誰もが閲覧できるオープンな博物館を目指したい
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私がデジタル・アーカイブに熱心なのは、「誰もが自由に有形・無形の文化資源を閲覧できるようにしたい」との思いがあるからですが、それは学部の卒業論文を書くときに体験した、ある悔しさが原動力になっているのかもしれません。
卒論のため、江戸期の歌舞伎作者の自筆台本などの原本を確かめたいと、早稲田大学の演劇博物館へ行ったのですが、学部学生には原本の閲覧は許可してもらえませんでした。それでも何度も足を運んでお願いし、ようやく見せてもらうことができました。
その後、その演劇博物館のある早稲田大学大学院に進学したのですが、私の研究対象は、舞台そのものから日本演劇の歴史的な史料そのものへと変わっていきました。そもそも大学院では、私より歌舞伎や演劇に詳しい院生がたくさんいて、なかなか太刀打ちできませんでした。そこで、くずし字が読めるという自分の得意なことを活かせる分野に進んだのです。
ちょうどその頃、研究室にコンピュータを導入することができたのは幸いでした。これまで手作業でカードに書いていたものを、コンピュータにどんどん入力していく仕事を買って出て、一晩寝ずに入力することもありました。この情報整理が当時の私の役割で、今振り返ると、これがデジタル・アーカイブの始まりでした。地道な入力作業は大変と思われるかもしれませんが、好きなことなので楽しかったですね。
折しも、私の指導教授で、江戸歌舞伎研究者の鳥越文蔵先生が、第5代目の演劇博物館館長に就任されました。鳥越先生は、演劇博物館を開放的にしていくプロジェクトに取り組まれたのです。鳥越先生は、史料好きの私をこのプロジェクトを推進するために博物館所属の助手として抜擢してくださり、まずは博物館の所蔵品の情報共有化に着手することになりました。とはいえ、すべての情報を公開できるようにするには、技術がないと難しく、工夫が必要でした。そこで、コンピュータを活用したデジタル・アーカイブへと踏み出したのです。