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Vol.396 2021.03.23

特別企画 子育てのヒント‐「自立」のためにできること(5)

学習のではなく に関心を持ち
対話を大切にすることが
子どもの自立への大きな一歩

お話:上智大学教授 奈須正裕先生

子どもを育てる親の願いであり、公文式学習が目指すところのひとつが、子どもの「自立」。このシリーズでは、さまざまな現場で今、ご活躍されている識者の方にお話を伺い、子どもの「自立」を考えながら、今日から取り組める具体的なヒントを探ります。
今回お話を伺うのは、中央教育審議会の一員として新学習指導要領の策定にも関わられた上智大学教授の奈須正裕先生。新学習指導要領が目指す学びのあり方について、さまざまなキーワードを交えていただきながら、お話を伺うことができました。

目次

    奈須 正裕(なす まさひろ)

    上智大学総合人間科学部教育学科教授。神奈川大学助教授、国立教育研究所教育方法研究室長、立教大学教授などを経て2005年より現職。中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会をはじめ数々の部会の委員を務め、新学習指導要領の策定にも関わるなど、教育界のキーマンとして知られる。著書に『「資質・能力」と学びのメカニズム』(東洋館出版社)、『子どもと創る授業 ―学びを見とる目、深める技―』(ぎょうせい)ほか。

    「すべての子どもは生まれながらにして有能な学び手である」

    私は上智大学で教育方法学を教えています。若い頃は、小学校の先生になるつもりでした。いい授業をするためには、子どもがどう学ぶかを知る必要があります。そこで学習心理学を専攻するとともに、上手な先生の授業を見学しては、それを支える原理・原則を探ることが面白くなって、研究の方に来てしまいました。子どもの学びや成長には様々なポイントがありますが、中でも学習意欲、言い換えれば「やる気」が発揮できれば人生はなんとかなる。その意味で、知識と同様かそれ以上に大切だと思うのですが、案外と大事にされていないのを、いつも残念に思ってきました。新しい学習指導要領では、この点が大きく改善されました。今は、年間約80日ほど学校を訪問して、「やる気」の問題も含め、現場で困っている先生方の相談に乗ったり、一緒に指導案を作ったりしています。

    中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会等の委員としては、2020年度から小学校で施行されている新しい学習指導要領の作成にも携わりました。こちらは、「すべての子どもは生まれながらにして有能な学び手である」、「自分の力で学び進めていくことができる存在である」という認識に立っています。これは、子どもは「やる気」を持っているし、発揮できる力を秘めているということです。学習指導要領の中での「資質・能力」に対応する学術用語は「コンピテンシー」ですが、「コンピテンシー」とはもともと「有能さ」という意味。そんな子どもの有能さをさらに学校教育を通してどう高めていくか、より良い未来社会の創り手となっていけるようどう育むか、という方向性です。

    強制したり、競争させたりする必要はありません。子どもの内側から育ってくるもの、「自立」を手助けすることが学校の任務だと思っています。新学習指導要領では、「何ができるようになるか」を上位に置き、「何を学ぶか」「どのように学ぶか」は、それを実現するための手段として位置づけています。

    日本の学校では、明治時代からより良い授業をするための「授業研究」を行い、切磋琢磨してきました。私は日本の小学校の質は世界一だと思っています。欧米に先駆けて、民間教育研究団体や教職員組合などが、草の根で優れた学習指導法を数多く開発し、膨大な実践に関するノウハウを蓄積してきているのです。

    現実社会の問題解決に使える、活用の効く知識、「転移可能」な学力が大切

    学校教育の現場では、実は子どもたちは昔から変わっていません。意味を実感できる授業をすれば、どんな子でもよく学びます。子どもはすでにいろんなことを知っていたり、経験したりしている。だから、大人は真っ白な紙に価値あることを書き込もうという構えでいてはよくないと思います。子どもがすでに持っている知識や経験を活かしたり、彼らが慣れ親しんでいる文脈や状況を取り入れたりしながら、子どもたちが主体性を発揮できるようにし、また多様な対話を交えて学び深めていくことが、新学習指導要領が目指す学びのあり方です。

    例えば、十進位取り記数法も、お金のことに置き換えると、みんな知っていること。10円玉が10個で100円、100円玉が10個で1000円ということは、低学年の子どもでもよく知っていますし、上手に活用することもできますよね。それが、同じ10の構造でも他のことになると分からない。このように、ある知識や技能は、それを体得した文脈とセットで身についています。すでに知っていることが何なのかを自覚させて、そこを拠点に、見慣れない、よく知らない、初めて見る文脈に対しても同様に適用できるようにすることが大切なのです。ゼロから知識を教えるのではなく、すでに知っていること、できることを、新たな場面や文脈でも使えるようにする。教えることのかなりの部分は、こういったことでうまくいきます。

    これを「学習の転移」と呼びますが、学習の転移は簡単には生じないものです。理解が浅かったり、単なる暗記では、問題状況を変えられると手も足も出ません。もっと深い理解、具体的には、どんな場合にどんな知識がどういう理由で使えるかを分かっていることが大切なのです。そのためには、最初に学ぶときに「なぜ?」と思うことが必要です。最近の入試問題では、そこを問われます。初めて見る状況で、どう考えているのか。最終的には現実世界の問題解決に使える、活用の効く知識が「転移可能」な学力と言えるのです。AO入試や推薦入試でも、それを試されることになります。

    自分で計画を立て、実行し、評価し、十分にやれた場合には、何をどうがんばれたかを確認し、自分で自分を褒める。逆に、不十分だった場合には、なぜそうなったのか、どうすればよかったのかを考え、次に活かそうとする。このような、自らの学習を調整しようという態度や、実際に適切に調整できるスキルを、学習の「自己調整力」と呼びます。新しい学習指導要領では、この自己調整力も、学習評価の対象にしています。学んだ結果としての学力だけでなく、学ぶことができる力も学力であり、評価の対象にしようということです。

    自己調整力は、心理学でいう「メタ認知」とも関わっています。中央教育審議会の報告書には、「自己の感情や行動を統制する能力、自らの思考の過程等を客観的に捉える力」と書かれています。自分の様子を客観的に見て、判断して、自己調整する……これこそ、目指すべき「自立」の姿ではないでしょうか。

    ですから、子どもの自立を促すために、子どもに自分が主人公になって、自分で考える取り組み方をしてもらいたいのです。毎日5枚プリントをするとして、ある日子どもが4枚しかやらなかったとする。そのとき、早計に「いつもは5枚なのに、どうして4枚なの?」という言葉がけはは避けたいですね。プリント1枚から得られる学習量は、子どもによって違うんです。まずは子どもの話を聞きましょう。そして、「今日は今まで難しいと思っていたところに挑戦して、それが分かるようになった」と子どもが言うなら、プリントは1枚だってとても意味があるんです。

    一生懸命考えて脳が汗をかく量を一定にする、その量を自分で判断できることが自立です。自分の内側の基準で学習し、心の満足度を自分で測れる子が、自己調整できる子ですね。一人ひとりが学びを自己調整していけるようになるには、個別的で自己決定的に学び進められる機会を数多く提供することが不可欠になってきますが、文部科学省は「個別最適な学び」という言葉で、これを推進しようとしています。そこで活躍するのが、ICT機器です。これからは、ICT環境の普及などにより、学校教育の場でも、こうした個別最適、自立重視の学びが重要視されていくでしょう。

    学びの質がどう変わっていくかが、成長の証

    自分の学びを自分ごととしてとらえ、納得するために、時には孤独を味わいながら一人で学ぶことも大事です。自分に向き合う訓練ですね。そうすれば、宿題や家庭学習に自分で意味づけができるのです。

    親御さんも、子どもの学習を量で考えるのではなく、質で考えてあげてください。学びの質がどう変わっていくかが、成長の証です。そして、子どもが自分のやり方、自分のペースで学習を終えたら、その中身に関心を持ち、対話を大切にしてください。子どもが求めていない助言や外側からの批評よりも、「ここ難しいよね」と共感したり、面白がったりしてあげてください。それが、自立への大きな一歩になるのです。

    新型コロナウイルスが世界に暗い影を落として1年が経ちました。今でもオンライン授業が主体の大学は別にして、幼稚園・保育園から小中高まで、ようやく通常に近い形で動いています。教育というのは、結局はヒューマンケアの現場です。学校の先生方も、意識して、子どもたちの心を優しく認める対応をしていると感じています。

    一方、子どもは親の鏡、地域社会の鏡ですから、家庭や地域コミュニティに起因する不安や問題を引きずってしまうことはあります。不安や心配事があれば、学校の先生に相談して、家庭と学校でよく意思疎通を図ることが大切です。大人がしっかり構えて連携し、ぶれない方針を見せることが、子どもにも良い作用をもたらすと思います。

    まとめ ~「自立」のためにできること~

    ・子どもには、自分が主人公になって、自分で考える取り組み方をするように促そう。
    ・自分の学びを自分ごととしてとらえ、納得するために、時には孤独を味わいながら一人で学ぶことも大事。
    ・子どもが自分のやり方、自分のペースで学習を終えたら、その中身に関心を持ち、対話を大切にしよう。

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