「自信がないために、良いところや秀でた能力を発揮できない人が多い」
![]() フォレスト 高橋さん(所長) |
東京・葛飾と聞くと、「わたくし、生まれも育ちも葛飾柴又です」の口上でおなじみの映画『男はつらいよ』や、派出所勤務の警察官の下町奮闘記を描いた長寿ギャグ漫画『こち亀』(正式名称:『こちら葛飾区亀有公園前派出所』)を思い浮かべる方も多いことでしょう。フォレストは、下町情緒漂う街並みの一角、葛飾区役所を目の前に望むビルの2階にあります。階段をのぼり、入口の扉を開けると、20人ほどのフォレストの利用者のみなさんの笑顔に迎えられました。
障害のある方たちの就労のハードルは、大きく2つあるといわれています。ひとつは仕事に就くことそのもの。もうひとつは、仕事を長期間続けること(就労継続)のむずかしさ。この2つのハードルを越えるため、障害のある方に寄り添いながらサポートするのが就労移行支援事業所(※)なのですが、フォレストの利用者のみなさんのにこやかな表情からは、その「ハードル」が連想できにくいのです。まず、そのあたりから、フォレストの高橋所長にうかがってみました。
「就労移行支援事業所の大きな役割は、文字通り障害のある方の就労サポートです。特別支援学校を卒業したばかりのフレッシャーズも対象ですし、仕事に就いたものの、さまざまな事情で離職してしまった方の再就職の支援もしています。しかし、それ以上に大切なのは、いかに長い期間、安定して仕事を続けられるかだと考えています。そのとき、まず課題となるのは、事業所を利用される方たちのメンタルの状態です。みなさん、それぞれに良いところや秀でた能力をもっているのに、自信がないために、それらが発揮できていない方がとても多いと思います」(高橋所長)
※「就労移行支援事業所」 就労移行支援事業所は、障害者総合支援法に定められた障害福祉サービスのひとつである「就労移行支援」のサービスを提供します。障害のある方を対象に、仕事をするうえでの必要なスキルや能力を身につけるためのさまざまな職業訓練プログラムを用意するほか、面接対策なども指導し、就職活動全般をサポートします。また、「就労移行支援」は比較的新しいサービスです。2006年の障害者自立支援法(2012年改正、2013年障害者総合支援法に)の施行に伴い、それまでの「授産施設」「小規模作業所」(通常の就労がむずかしい障害者のための働く場)のほとんどは、就労そのものの場を提供する「就労継続支援A型(雇用契約あり)」「同B型(雇用契約なし)」、そして就労に必要なスキルや能力の向上を図るための「就労移行支援」などの施設や事業所へと順次移行してきています。
「就労移行支援事業所は、学びの場であり、人材育成の場でもありたいと考えています」
![]() フォレスト 伊藤さん(サービス管理責任者) |
フォレストのサービス管理責任者の伊藤さんがこう続けます。
「フォレストに来られた当初、人とうまくコミュニケーションできなかったり、何事にも消極的だったりという方が多いと感じています。でも、それは一時的な状態で、これまで何年もの生活のなかで、できなかった体験や挫折などが折り重なり、自信をなくしているからだと思います。就職するのは簡単ではないですが、利用者さんとともに職種や会社を選び、就労のためのトレーニングをきちんと積めば、実現できそうだという感触はあります。けれど、大切なのはそのあとで、“自分はこれでいいんだ”“この仕事で会社に認められている”という自信をもちつつ、仕事を長く続けられることだと思います」
「だからこそ、ここで提供しているさまざまなプログラムをこなすことで、就労に必要なスキルや能力を育てていくとともに、そのプロセスで“やればできる!”という感覚を身につけてほしいのです。その感覚や体験を重ねることで、自信、つまり自分を信頼する気持ちが育ってくるはずです。自信…、自己肯定感といってもよいかもしれませんが、自信があれば周りの人ともうまくかかわれますし、心も折れにくくなると思います。そういう人になって巣立っていってほしいですね。その意味では、就職はゴールではなくスタート。フォレストも障害のある方たちの学びの場であり、さらに人材育成の場でもありたいですね」(高橋所長)
じつは、冒頭のタイトル「“働きたい”を尊重し、育てています。できることをじっくりと、一緒に伸ばしていきましょう」は、フォレストのホームページ内にある一節を拝借したもの。高橋所長はじめ、スタッフのみなさんの真摯で熱い想いが詰まっています。