埋もれていた文化資源を見つけ、育てていく
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私はもともと日本の文化、特に江戸時代の文学・芸術・芸能が専門です。学びのジャンルが広がったいま、文化は情報としてとらえられていて、今は「日本文化情報専攻」の教員として学生を教えています。これは、文学、絵画、演劇などを情報の観点で探求することに加え、「資源」を管理・整理する図書館学や書誌学などの視点も導入した学問です。
「資源」とは、かつては「史料」と言われていたものです。「史料」だと専門家のみが使う「価値あるもの」だけになってしまいますが、そうではなく、いままで知られていないすべてのものを拾い集め、可能性を広げていくという考え方からきています。これは世界的な潮流となっていて、デジタル・アーカイブの世界でも、「文化財」や「文化遺産」ではなく、「文化資源」と表現する場合が多くなりつつあります。
「資源」は世界中に散らばっており、その一つひとつに命があります。レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた油彩画「モナ・リザ」は資源のトップスターと言えるでしょうが、一方でまだ誰にも見向かれない資源もあります。その埋もれていた資源の可能性を見つけ、磨きあげて育てていくのが私の仕事のひとつで、そういう意味では一人ひとりの可能性を見つけて伸ばしていく教育活動と同じですね。
その実現に役立つのがデジタル・アーカイブなのです。大学では、デジタル・アーカイブによる資源の保存や活用を研究しています。今年も、私が指導している大学院生がイギリスにある大英博物館にインターンシップに行ってきました。彼らは研究室で資料の取扱いだけでなく、デジタル技術を修得して、それを武器にして大英博物館が求める「各種コレクションのデジタル化」に貢献できるのです。こうしたデジタル・アーカイブの教育メソッドを実践的につくっていくのも、私の仕事の一つだと思っています。
日本は過去のどの時代においても、世界でもまれにみる魅力的な文化をもっています。海外からは「あれも、これも素晴らしい」と言われるほどですが、当の私たちはそれをあまり意識せずに生活しています。自分たちが考える「価値あるもの」にしか目を向けず、日本文化のもつ可能性を断切ってしまってはいないでしょうか。
しかし、デジタル・アーカイブによって、埋もれている「日本文化の素晴らしさ」にも光が当たる可能性が出てきます。誰もがどこでも閲覧できるので、片隅に転がっていたものが注目を浴びる可能性があるのです。デジタル・アーカイブは学術研究を劇的に変化させましたが、日本への理解が進むことにも貢献すると思っています。