第一印象は「これなら続けられる」
上達している実感がモチベーションに
まず初めに導入のきっかけについて、フジアルテ株式会社営業本部・人材開発部リーダー松井陵子さんにお聞きしました。
―― 公文式を導入されたきっかけを教えてください。
松井さん: 私自身が子どもの頃に公文の教室に通っていて、その良さを知っていました。ですから、公文式日本語プログラムがあると知り、ぜひ導入したいと問い合わせました。弊社は全国に18の営業所があり、約3000名の日系ブラジル人社員が働いていますが、彼らの日本語能力を高めることができれば、例えば通訳なしでお客さまである依頼先の方々と直接コミュニケーションをとることができ、それによって業務の改善が進み、仕事に対するやりがいも大きくなるだろうと考えました。
公文式日本語教材 |
そして、2012年に導入したのが通信で行う公文式の日本語プログラム。自宅で、社員それぞれのペースで学習することができ、またオンラインで行う月2回の音読レッスンでは、インストラクターの指導を直接受けることができる学習方法は、まさに会社が求めていたものでした。
次に、実際に公文式で日本語を学習している大山薫パウロさんにお話をお聞きしました。
大山薫パウロさん |
―― 実際に学んでみて、いかがでしたか?
大山さん: 公文式で学び始めた当時、日本語が全くわからないということはなかったのですが、間違った日本語の使い方をしながら、ジェスチャーを交えてなんとか話をしていたという感じでした。正直最初は「この歳になって勉強かぁ」と思ったこともあったのですが、実際にやってみたら、どんどん楽しくなってきて、夢中になって勉強するようになりました。一番良かったのは、自分の生活のリズムに合わせて、自分のペースで学習することができるという点。夜勤である自分にとっては、それが何よりもありがたく、「これなら続けられる」と思えました。
―― 毎日の生活の中で、どのようにして学習時間をとっているのでしょうか?
大山さん: 基本的には私は夜勤なので、朝自宅に戻って食事をしてから、学習をするようにしています。だいたい30分くらい学習することが多いのですが、やる気が出てきた時には1時間くらいやることもあります。逆に、仕事で疲れてしまって、どうしてもやる気が起きない場合は、休むこともありますが、ほとんどの場合は「いや、少しでもいいからやろう」と思って、5分でも10分でもやるようにしています。
―― 疲れていてもやろうと思えるモチベーションはどこからきているのでしょうか?
大山さん: 公文式を始めてから着実に自分の日本語能力が上がってきているという実感があるので、継続の重要性を身に染みて感じています。「ここでストップさせたくない!」という気持ちが一番にあります。
―― 実際にご自身の日本語が上達しているな、と感じたのはどんな時でしたか?
大山さん: 普段の生活の中では、少しずつ話せたり、読めたりすることが増えていきましたが、一番難しかったのはビジネスでの会話です。日本語独特の尊敬語や謙譲語は、なかなか理解することができませんでした。でも、公文式を始めて2、3年ほど経った時、日本人の社員の言っていることが以前よりも理解できるようになり始めたんです。「あれ、今の話の内容、わかったぞ」と思った時は本当に嬉しかったですね。
―― 月に2回、インストラクターによるオンライン音読レッスンについてはいかがですか?
大山さん: 自分で教材を学習していてわからないことが出てきた時、それを調べて解決するというのは、日系ブラジル人にとっては簡単なことではありません。でも、オンライン音読レッスンがあるおかげで、わからないところを先生に直接聞くことができて、とてもありがたいです。先生には、日本語のことはもちろんですが、生活をするうえでわからない日本の文化や習慣などについても聞いたりしています。例えば、日本では「お疲れさまです」という言葉をよく使いますが、ポルトガル語にはない言葉なんです。最初は意味がわかりませんでした。それを先生に聞いて、ようやく理解したということがありました。
広がり始めた“仕事の幅”と“信頼性”
ここからはフジアルテ株式会社出雲営業所の山内康己所長にもご登場いただき、職場での変化についてうかがっていきます。
―― 社内での変化はありますか?
山内康己所長 |
山内所長: 以前は、日系人社員のために書類やメールには、必ずポルトガル語の翻訳も添えるようにしていたのですが、2年前くらいからは少しでも日本語に触れて上達してほしいという思いから、ポルトガル語の翻訳は入れないようにしているんです。
大山さん: 最初は、とても苦労しました(笑)。
山内所長: 当時のラインリーダーの話では、大山さんに限らずほとんどの日系人社員から、「これは何と書かれているのですか?」という質問が飛び交って、最初から最後まで翻訳しなければならなかったそうです。ところが、公文式を続けている大山さんは、徐々に理解する部分が増えていき、質問も「ここまでは理解したけれど、この部分がちょっとわからない」というふうに変わっていったそうです。今では、大山さん自身が日本語で返信してくれています。
大山さん: 話すことよりも、書くことの方が難しいですね。特にビジネス文書は、とても難しいですが、少しずつトライしています。
山内所長: 日本語の上達とともに、職位も変わってきています。当時はオペレーターでしたが、今では製造責任のリーダーとして現場を管理してもらっています。
―― 日本語の上達によって、仕事の幅も広がっているわけですね。
山内所長: はい、その通りです。例えば、これまで大山さんが取引先からの電話を受けた時、必ず「○○さんに代わってください」と言われていました。それが、今では大山さんが直接応対するようになっています。取引先の方からも「大山さんに言えば、きちんと伝わるし、回答してもらえる」という信頼感を得ています。
―― 公文式を始めて4年目になりますが、今後の目標は何でしょうか?
大山さん: 昨年12月に日本能力試験2級に合格しました。今は1級合格を目指していて、今年12月に試験を受ける予定です。
山内所長: 合格すれば、出雲営業所では3人目の1級合格者です。大山さんが合格すれば、きっと他の日系人社員の刺激となり、日本語学習にも意欲がわくのではないかと思います。それが職場の活性化にもつながると期待しています。
コツコツ学習が力に
オンラインでの会話で知る嬉しい成長
2012年から月に2回、オンライン音読で大山さんのレッスンを担当しているのが、インストラクターの宮村ゆみ子先生です。宮村先生に、大山さんについてうかがいました。
宮村ゆみ子先生 |
―― 公文式を始めた頃の大山さんの日本語についての印象はいかがでしたか?
宮村先生: 大山さんは長い間日本で生活をしていましたので、日常での会話についてはそれほど問題なかったと思います。ただ、読み書きについては相当苦労しているなと感じました。しかし当初から一貫しているのは、コツコツと真面目に学習に取り組む姿勢。これには、感心しきりです。
―― 大山さんの学習への意識の高さは、どういうところから伝わりますか?
宮村先生: 例えば、読めない漢字があっても、なんとかして自分で読もうと努力されます。前後の文章から意味を読み取って予測してみたり、あるいは最初の部分だけヒントを与えると、そこから読み解いたり……。すぐに諦めてしまうということは、まずないですね。
―― 日本語の上達によって、大山さんにどんな変化があったのでしょうか?
宮村先生: 大山さんをはじめ、海外の方にとっては漢字を覚えることが一番大変です。でも、最近では商品の取扱説明書も理解できるようになった、と喜んでいらっしゃいました。また、同じ日系ブラジル人の方を病院に連れて行って、通訳もしてあげているそうです。まさに「継続は力なり」。大山さんの努力の積み重ねによる賜物だと、私も嬉しくなりました。こうした会話をすることができるのも、オンラインならではの魅力ではないかなと感じています。学習者にとっても、私自身にとっても、お互いにモチベーションが上がることにつながっているのだと思います。
今後について、前述の松井さんが次のように語ってくれました。
松井さん: 今後公文式日本語で学ぶ社員を増やしていき、日本語検定の上位レベルの合格者を今の100名から200名以上にしていきたいと、会社トップの方針で考えています。日系ブラジル人社員のますますの日本語力向上に期待しています。
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