音楽とは無縁の環境で育った少年がひょんなことから「指揮者になる」という夢を抱く

私は埼玉県川口市の出身です。私が子どものころの川口は、鋳物工場ばかりが並ぶような土地柄。我が家も鋳物工場の職人である父と、母そして僕ら男の子の三人兄弟で、音楽とは無縁の家庭でした。幼稚園のころ、母と川口の駅前で消防団のブラスバンドを見かけ、音楽に興味を持ちました。とくに印象深かったのがトロンボーン。幼なごころに「なんで鉄(金属)が伸びるんだろう?」と、不思議で仕方がありませんでした。
テレビでもオーケストラの演奏番組に釘づけになって、小学生のころは合唱団で活動したり、リコーダーを一生懸命練習したり。その後、中学の入学式で聴いたブラスバンド部の演奏に感激し、その日のうちに入部を決めました。
中学のブラスバンド部でご指導いただいた先生は、日本フィルハーモニー交響楽団でも活動されていた音楽家でした。ある日その先生にチケットをいただいて、初めて本格的なコンサートを聴きに行ったんです。イーゴル・マルケヴィチという有名な指揮者がタクトを振った、チャイコフスキー作曲の「交響曲第5番」。この演奏の圧倒的な迫力に、まさに腰が抜けるほどの衝撃を受け、閉演後もしばらく立ち上がれませんでした。このときから「僕は人を感動させる指揮者になりたい!」という夢を持つようになったのです。