療育と共通した“ほめる”と“スモール・ステップ”が公文式導入の決め手に
まずは、施設開所のきっかけや思い、そして公文式導入のきっかけや決め手について、「べりい・べりいー」の代表を務める住江佳子さんにお話をうかがいました。
住江代表は、ご自身が施設で働き始めた頃から児童へデイサービスを行っている施設が少なく、待機児童が多くいたことが気になっていたと言います。そこで「障害がある子どもたちの心の豊かさに触れるなかで、ノーマライゼーション(※1)の理念に基づき、関わり合う者同士が磨き合える場をつくりたい」という思いで、2012年に児童通所施設「べりい・べりいー」を開所。主に社会で自立して生きていくためのソーシャル・スキルの構築や、身体的機能の基盤をつくるための療育を行っています。
「べりい・べりいー」では、幼児から小学校低学年の児童発達支援「little(リトル)」と、小中高生対象の放課後等デイサービス「モア」という2つの施設で公文式を導入しています。
きっかけは、保護者から学習面についての悩みを寄せられることが多かったこと。職員たちと会議を重ねていくなかで浮上してきたのが公文式でした。職員自身が子どもの頃に学習を経験していたり、職員のお子さんが公文式学習を通して、「できた」という自信を育む教材の効果を実感していたことが大きかったそうです。
「できること、得意なことを伸ばし、またできないことは段階を追って徐々にステップアップしていく公文式の“スモール・ステップ”と、療育の現場で必要とされる“スモール・ステップ”は、相通ずるものを感じました。また、ほめることにより子どもたちの学習に対するイメージがポジティブに変わることは、子どもたちのさらなる可能性を広げることにもつながると考え、公文式の導入を決めました」
※1ノーマライゼーションとは?
ノーマライゼーションとは、社会福祉の分野において、障害の有無や性別、年齢の違いなどによって区別をされることなく、主体的に、当たり前に、生活や権利の保障されたバリアフリーな環境を整えていく考え方のこと。
ほめる回数が増え、職員のモチベーションに
2017年に「little」での導入がスタート。「little」には、主に0~3歳を対象に食事や身支度といった身辺自立が目的である午前の部と、主に幼稚園や保育園、小学校低学年を対象に、一人ひとりの課題にあわせてコミュニケーションやソーシャル・スキルを身に付けることが目的である午後の部があります。これらのうち午後の部で公文式が導入されました。その「little」での効果を職員たちが実感したことから、2019年には「モア」でも公文式が導入されました。
住江代表は、無理をさせるのではなく、日々の積み重ねでいつの間にかできるようになり、自然に子どもたちの自信を育んでいくことができるところに、公文式の良さを感じているそうです。
「学習レベルが上がることだけでなく、学習に臨む姿勢にも表れています。たとえば、ふだん子どもたちは今日の出来事などを話しながらワイワイとにぎやかにしているのですが、公文式学習が始まる時間になると、にぎやかだった空気が一変し、子どもたち一人ひとりが集中して問題に取り組むのです。その姿を見るたびに“ここまでできるようになった”と、いつも感動しています」
また、公文式を導入したことによって日々成長した姿を見せているのは、子どもたちだけではありません。住江代表は、職員もステップアップしていると感じているそうです。
「もともとlittleでは、子どもたち一人ひとりの成長、発達、未来を応援していく、という姿勢を大事にしているのですが、公文式を導入して以降は自然と子どもたちをほめる回数が増えていると感じています。子どもたち一人ひとりをさらによく見られるようになり、良いところ、苦手なところを細かく把握しながら、その子に合ったほめ方を考えるようになったのだと思います。これは、スタッフのモチベーション向上にもつながっていると思っています」
住江代表が「べりい・べりいー」を開所した理念でもある「触れ合う者同士がお互いに磨き合える場」が実現。公文式の導入が、施設全体にプラスの効果を生み出していることを実感しているそうです。グループの就労継続支援施設「心愛(ここあん)」でも導入を検討しており、「ゆくゆくはlittle、モア、心愛と縦のラインで公文式を学習し、社会生活に必要な自立した力をつけてもらえたらと考えています」と語っていただきました。
自由なスタンスとほめられることで、職員にも生まれた“できた”の達成感
児童発達支援公文担当者の雨堤さん |
次に児童発達支援の「little」の管理者であり、公文を担当する雨堤(あまづつみ)有紀さんに、お話をうかがいました。「little」では、早期療育の重要性に伴い、自尊心の基盤となる幼少期でのサポート、初めての子育てで悩みを抱えている保護者のサポートを行っています。
雨堤さんは「公文式学習を療育に取り入れることで、どんな発見、どんな成長があるのだろう」という期待とともに、「職員自身や職員の子どもが経験したなかで感じていた公文式学習の素晴らしさを療育に取り入れられる」ということに喜びを感じていたそうです。また保護者に導入について説明した際には、雨堤さんと同じような期待を感じている方が多かったそうです。
「一番ありがたかったのは、KUMONの担当社員が『やってみたいと思ったことは、ぜひやってみてください』と言ってくれたことでした。自分たちで考えて、失敗した時にはまた考えて、私たちだけでは解決できない時には的確なアドバイスをしてくれたり、気づいた点をさりげなく教えてくれたりしながら見守ってくれたので、職員たち自身に“やった!できた!”という達成感が生まれました。またKUMONの社員は、ほめるポイントを見つけるのが上手で、会うたびに私たちをたくさんほめてくれます。ですから職員たちも生き生きと取り組んでいます」
療育の一部としての公文式学習の位置づけ
オンライン取材を受ける雨堤さん |
「ただ導入するのではなく、療育の一部としての公文式学習の位置づけ、ということを日々慎重に考えています」と雨堤さん。たとえば、littleでは公文式学習を休みたい時には、その子自身がその日の採点者の職員に「お休みしたい」ことを告げにいく、というルールが設けられています。その理由を、雨堤さんはこう説明してくれました。
「導入を始めて、ある子が『今日はつかれたから、公文やりたくないな』とポロっとつぶやいたのが聞こえました。そのまま『休んでいいよ』と言うだけでもよかったのですが、ふとこれから子どもたちが社会に出た時のことを考えました。学校や会社を休む時は『休みます』と連絡をすることで成立するよねと。それならこちらから『いいよ』と言うだけでは療育にはつながらないと思ったのです。そこで休みたい時には自分で採点者に『休みたいです』と言うことをルールとして設けることにしました」
ただ、今は「休みたい」という子どもはゼロだと言います。幼稚園を終えて施設に来た時に「つかれた」と言う子どもも、職員が「大丈夫?公文はお休みにしてもいいよ」と言うと、「やだ!やりたい!」と言って、楽しそうに取り組むのだそうです。
社会性を身に付ける効果を生み出す公文式学習
公文式の国語と英語を導入後の子どもたちの様子についても、聞いてみました。雨堤さんは子どもたちがみんなからたくさんほめられる機会がつくられていくなかで、自信につながっていることを感じているそうです。
「たとえば新しい課題のプリントに取り組む際、『これ、できるかな』と不安になる子どもも少なくありません。でも、周りの職員みんなで『きっと、できるよ!』と励まし、やってみたらできた、という経験が自信にもなっているので、『やってみよう!』となるのです。挑戦する気持ちが芽生えているところに一番の成長を感じています」
また英語学習で、子どもたちの可能性について新たな発見も生まれています。
「littleをご利用いただいているご家族の方の中には、発音・発語について悩まれていることが多いのですが、公文式英語を導入した結果、大人の私たち以上にきれいな発音で英語の単語を言ったりします。また最初は『アー、アー』としか言えなかった子どもが、今では英語リスニング機器E-Pencilの音を聴かなくても、自分で教材を見て単語を発音できたりしています。これは私たち職員にとっても、新しい発見でした」
公文式を療育に導入することで、子どもたちに大きな力が育まれていることを実感すると、雨堤さんは言います。その中でも最大の効果は、学校や社会に出た時のルールが身につく、ことだと感じているそうです。
「名前を呼ばれたら『はい』と返事をしてファイルを取りにくることだったり、お友だちとワイワイやっていても『公文やるよ』と声をかけられたら一斉にテーブルの席についたり、採点してもらっている時には順番に並んで待つなど、礼儀やマナーも自然と身についているのだなと感じます」
関連リンク 株式会社ラピティ
“つながる”療育支援―児童発達支援、放課後等デイサービス、自立訓練・就労移行支援施設での公文式 |KUMON now! 療育のなかのKUMON-放課後等デイサービスでの取り組み|KUMON now!おすすめ記事
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