自信を失い「ピアノをやめよう」と思ったことも
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ドイツの教育制度は日本とは少し異なります。小学4年生から5年生になる10歳くらいの早い時期に自分の道を決めるのです。ドイツの小学校は実際には4年生までしかなく、小学5年生から先は、5種類ほどの進学の道があり、そこから選択します。私はギムナジウムという8年制の中・高等学校一貫コースに進学しました。だいたい大学を目指す人が通うコースで、日本でいえば小学5年生から高校3年生までが同じ学校に通学しているイメージです。
ギムナジウムに進むのと同じ10歳の頃、ロベルト・シューマン音楽大学のジュニアコースに合格し、2週間に1回週末に音楽理論と歴史の授業を受けに通い、それ以外にも週に1度師事している教授からレッスンを受けられました。その時期からコンサートで演奏させてもらえる機会も増えていき、ピアノは私にとって一段階上の存在になりました。ピアノは楽しいけれど、あくまでも趣味という位置づけから、プロへの道を考えるようになっていったのです。
そうして学業とピアノを並行していたのですが、15歳の夏、「もうピアノはやめよう」と思ったことがありました。同じ年代の子と自分を比べてしまって、自分に自信がなくなってしまったのです。趣味のレベルではなくなってから、世界的なコンクールに触れる機会が多くなり、そこで受賞する子たちをみて、「自分はここまでの才能はないのでは」と感じてしまいました。ピアニストではなく、普通の職についたほうがいいかもしれない、と考えることもありました。
その思いが変わったのは、あるアカデミーの合宿レッスンでピアニストの海老彰子さんに話しかけられたことがきっかけでした。「やめようかな」と思う前に予約していたため、迷う気持ちの中参加した合宿レッスンでした。そこで私が演奏するピアノを聴いてくださった海老さんから演奏後に話しかけられ、「がんばってね」と言ってもらえたのです。それがうれしくて、「自分はそこまでダメではないのかも」と勇気をもらいました。海老さんから掛けられた一言で気持ちが前向きになり、「自分はピアノを続ける」と決心がつきました。