【おことわり】この記事でコメントくださっている方たちは医療従事者(公文式学習者のお二人は除く)であり、コメント中には患者様の個人情報も含まれるため、個人情報保護、また医療機関としての守秘義務もあり、詳細に記述できない箇所が少なからずあります。どうぞご了承ください。
患者さんたちの社会復帰の大きなポイントのひとつは
地域連携のサポート
![]() 浅倉部長(作業療法士) |
大分県大分市。JR大分駅から豊肥本線で一駅の滝尾駅から歩いて5分と少し、静かな住宅街の一角に諏訪の杜病院(医療法人光心会)はあります。整形外科やリハビリテーション科をはじめ10以上の診療科がある病院ですが、大分県では高次脳機能障害(以下「高次脳」と表記)の方たちを支援する拠点病院として知られています。
朝8時すぎから三々五々患者さんたちが来院し、9時前には玄関すぐの待合室はほぼ満席です。「おはようございます」、「きょうの体調はいかがですか」など患者さんたちと病院スタッフとの元気なあいさつがそこかしこから聞こえてきます。この方たちの大半は、高次脳をはじめさまざまな病気やケガなどの回復のためのリハビリテーション(以下「リハ」と表記)をするために来院されています。
まず、高次脳の拠点病院としての役割や課題などを、諏訪の杜病院の浅倉部長(作業療法士)にうかがってみました。
「拠点病院そのものの役割としては、高次脳の評価や診断を適切に行うことはもちろん、そのあとリハの訓練で認知機能を高め、代償手段も使いながらさまざまな機能回復をめざします。それと、復職や復学なども含めた退院後のサポートのため地域の支援機関や支援者と連携し、支援体制の構築に努めています。拠点病院はそれらに加え、高次脳への理解を広めるための啓発活動や幅広いネットワークづくりに力を入れています。」(浅倉部長、以下同じ)
「国が定める狭義の高次脳はそのリハも含め、本格的な治療の対象となってからまだ10年ほどです。そのため言葉自体のなじみもまだまだ浅く、症状がお一人おひとり異なることもあり退院後のサポートが大きな課題です。当院に来られる患者さんは比較的若い方の割合が高いこともあり、退院後の目標は復職・復学が多いですね。子育てを含めた主婦業にもどりたいというご希望の方も少なくありません。そのときポイントになるのが身近な地域のサポートなのです。」
「公文式学習者で印象に残っている方がいます。医療機関としての守秘義務があるので、詳しくはお話しできないのですが…。脳炎で集中治療後、当院に来られた方です。身体のマヒなどはないのですが、全般的に高次脳の影響で入院当初は基本的な日常生活も声掛けなどの介助が必要な状態でした。まずは、通常のリハに加え、公文式学習も併用し、注意集中力や作業スピードの向上に努めました。ご本人は、毎日大忙しの入院生活です。1か月ほど経過すると全般的に高次脳に改善を認め、記憶障害が主な症状として表面化しました。そこで作業療法のリハで調理を開始。開始当初は、イチゴヨーグルトを作るときボールにイチゴを入れ、その上にヨーグルトをかけると “あっ、イチゴがない!”という状態。そこで毎夕の病院食をいったんお休みにして、作業療法士といっしょに夕食を作って食べるというリハを追加しました。それに慣れてきたら、一緒にバスに乗ってスーパーへ行き、1週間分の食材を買うトレーニングもしました。そんなリハをくり返しようやく退院を迎えました。」
「けれど、ご本人がたいへんなのはここからです。家事、子育てと自分以外の生活にも目を向けないといけません。退院前には、自宅近くの高次脳をフォローできる病院探し、お住まいの地区担当の保健師さんとの連絡調整、家族への障害説明や指導などを行いました。このように地域のいろいろな支援者を巻き込み、家族を含めた生活支援の体制を整える必要があります。幸いなことにご実家が近く、毎日の料理をご実家のお母さんと作り、自宅へ持って帰るという生活が確立しました。いつも感じることですが、こうした地域の連携があるからこそ、患者さんたちはふつうの生活に近づき、社会復帰ができます。ほんとうに感謝の言葉しか浮かびませんね。」
※高次脳機能障害・・・脳卒中などの脳血管系の病気、交通事故による脳挫傷などの脳損傷が原因で、脳の機能のうち、言語や記憶、注意、情緒といった認知機能に起こる障害を高次脳機能障害と言います。記憶力や注意力の低下、感情のコントロールが困難になるなどの症状も現れますが、その症状は百人百様です。