように教えたらよいかがわかりませんでした。その時にふと、自分が学習していた公文式を思い出し、教室に通わせることにしたのです。長男は教材をどんどん解き進み、学ぶことが好きな子に成長しました。一方の里菜も、他の子より少し遅れているかなと感じることはありましたが、当時は障害があるとは思っておらず、続けているうちに、語彙が増え、ひらがなも書けるようになっていきました。また家庭でも、公文の先生に勧めていただいた教具を使って、数字や時計の見方、ものの名前などを楽しみながら覚えていきました。私の子どもたちは公文の教材や先生のアドバイスのおかげで成長できたと思っています」

    里菜さんは「るみっく」設立当初から、障害のある子たちを指導する「里菜先生」として活躍していますが、その土台には、公文式で培った読み書き計算といった基本的な学力とともに、粘り強く継続する力や獲得した語彙により、思ったことを表現できる力がありました。わが子の学習を通じて、石原代表は「公文式は子どもたちが自分のペースで教材を進めることができる、とても優れた学習方法」だと実感し、「るみっく」でも取り入れることにしたといいます。

    しかし「るみっく」の利用者の中には、初めからきちんと座ってプリントをできる子もいれば、学習する以前に、座ることすら難しい子もいます。そのため当初は、プリント学習ができる子とそうでない子とを分けて対応しようとしたそうです。

    「ところが、公文の会社の担当者から『どの子も学ぶ権利があるのでは? みんな一緒でいいですよ』と言われたのです。その言葉で、全員が同じ場所で学ぶ必要性があることに気づきました」

    早速、どの子も分けずに一緒に学習することにし、座ることが難しい子は、まずは学習に必要な「座ること」を最初の目標にして、「るみっく」での公文式学習がスタートしたのです。

    見えてきた公文式学習の成果

    「学習の作法」も身につくように
    児童発達支援での公文式学習るみっくぷらす外観

    石原代表の言葉を借りれば「くり返し、くり返し、試行錯誤の連続」だった公文式学習も、次第に成果が見えてきました。

    「当初、公文式は『言葉や数を学習するための手段』と考えていました。しかし実際には、それだけではなく、注目する、耳を傾けるといった『学習の作法』も身についてきたのです。例えば学習後、子どもたちは学習したプリントの向きを揃え、トントンと整えて、ひもで綴るのですが、これは、言われたことを理解し、そして手先を器用に使うことができるからこそできる作業です」

    就学前の3~6歳の子どもたちが通う「るみっく」での公文式学習は、まさに「自立の練習」。開始時には「学習をはじめます。よろしくお願いします」、終了時には「おわります。ありがとうございました」と全員でごあいさつ。椅子の準備や片付けも、職員に促されることなく子どもたちが自ら行います。学習作法が身につき、場面の切り替えがしっかりとできている証拠です。

    前半のカードタイムでは、職員が次々と見せていく「ひらがなことばカード」や「国旗カード」に子どもたちは意識を集中。わかった子は手を挙げて元気よく発言します。ペルーやパプアニューギニアなど、大人でも答えに詰まるような国名でも、次々と難なく回答する子どもたちの様子からは、「記憶力」がしっかり養われていることがわかります。

    「入所時は発語のなかった子でも、一語でも発語があればほめてあげることをくり返すことで、次第に声を出すことに自信を持つようなり、自ら言葉を発し、手を挙げて発表しようとするようになります。同様に、当初は動きが少なかった子でも、できたことをほめることで、次第に、座る、待つ、見る、聞くなどの指示に従って行動できるようになっていくのです」

    続くプリント学習タイムでは、自分のレベルに合った公文式の「運筆」「国語」「算数」の教材に熱心に取り組みます。子どもたちは、見学者がいても気にする様子もなく、学習への集中が途切れません。手元のプリントを見ると、適切な大きさの読みやすい文字や数字が、力強く、丁寧に書かれています。「運筆教材をしっかりやってきているからこそ、ひらがなや数字をしっかり書けるのです」と石原代表。子どもたちの姿は、積み重ねることの大切さを教えてくれます。
    そして学習が終わると、職員に採点をしてもらいます。プリントに大きなマルと「100」点を書いてもらった子どもたちは、みなとてもいい表情です。

    「『よくできたね』とほめられることで、子どもたちはうれしくなり、自信がつきます。途中でつまずくこともありますが、それを乗り越えたとき、子どもたちは輝くような笑顔を見せてくれます。何よりうれしいのは、私がめざす『自分で考えて、答えを出すこと』ができるようになってくること。これは公文式が、自分で考えて解いていく仕組みだからできるのだと思います。公文式の『自学自習』は、私が大切にしている『るみっく』の理念とまったく同じ。公文式学習は将来の自立に必要な、『自ら考えて行動する力』に、確実につながっています」

    後編を読む

    関連リンク 公文教育研究会 施設・学校向け公文式導入事業 放課後等デイサービスでの公文式学習①(前編)|KUMON now! 放課後等デイサービスでの公文式学習①(後編)|KUMON now! 公文式を導入している障害児・障害者支援施設での学習効果アンケート|KUMON now! 児童発達支援・放課後等デイサービスでの公文式学習|KUMON now! “つながる”療育支援―児童発達支援、放課後等デイサービス、自立訓練・就労移行支援施設での公文式 |KUMON now!  療育のなかのKUMON-放課後等デイサービスでの取り組み|KUMON now! 児童発達支援 放課後等デイサービス るみっく – 大阪市

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