自分に向けて投げられたボールはできるだけ打つ
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そうして教壇に立つようになるのですが、まさか、自分の興味がここまで広がり、教える立場になるとは思っていませんでした。自分としては、目の前のボールを打ち続けてきたという感じで、それがどこに飛んでいっているか、次のボールがあるかどうかもわかりませんでした。ただ、投げていただいたものはできるだけしっかり返そうと思って、ここまできました。
私はさまざまな大学で、美術史を中心に、染織や服飾、江戸文化論など多彩な講義を受け持たせていただきました。その時々で私にとってはチャレンジなのですが、それらすべてが今の研究の基盤となっていると感じます。これまでファウルも空振りもあったかもしれません。けれども自分なりにがんばったと感じた時、何かが残ります。私の場合、「経験」であり、「人とのつながり」であったと思います。だからこそ、若い人には目の前のことを一生懸命にやり続けて何か成し遂げて欲しいですね。
「いまの学生について思うことは?」と聞かれると、自分の大学生時代もいろいろ言われていたと思いますし、そもそもいつの時代も「若者はここがいけない」と言われてきました。江戸時代でもそうだったんですよ。簡単に「いまの学生は」とは言えないなというのが実感です。学生は自身の鏡でもあると思っていますし、私としては一人ひとりをどう見ていくかが自分の課題だと感じています。ただ、彼らが大学を卒業後、「大学っていいところだったな」と思ってくれたらいいですし、できれば在学中に、「限られた時間の大切さ」を知って欲しいですね。
私は「学び」と「遊び」は似ていると思います。共通しているのは好奇心。やる気があれば社会人になってからでも学べます。いつの時点で学んでも「学べるのは楽しいことだ」と思って欲しいと思います。江戸文化に遊び心があふれていたように、自分の学びの中に楽しみや自分なりの遊び心を見つければ、それは一過性のものではなくライフワークになる可能性を秘めています。