「夢」「学び」を支えるKUMONの「いま」を伝えます

記事検索
Vol.078 2021.06.18

将棋棋士 谷合 廣紀さん

<後編>

「楽しい!」と感じることを見つけて
自分を追い込まずにのびのびやろう

将棋棋士

谷合 廣紀 (たにあい ひろき)

東京都生まれ。お茶の水女子大学附属小学校、獨協中学校・高等学校を経て、東京大学工学部電気電子工学科を卒業。同大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻博士課程に在籍中。自動運転技術を開発するベンチャー企業でもエンジニアとして解析に尽力。著書に『Pythonで理解する統計解析の基礎』(技術評論社)がある。第66回奨励会三段リーグ戦にて14勝4敗でリーグ2位の成績を挙げ、2020年4月1日付で四段昇段、棋士となる。東京大学出身の棋士は史上2人目。

棋士、東大でAIについて研究、ベンチャー企業のエンジニア。そんな3つの顔をもつ谷合廣紀さん。幼少期も複数の習い事をしていた経験があり、それぞれで力を発揮されていました。そのひとつ、公文式ではもともと好きだった算数・数学の魅力にのめり込み、小学生で高校数学を学ぶまでに。勉強をしていなかった時期があったそうですが、公文式で数学の基礎ができていたため、大学受験も乗り越えられたといいます。公文式で得たことや数学の魅力、棋士と研究の両立の秘訣などについてうかがいました。

目次

ネットゲームに熱中した中高時代

小学校卒業後は中高一貫校に進みました。中学に入学した最初のころは勉強へのモチベーションがかなり高く、教科書を短期間で読破。先生に頼んで2,3年生の教科書をもらうほどでした。しかし、そこで燃え尽き、その後は勉強をあまりしなくなりました(苦笑)。

将棋については、小6のときに受けた奨励会への入会試験は不合格だったのですが、中1で合格。その頃は自宅でネット将棋を指したり、土日に道場へ行ったりしていました。でもあまり熱心でもなく、中学時代はカードゲームに熱中するように。勝負事が好きなのは変わりなかったですけどね。

棋士になるのであれば、学歴は関係ないので、大学への進学はしてもしなくても、どちらでもいいかなと思っていました。そもそも中3から高1にかけての頃は、勉強はまったくやらず、ネットゲームに熱中していました。

それを見かねたのか、高2になって親に言われて予備校へ行くようになりました。幸いにもその予備校は、成績を公表するなど競争心を掻き立てられるシステムだったのです。それで、今度は勉強することに火がつきました。そこで出会った数学の先生は、質問をすると授業範囲以外のことや、大学で学ぶような数学も教えてくれました。その先生のお陰で、数学をずっとおもしろく学べたと感謝しています。

元々数学が好きだったこと、かつ公文式で基礎ができていたことから、カンが戻って勉強が楽しくなっていきました。東大を受験することになったのも、その先生が「東大も狙えるよ」とおっしゃってくださったことがきっかけでした。

将棋と大学受験の両立

全国模試も一種の全国対戦ゲームと考えて楽しんだ

谷合 廣紀さん

私自身はたくさんのことに興味を持ち、いろんなことに取り組んできました。しかし、ひとつのことに専念し、そこで力を発揮するタイプの人もいると思います。自分が楽しいと思えることを見つけて、それをやるのが一番だと思いますが、「何を楽しいと思うか」は人それぞれです。私の場合は「競争すること」で、全国模試も一種の全国対戦ゲームと考えて楽しみました。

苦しいと続きませんから、「やるなら楽しむ」という気持ちが大事だと思います。私は、「1日1局」など自分にノルマを課したりすることはしませんでした。自分を追い込んで、嫌いになってしまったら元も子もありませんから。

将棋と大学受験の両立についても、「入試も将棋もどちらもダメでも、まあしょうがないか」と楽観的に考えていたことが幸いしたのかもしれません。棋士になるときも、年齢制限があるので、「それまでにプロになれなかったら仕方ない。そうなったら研究をがんばろう」というぐらいの気持ちでした。ただ、大学受験を目指すようになった高2からは、切り替えて勉強するようになったように、「やるべきときにきちんとやる」ことは、意識してきたかもしれません。

保護者の皆さまにお伝えしたいのは、子どもが何かをやりたいと言ったら、否定をせずにまずはやらせてみてはいかがでしょうか。勉強以外からも学べることはたくさんあります。例えば、将棋AIに触れて、「これはどう作られているのかな」と不思議に思い、それが大きなモチベーションとなって数学が大好きになることもあるのではないでしょうか。学校での勉強をするタイミングではなくても、勉強したくなるタイミング、勉強が楽しくなるタイミングが、人それぞれにあるのではないかと思います。

情報があふれ、スマホがあれば何でもできる時代において、子どもたちに「ゲームをしてはいけません」というのは至難の業です。でも、スマホで受け身のゲームをするよりも、パソコンを使ってプログラミングをするなど、クリエイティブなことをする機会を増やすといいと思います。自分で何かをつくって発信するほうがより楽しいと、私自身、実感しています。

これから挑戦したいこととは?

コンピュータ技術を使って将棋界に新風を吹かせたい

谷合 廣紀さん

棋士の中でコンピュータの研究をしているのは自分だけなので、今後は、コンピュータの知識を使って将棋界に“いい風”を吹かせられたらと思っています。例えば、一つは「将棋AIの言語化」です。将棋AIは高度な領域になってきていて、人間が思いつかないような手を指します。ただ、ある局面を入力して「この手を指せばいいよ」と答えは教えてくれますが、「なぜこの手を指すのか」までは教えてくれません。その部分を言語化したいですね。それはコンピュータの研究としてもおもしろいですし、将棋界でも意義があることだと思います。

コンピュータ技術を使って「将棋AIをより強くする」という方向も考えられますが、すでに十分強く、私としてはこれ以上強くすることにはおもしろさをあまり感じていません。それよりも、将棋AIを人にとってフレンドリーにするほうが楽しいかなと感じています。

現在の活動だけでなく、今後、新しい技術や「おもしろい、やってみたいな」と思うことが出てきたら、それにも関わっていくかもしれません。私の憧れは、AlphaGo(アルファ碁)を開発したDeep Mind社の創業者であるイギリスのAI研究者、デミス・ハサビスさん。「ゲームとAI」というバックボーンが自分に似ていると感じているので、彼のようにAIの研究を活かして、多くの人々が楽しめるような“何か”につなげることができればと思っています。

前編を読む

関連リンク

日本将棋連盟

谷合廣紀twitter


下向 依梨さん   

前編のインタビューから

-対局だけでない将棋の魅力を発信
-子どもの頃に夢中になっていたこと
-公文式学習で身についた力とは?

前編を読む

    この記事を知人に薦める可能性は、
    どれくらいありますか?

    12345678910

    点数

    【任意】

    その点数の理由を教えていただけませんか?


    このアンケートは匿名で行われます。このアンケートにより個人情報を取得することはありません。

    関連記事

    バックナンバー

    © 2001 Kumon Institute of Education Co., Ltd. All Rights Reserved.