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Vol.498 2023.11.14

「KUMONの脳トレ」スタート記念―
川島隆太教授オンラインセミナー報告2023

いつまでも元気に保ち
いきいきと生きるために
心掛けることとは

2023年10月4日、東北大学 加齢医学研究所 川島隆太教授によるオンラインセミナーが開催されました。
「学習療法」誕生のきっかけとなった産官学の共同研究から20年を超え、このたびの「KUMONの脳トレ」スタート記念として企画されたセミナーには、約2,200人の方が参加しました。
自分や家族がいつまでも脳を元気に保ち、いきいきと生きるためには、どのようなことを心掛けていけば良いのでしょうか。お話とQ&Aをダイジェストでお伝えします。

目次

少子・超高齢社会の現状と問題点

少子・超高齢社会の現状と問題点

最初に私たちが置かれている社会的背景についておさらいしましょう。日本の25歳から64歳、働き盛りの人口は、2000年ぐらいからずっと減っているのがわかります。緑の線は15歳から24歳、赤の線が0歳から14歳のデータですが、どんどん右肩下がりになっていきます。一方、紫の線は65歳以上の方で、2000年から増え続け、2050年を過ぎたあたりからゆっくり減ってくる曲線を示しています。

65歳以上の方が増えていくと何が心配か?それは認知症です。高齢者の割合が増えるにつれて、認知症も増えていきます。認知症が増えるということは、ケアのためのコストがどんどん膨らんでいくということですから、自分や家族はもちろん、社会全体としてもなりたくないものなのです。

五大要素「脳を使う」「運動」「栄養」「睡眠」「人との関わり」

五大要素「脳を使う」「運動」「栄養」「睡眠」「人との関わり」
川島教授より:睡眠は研究中でしたが、データがそろってきたため、今回からは、睡眠を含めた五大要素としています。

認知症にならないためには、何に気をつけたら良いのでしょうか。一番最初に挙げたいのは、脳を使う習慣です。毎日の生活の中できちんと脳を使いましょう。2つ目は体を動かす習慣。3つ目はバランスの取れた栄養。4つ目は質の良い睡眠。そして5つ目は人と常に関わりあう習慣です。

このうち脳を使う習慣というのは少し特殊です。なぜなら、我々人間という動物は、自分の脳が今どれぐらい働いているかということを自覚できない動物だということが、研究でわかったからです。毎日の生活の中で脳をたくさん使った方が良いということはわかるけれど、脳が今働いているかということは自分の感覚が全くあてにならない。ですから、脳の使い方に関してだけは、私たちのような脳の研究者が見つけたことを元に設定していく必要があるのです。

加齢とともに低下する「思考の脳」を鍛えることで認知症は予防できる

加齢とともに低下する「思考の脳」を鍛えることで認知症は予防できる

皆さんの額の横にある、図の赤色の部分は、前頭前野、専門的には背外側前頭前野(はいがいそくぜんとうぜんや)と呼んでおり、一言で言うと、ものを考えるための「思考の脳」と言うことができます。

記憶したり、学習をしたり、理解をしたり、推理・推測をしたり、我慢をしたり、意図を向けたり、注意したり、判断したり、こういう非常に高度な機能がこの前頭前野に宿っています。そして「思考の脳」は20歳を境にどんどん機能低下していき、下がりきった先が認知症という状態だと私たちは理解しています。

もう一つ大事な脳科学の知識があります。全く同じ素材を使って学習をしていても、うまく学びができる人と、同じように努力をしていても、学びがうまくいかない人がいることは、皆さんもご存知のとおりです。その差はどこから生まれるのかということを深く研究していくと、学習中に左の前頭前野を多く使っていた人は学習効果が出やすく、上手く使えていなかった人は効果が出にくいということがわかりました。これは認知症予防でも同様で、特に左の前頭前野を活動させると認知機能が向上することがわかりました。

認知症は何歳ぐらいから発症するかというデータがあります。最近、さまざまな脳の中の様子を画像化することが可能になってきて、認知症の原因物質が脳の中にどれぐらい溜まっているか計測できるようになりました。認知症は原因物質の中でも大きいゴミ、タウ蛋白が脳の中に溜まることが原因だとされています。このタウ蛋白は大体50代ぐらいから溜まり始め、さらに元の原因物質のアミロイドβ(ベータ)は40代から溜まり始めるということがわかっています。すなわち、認知機能の働きは20歳ぐらいから下がり、40代ぐらいからは認知症の原因物質が脳に溜まり始めているというのが、今の私たちの状態です。

今までの研究から、私たちは、認知症のなりやすさ、リスクというものを診断・判定して、リスクに応じて適切な予防法を提供することによって、認知症を予防できるのではないかと考えています。予防法とは、「思考の脳」、すなわち背外側前頭前野の機能を鍛えることです。

◆脳=コンピューターに例えると…情報処理が速く、容量が多いほど良い
「情報処理速度を速くするトレーニング」と「記憶の容量を増やすトレーニング」を行うことで、脳機能の維持または改善を図る

◆セミナーでは、参加者の方に認知機能のチェックをしてもらいました
①認知機能をチェックしてみましょう(情報処理速度)…1~120をできるだけ速く数える(飛ばさないで、確実に発音する)
②認知機能をチェックしてみましょう(作動記憶)…利き手でグーパーチョキをしながら計算をする

◆脳の効果的なトレーニングの方法
①情報処理速度のトレーニング…計算問題を素早く解く、文章をできるだけ速く声に出して読む
②作動記憶のトレーニング…文章を読んだり、計算問題を解く(情報を保持し、同時に処理する)

◆トレーニングの結果
・処理速度、計算処理速度が上がる、注意力、記憶力も上がる
・創造性クリエイティビティ、集中力、流動性知能という地頭の良さまで上がる
・脳のMRIをトレーニング前後で比較すると、成人以降であっても大脳の一部の脳の体積が増えていた(神経線維の1本1本が長くなって、かつ枝分かれが無数に増えていた)

学習療法・脳の健康教室での実践と「KUMONの脳トレ」のすすめ

易しい計算問題や文章・文字を扱うという行為をできるだけ速く行い、速度を上げるトレーニングをしながら、作動記憶の方も刺激するという2つを同時に行うこと。これが学習療法の秘密になります。産官学での研究を始めたところ、なったら治らないと言われていた認知症の方の認知機能を良くすることに成功しました。一番驚いたのは3年間施設で寝たきりだった方が、意識がはっきりして、家に帰るところまで改善したことです。

学習療法・脳の健康教室での実践「KUMONの脳トレ」のすすめ

学習療法を応用して、皆さんと同じような健康な方にも、脳の健康教室という形で同じトレーニングを提供しています。2008年に発表した「脳の健康教室6ヶ月の効果」は、赤の線がトレーニングをした群、黒の点線はトレーニングをせずに普通に暮らした群のデータをグラフで表したものです。全般的な認知機能は健康な方でも半年経つとゆっくり下がってしまう。でもトレーニングすると下がらない。前頭前野機能は上がっていくということがわかりました。

その後、もっと詳しく心理学の側面からも調べたのですが、例えば我慢をする抑制機能、さまざまに分散して注意を向ける機能、記憶力も上がりました。当たり前の話ですけれども、情報処理速度も複数のテストで数値が上がりました。ですから、脳の健康教室に参加すると、素早くいろいろなことができるようになり、認知機能全般が上がります。言葉を変えると、若い頃の自分に戻っていくようなイメージを持っていただくと良いかもしれません。

学習療法・脳の健康教室での実践「KUMONの脳トレ」のすすめ

私たちが福音だと思っているのは、医学的には健康な状態と認知症の中間状態(MCI)にある方にも効果があったことです。MCIは、大体毎年2割の方が認知症になっていくと言われる、非常に危険な状態で、厚労省でもしっかりと見つけて、きちんと介入すべきだと考えています。このグラフは研究を始めた最初の頃に行った岐阜のMCI疑い者のデータ変化ですが、20名の方のうち9割が半年後には健康な状態に戻り、それを維持したという結果になりました。

さらに、どういった方の認知機能が上がりやすいかを調べると、元々記憶力が良かったり、情報処理速度が高い人の方が上がりやすいのです。ですから、認知機能が下がり切る前に参加する方がより早く良い状態に戻せるということがわかります。そして、トレーニングを行っている時の気分自体が、その後のパフォーマンスに影響を与えることもわかっています。

一番大事なのは、一生懸命やりたいという前向きな気持ちを持って行うことで、様々な認知機能がより上がりやすいということです。そういう意味では、まずはしっかりとしたエビデンスがあるデータに基づいたものを、何をすることでどう変わるかという事実を知った上で、楽しみながら、自分自身の脳を少しでも今よりも良い状態にして、どうやって今後の人生を楽しむかというポジティブな気持ちを持っていただくことが大切だと思います。

今回は新しく、「KUMONの脳トレ」という形で、皆さんに手軽にお届けする環境を整えることができました。40代から認知症の元となるゴミが溜まり始めているので、例えば今40代で自分の親のためにセミナーに参加しているという方もいらっしゃるかもしれませんが、実は皆さんが始めるのにぴったりの世代になります。ここからきちんと脳のお手入れをしていけば、認知機能というのは保てる、維持・向上できるということが研究で証明されています。ですから、そうした取り組みを通して、皆さんがより認知症になりにくい生活習慣を得ていただきたいと私どもは思っています。

川島先生への質問コーナー

最後はセミナー中に寄せられた多くの質問から、川島先生が一問一答形式で回答しました。その中から一部をご紹介します。

Q:体操などの運動主体の介護予防、コミュニケーション主体の茶話会などと比べて、川島先生の提唱される学習療法、脳の健康教室、KUMONの脳トレの効果は高いのでしょうか?

A:我々は日本でもアメリカでもしっかりと効果検証をしていますが、その他のものは論文などが出ていないので、比較は難しいです。ただ、一般的には運動、特に有酸素運動は、認知症の予防につながることが疫学研究でわかっています。普段から有酸素運動を意識して行っている人は認知症になりにくいというデータが世界中にはありますので、恐らく運動を中心としたものは効果があるだろうと思います。ただ、短時間で見える効果としては、私自身は学習療法の方が強いかなという直感を持っています。

Q: やはり黙読や速読は認知機能向上に効果があるのでしょうか?

A: ゆっくりと黙読や音読をしても、あまり効果はありません。私はよく、舌を噛む1歩手前の速さで読んでください、と言っていますが、黙読にしても音読にしても、とにかく速く読む。作業として速く行うことが一番大事なので、例えば文字を読み飛ばしても漢字が読めなくても何の問題もありません。それから、黙読か音読かということに関しては、明らかに音読の方が効果が高いです。黙読をしている時と音読をしている時の脳活動を比較する研究もしていますが、背外側前頭前野の働きは、音読している時の方がすごく高いですね。

Q:親が脳のトレーニングに取り組むときに、家族として気をつけることはありますか?

A:我々人間は誰もが非常に弱い動物です。脳の健康のために、例えば計算問題を速く解く、音読をする、KUMONの脳トレを始める。こういうことを始めたとしても、自分に負担が掛かると思うことを毎日続けられる人は、それほど多くはありません。家族の方の役割は、それを励ましながら続けていただくように声掛けしていくこと。その時の注意点は、これぐらいもっと速くできないのか、などと思う気持ちが起こりやすいのですが、そんな気持ちはぐっと我慢して、楽しく毎日続けていただくためにどういうサポートをするかに注力すること。これが家族の唯一の役割かと思っています。

Q: トレーニングを何分ぐらいどれぐらいの頻度で行うと効果が期待できますか?また、楽しんで続けて取り組めるコツがありましたら教えてください。

A:一日の量は、先ほど5分から10分という話をしましたが、15分、20分かかっても問題はありません。また、これまでの経験から、週に3回以上すると今よりも良い状態に持っていけることがわかっています。目標値は週に3回から5回と思っています。楽しんで続けるコツについては、これはものすごく難しい大きなテーマで、いまだにきちんとした公式が見えていません。ただ、今までの研究や脳の健康教室などで見てきた限りは、やはり誰かが励ましてくれること、また、どうなりたいかというイメージを持って目標値を設定すること、もしくは過去の自分と比較して、より良くなっていることを自覚することが大事かな、と今の段階では思っています。

(講師プロフィール)東北大学医学部卒業。同大学院医学研究科修了。スウェーデン王国カロリンスカ研究所客員研究員、東北大学助手、講師を経て、現在同大学加齢医学研究所教授。医学博士。脳のどの部分にどのような機能があるのかを調べる「ブレインイメージング研究」の日本における第一人者。学習療法・脳の健康教室の生みの親の一人。

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