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Vol.387 2021.01.19

特別企画 子育てのヒント‐「自立」のためにできること(4)

子どもの自立をのぞむなら
まずは大人主体的な姿勢を見せよう

お話:岡山大学准教授 中山芳一先生

子どもを育てる親の願いであり、公文式学習が目指すところのひとつが、子どもの「自立」。このシリーズでは、さまざまな現場で今、ご活躍されている識者の方にお話を伺い、子どもの「自立」を考えながら、今日から取り組める具体的なヒントを探ります。
今回お話を伺うのは、岡山大学准教授の中山芳一先生。学童保育指導員としてキャリアをスタートしながら、その後大学院に入学、学校外教育等の研究者としての道を進み、現在は岡山大学でキャリア教育や正課外活動支援を担当されています。

目次

    中山 芳一(なかやま よしかず)

    岡山大学全学教育・学生支援機構准教授。専門は教育方法学。乳幼児や小学生から、大学生・社会人に到るまで、人の育ちや学びに関するプログラム開発と実践研究を横断的に進めている。主な著書に『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』(東京書籍)ほか。日本放課後児童指導員協会副理事長、日本学童保育学会理事も務める。

    「非認知能力」とは、点数にできない力

    小学校の先生になりたくて入学した岡山大学教育学部の学生のころ、ふとしたことで出会った学童保育の魅力に取りつかれました。学童保育の社会的役割の大きさを感じ、同級生たちが教員になっていくなか、自分は正規の職員として、学童保育の指導員になったのです。

    現場での実践を重ねるうちに、学童保育の制度面での遅れに気づいたことが、学童保育の研究のために大学院へ進学を決めたきっかけです。以来、「学童保育をなんとかしたい」という一心で、教育に関する哲学や心理学、社会学など、様々な学問を応用しながら、学童保育指導員の専門性について実践的な研究を進めてきました。

    さらに、乳幼児の研究や初等中等教育、キャリア教育、社会人の人材育成などに関わっていく中で、すべての発達段階の教育に通じるのではないかと、研究者としての自分に刺さったのが、「非認知能力」という考え方です。

    「非」認知という否定的な漢字が使われているので、一体なんだ?と思われるかもしれません。非認知とは、この場合はっきりとした数値ではわからない、測れないという意味と考えてもらうといいでしょう。私はこの非認知的な能力をひと言で、「点数化できない力」と呼んでいます。

    読み書きの力や計算する力といった、はっきりと点数にできる力は「認知能力」。我慢するなどの自分と向き合う力や自分で目標を立てて意欲的に自分を高める力、また、協調性・社交性やコミュニケーション力などの人とつながる力といったはっきりとした点数にできない力が、「非認知能力」です。

    子どもが主体的にやってきたことをほめる

    例えば、お子さんが学習をいつも以上に早く終えたとします。そのときに「早くできてえらいね」とか、「そんなに焦って解かずにもう一度見直してみれば?」などと結果だけをとらえてお子さんへ返すのではなく、まずは「どうして今日は早く終わることができたの?」などときいてみてください。もし、「今日はこれまでより一番早く終わらせようと思ったんだ」という答えが返ってきたとしたら、「自分で目標設定してがんばれたなんてすごいね」とほめてみましょう。このように結果だけでなく、その結果にたどり着くまでのお子さんの思いなどにも目を向けて、フィードバックしていくことは非認知能力を伸ばすコツの一つです。

    学力テストで非認知能力を伸ばす

    どうすれば自己受容感が育つのか。何より大切なのは、「無条件に大人から思いを受け入れてもらえたという経験」です。何かができたら抱きしめてもらえる、できなかったら抱きしめてもらえない、と子どもに刷り込むのは絶対にしてはいけません。

    親ができる、できないでジャッジしてしまうと、子どもは小学生以降、周りと自分をできるかできないかで比較するようになってしまうのです。比較した結果、卑屈になったり、逆に上から目線になったりすることにつながりかねません。

    条件をつけずに親と子の愛着関係や、呼ばれたら「なあに?」と答えてあげる呼応関係を得られているかが、子どもが「自分はここに存在していていいんだ」と思える自己受容感を育む最大のポイントなのです。

    非認知能力も、認知能力も、この土台の上に載っていることが大切です。土台がぐらつけば、その上もぐらついてしまいますよね。しっかりした土台を築くためには、親御さんも、先を焦らずにしっかりとお子さんを受け入れてあげてください。

    子どもは「育つ主体」であり、「育てられる客体」ではない

    子どもは「育つ主体」であり、「育てられる客体」ではない

    コロナ禍でも浮き彫りになりましたが、今の世の中、情報過多だと思います。情報が多すぎて、あれもこれもと、振り回されてしまいがち。振り回されて結局自分では判断できず、上からの指示を待ってしまう。そんな大人から子どもたちも影響を受けてしまうのです。

    また、子どもが自分の頭で考えて行動できるように、与えすぎない、禁欲的な提案をすることも大切です。実は私も、コロナの休校期間中、年長の息子に「何もやることがない」と言われ、ドキッとさせられました。子どもの主体性を大切にしていたつもりでも、気づかぬうちにこちらからいろいろ与えすぎてしまっていたと反省させられたものです。大人からの「与えすぎ」にはみなさんも注意してくださいね。

    そして、子どもに自立してほしいなら、何よりも私たち大人こそが主体的になっていきたいものですね。しっかりとした自己基準を作る力、学びに向かう力、人間性や非認知能力を、大人こそ身に付けないといけない。自ら思考して判断する力が、大人に欠けているのではないかと、このコロナ禍で気付かされたような気がしています。

    私は、子どもが何かに取り組むときには、子どもの「やってみたい」から始めることが重要だと考えています。だから大人は、先ほどの「与えすぎ」に加えて、子どもに「やらせる」ことをできるだけなくしたいものです。そのためにも、子どもが集中したり没頭したりしてほしい何かがあるとき、大人から強制ではなく提案することをおススメします。ちなみに、この子どもの(内側からこみあげてくる)「やってみたい」とは「内発的動機」とも呼ばれ、「楽しい」という感情によって生み出されるといわれています。まさに、遊んでいるようにいろんなことへ挑戦ができる主体的な子どもの姿をイメージできそうです。

    子どもは「育つ主体」であり、「育てられる客体」ではありません。自分から何かに対して「これをやってみたい」と(自主的に)参加し、さらには「もっとこうしてみたい」と(主体的に)参画していく中で、大人の想像をはるかに超えたステージへ到達したり、親の思惑を超えていったりできる存在だからこそ、子どもは「育つ主体」になり得るのです。

    そのためにも、子どもたちが思いきり自分のやりたいようにできる安心・安全な環境があちこちにあれば、子どもはうんと主体的に育っていってくれるのでしょうが、今の時代、それは現実的ではありません。子どもたちが仲間と共に育ち合うための、三間(さんま)(時間・空間・仲間)がどんどんなくなってきています。少子化は加速の一途をたどり、社会全体が、子どもたちへひたすら手厚い支援をすればよい、という方向に向かっているのです。

    本当に、子どもに自主的~主体的になってもらいたいのならば、大人がどこまで手を差し出すべきか、そして手を出さないべきなのか…。それを私たち大人が自分の頭で考えて実行できる姿勢を見せていきたいですね。

    まとめ ~「自立」のためにできること~

    「自立」のためにできること
    ・子どもにとって大切なのは、無条件に大人から思いを受け入れてもらえたという経験。
    ・集中できるものがあると、子どもの自立は進む。その何かを提案するのが、親の役割。
    ・子どもは、自立することで大人の想像を超えたステージへ到達したり、親の思惑を超えたりできる。

    関連リンク 岡山大学 A.M.I学童保育センター

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