髙取 しづか(たかとり しづか)
NPO法人JAMネットワーク代表、「ことばキャンプ」教室主宰。新聞・雑誌での連載のほか、全国各地で講演活動を行う。神奈川県子ども・子育てアドバイザー、神奈川県青少年問題協議会委員を歴任。著書に『ことば力のある子は必ず伸びる!』(青春出版社)ほか多数。
ことばの力を鍛えるとは「自尊」と「他尊」のコミュニケーションができること
「ことばのチカラ」は21世紀を生き抜く原動力になる――約20年前に暮らしたアメリカで痛感したことが、私の今の仕事である「ことばキャンプ」を始めるきっかけになりました。英語力の前に、日本語で自分の考えを自信をもって伝えることが大切と実感。帰国後、日本のすべての子どもたちのコミュニケーション力を養成したいという思いから、「ことばキャンプ」教室を主宰しています。
「ことばキャンプ」は、7つの力(度胸力・論理力・理解力・応答力・語彙力・説得力・プレゼン力)のトレーニングでことばの力を伸ばすプログラムです。論理力のトレーニングでは「犬と猫どっちにする?」と聞いて、何故そう思ったか答えるワークがあります。理解力のトレーニングは、集中して聞く力をつけるための伝言ゲームや聞き取りゲームなどです。スモールステップで楽しくことばの力を身につけていきます。
ことばキャンプで、自分の考えを自信を持って話すことができる「自尊」と、人の話をしっかり聞き、人の考えを受け入れる「他尊」のコミュニケーションができるようになります。ことばは知的活動の基盤でもありますから、学力にも大きく影響しますし、意思や感情を伝える手段ですから、人間関係の基盤でもあります。また、言いたいことをうまく言えず、あきらめて心を閉ざしてしまう子も、人とうまくコミュニケーションができるようになると、自分への自信が生まれ、自己肯定感(自尊感情)も育ってきます。
生きていく上で必要な力を身につけて、子どもたちにたくましく自立してほしいという願いを持って、活動を続けています。
子どもに責任をもたせることが大切 “It’s your responsibility.”(それは君の問題だよ)
子どもの「自立」というのは、保護者の方にとって、大きなテーマですよね。ことばキャンプの親講座や講演会でたくさんの保護者の方に出会いました。「どんなお子さんになってもらいたいですか」と質問すると、多くの方が「自立した子どもに育ってほしい」とおっしゃいます。
でも、そうおっしゃる保護者の方々の様子を見ていると、「本当に子どもに自立してほしいのかしら」と思うようなこともあります。これは日本を含むアジア的な子育てならではなのかもしれませんが、親と子が一心同体。親は子どもの気持ちや必要とすることを察して、先回りしてなんでもやってあげようという傾向にあると感じます。
子どもの自立を促すためには、親の心構え、意識を変えることが必要なのではないでしょうか。米国に暮らしていた時、小学校の先生から「子どもの自己管理=自立を教えるのは3歳くらいから」と聞き驚きました。いろいろな場面で、それは誰かの問題じゃないよ。“It’s your responsibility.”(それは君の問題だよ)と優しく言って聞かせるのだそうです。子どもがお風呂から出たあと、タオルを部屋の中に置きっぱなしにしたら「それはあなたが使ったタオルよ」と穏やかに毅然と伝えて、ゆっくり待って自分で片付けさせます。「まったくもう!」と怒りながらも、親が片付けてあげてしまっていた私は、大いに反省しました(笑)。親がやってあげていると、子どもはいつまでも「自分の問題」と自覚できないのだと思います。
また、少子化の影響もあるのでしょうか、最近の保護者の方には、「絶対に子育てに失敗したくない」と一生懸命になっている傾向も見受けられます。ですが、失敗のない子育てなんてないんです。幼い時から、親も子も、小さな失敗をした方がいいのではないでしょうか。それによって子どもは、どうして失敗したか考えてやり方を変えたり、立ち直る方法を身につけたり、心の痛みを感じ人に優しくなるなど成長していくのです。経験によって、たくましさを身につけ自立につながっていくと私は思います。
親子の時間がたっぷりある“今”できること
新型コロナウイルスの影響で家庭で過ごす時間が増えました。親子の摩擦やケンカが増えているという話を聞きますが、この時間を子どもの自立トレーニングに活かしたいものですね。思い切って毎日の時間割りやスケジュール管理を子どもに任せてみてはどうでしょう。子どもが自主的に考えて、計画を立てて、そしてそれを宣言する。言葉にすることで、やり遂げることができるようになるはずです。
大切なのは、それを見守る親の姿勢。親から子どもへの言葉かけ、コミュニケーションが鍵となります。「早くしなさい」「ゲームばかりしてはダメ」など、どうしても指示語が多くなり言い方もワンパターンになりがちですが、親から子へかける言葉のボキャブラリーを増やすと、親子関係がぐっと良くなります。例えば、「早くしなさい」ではなく「もう夕飯の時間よ」とタイミングを知らせたり、「○○終わったら、おやつにしよう!」とモチベーションアップさせたり、「早くしなさい」を言わず別の言い方で伝えることを意識してみましょう。
難しく考える必要はないんです。ゲームばかりしている子どもには、「ゲームおもしろいよね」と、一度肯定し共感してあげると受け入れてもらえて素直な反応が返ってくることがあります。もちろん、うまくいく時ばかりではありませんが。
自粛によって家庭で過ごす時間が長くなることを否定的にとらえるのではなく、家族のコミュニケーションの時間が増えたとか、子どもの自立を促すトレーニングの時間にしよう!と、ポジティブに考えてみてはいかがでしょうか。
どんな時代でも自信を持ってたくましく生き抜く、その糧になるのが、コミュニケーション力です。自分の頭で考え、それを伝えることばと自分を信じる心を持つこと。かけがえのない自分を大切にし、相手の気持ちも尊重するコミュニケーション力を身につけた子どもが一人でも多く育つことを願いながら、これからも活動を続けていきたいと考えています。
まとめ ~「自立」のためにできること~
・親の心構え、意識を変えよう。 “It’s your responsibility.”――それは、子どもの問題。・親も子も、小さな失敗をたくさんして、たくましさを身につけよう。
・子へかける言葉のボキャブラリーを増やそう。