5段階評価で2だった英語の学習が楽しくなったわけ
私は小さい時から、関心をもったことのみに熱中するタイプでした。たとえば、歴史が好きで、お城、特に石垣が好きだったので、その専門書を小学校の時に買ってもらい、愛読していました。辞書を引きながら、一生懸命に理解して。でも関心のないことはからっきしダメ。恥ずかしい話ですが、実は英語は、中学1年の時点で5段階評価の2の成績でした。ところが中学2年生で出会った先生が教えてくれた勉強法のおかげで、英語が嫌いでなくなりました。音声をしっかり聞いたあと、内容を理解して、教科書を音読するというオーソドックスな方法でしたが、実践すると成績が上がり、とにかく教科書を繰り返し学ぶことが重要だと気づかされました。教科書には必要なことがすべて盛り込まれています。それをないがしろにして他の教材などをやるから、なかなか成績が上がらないのだと思います。
そのあと、当時はやっていた短波ラジオから世界の放送が英語で聞けることに興味をもち、ニュースで何をしゃべっているのか、どうしても知りたくなりました。こういう具体的な目標を持つと、英語の学習がおもしろくなり、いろいろと工夫するようになります。VOA(アメリカ国営放送)のスペシャル・イングリッシュという、ややゆっくり話してくれる放送を聞きながら、その内容をタイプライターで打ち、ディクテーション(書き取り)するということもやりました。あとで知ったのですが、著名な通訳者と同じ学習方法でした。こうやって、英語を知識としてだけでなく、特定の目標の達成のために「使って」勉強をしていったことが良かったのだと思います。
英語を使い海外と関係していく仕事に就きたくて、大学は外国語学部を目指すことにしました。志望していた大学の入試にはリスニングがあったため、高校の先生に助言を求めたところ、「耳から血が出るほど聞きなさい」と言われてしまいました。「こんな精神論はおかしい。この先生はよくわかってないのだな」とちょっとした憤りを感じ、これを機に「コトバはどう学ぶべきなのか」というテーマに対して興味が湧いてきました。
大学入学後は、外国語習得の仕組みをテーマに勉学を進めました。卒業時には、民間企業の内定や高等学校教員採用試験の合格も頂いていたのですが、この程度の英語力や知識ではまだなにも出来ない、もっと学んで、経験を積んで、可能なら「高み」を見たいと思い、大学院に進みました。その時からAD ALTIORA SEMPER(常に高みをめざして)が私のモットーになり、その結果、フルブライト奨学金を頂き米国の大学院に留学したり、国際学会で英語を使い討論したり、国際的な研究誌に英語で論文を発表したりする現在があるのです。
少しでも「楽しい」を見つけて、そこを突破口に進もう
研究を続けていると、どんなに好きなことであっても、苦しくなってくることがあります。思うような成果が出なかったり、研究のまとめ方に悩んだりして、途中でイヤになって、投げだしたくなることがあるのです。その時にどうしたかが肝心で、その時の自らの体験から、動機づけや動機維持の研究にも興味を持つようになりました。
動機づけや、その維持の方法として、私は「人と話す」ことを第一に実践してきました。人と話すと、時には惑わされることもあるのですが、良いヒントを頂いたり、「この方向で良いのだ」という確認ができたりすることが多くありました。もし、「これで良いのだ」と思えない時は、「何か間違えているかもしれない」と考え、振り返り、修正をかけるというわけです。1人で悩んで煮詰まるよりは、周りの人と話してみませんか。きっとやる気が湧いてきますよ。
また、どうも気分が乗らない時は、15分間ほど、別の「好きなこと」に没頭するのもよいかもしれません。私は今でも歴史やお城の本が好きなので、途中でやる気がなくなったら、15分間だけ(と言いながら30分ほど)その関係の本を読んだりしています。
イヤイヤやらされていたら何ごとも上手くできません。イヤでもやらなくてはならないことはもちろんありますが、その中でも楽しい部分を見つけて、そこを突破口にするのが良いと思います。例えば英語嫌いの人でも、英語の歌は好きだったりしませんか。歌の場合、She doesn’t… はリズムにのりにくいため、She don’t… となっていたりします。そこに気づいて「なぜだろう」、「どうしてだろう」と疑問や好奇心を持つと、嫌いだった英語の学習が楽しくなるものです。
子どもがやりたいと思ったことをサポートしてあげる
これからの世界を生きていく子どもたちは、「英語力」のほかに、様々な領域での「幅広い知識」、「論理的な思考力」、そして「相手への共感力」を身につけることが必要だと思います。幅広い分野での教養に裏打ちされた内容を、相手のことも考えながら、論理的に組み立てて伝える。そして、それを母語はもちろんのこと、外国語でも出来る。そんな能力・資質がこれからは必要だと思います。
保護者の方には、「自分が身に付けたかったこと」を子どもに押しつけるのではなく、「子どもがやりたいこと」を伸ばしてあげてほしいと思います。子どもは、私がそうであったように、自分からやる気になったら劇的に変わります。だからこそ、子どもたちには、「興味をそそるもの、楽しいものを見つけて、どんどんやってみよう」と伝えてあげてほしいのです。また「できない」なんて、決して思わせないことが大切です。少しだけ助けて、足場をかけて、「できる」という気分を体験させてあげてください。また、成績はあくまでひとつの尺度にしか過ぎません。保護者の皆さんは、「この子は毎日を楽しんでいるのか」「興味をもってやっているのか」といった異なる尺度も導入して、わが子を見守ってあげてください。そして、基本は「この子はきっとできる」と親が信頼することですね。
英語学習について言えば、「全部わからなくても構わない」と伝えてあげると良いと思います。わからないところは推測すればよい、補えばよい、聞けばよいのだから。また、「正確さ」よりも「目標を達成すること」の方が大切、という考え方も伝えてあげてください。「正確さ」は後から付いてくれば良いのです。
私の目下の目標は、今年10月、大阪で開催される学習方略の国際学会 (SSU3) を成功させることです。英語学習はもちろんのこと、さまざまな外国語の学習法、さらには(海外の学習者の視点から見た)日本語学習法についての発表などもあります。この学会は、これまでオーストリアやギリシャで開催されてきましたが、日本で開催することで、「外国語教育学」という学問分野の存在を、国内に向けてもアピールできると思っています。個人の経験だけではない、しっかりとした科学に根ざした「学習法の研究」の現在と未来をご覧になりたい方は、ぜひ参加ください。
日本では、外国語教育を学問として取り扱う伝統がありませんでした。私は外国語教育を「学問」にしたくて、体系性をつくること、方法論を確立すること、研究者を育てること、の3つに着目して、17年前に日本で初めての外国語教育学研究科をつくり、ともに歩んできました。当初の学生は日本人が中心でしたが、今や半分は海外からの学生です。ということで、中期の目標としては、もっと世界中から学生が集まる組織にして、外国語教育学の普及を国内外で目指していきたいですね。
また、長期的には、ライフワークとなるかもしれませんが、英語(外国語)を「使い」ながら学び、その過程でもっと学んでみたい、もっと知りたい、そして、なぜだろうと考える人たちを増やしていきたいですね。強制されて学ぶよりもずっと楽しくなる、主体的な英語の学びを、教育現場で実現していきたいと思います。
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