「簡単すぎず、難しすぎない」
一人ひとりにちょうどの教材づくりを目指して
英語教材部 部長 中嶋良二 |
公文に入社して最初に担当したのは、公文式教室の指導者をサポートする仕事でした。実際に教室を訪問し、教室の運営や指導をサポートする業務を経て、今に至ります。教材制作の部署に来て、いちばん驚いたのは「子ども目線にこだわる」という教材制作者の姿勢でした。
公文式の教材制作の根底には「子どもたち一人ひとりの“ちょうど”を追求する」という哲学が流れています。「ちょうど」というのは、たとえて表現すれば、脳に汗をかいて、真剣勝負をし、自力で問題を解くことで達成感を得られるレベル、つまり「簡単すぎず、難しすぎない」ということですね。
公文式の教材には、子どもたちが自分の力で正答を導き出すことができるように、設問や例文中にヒントが散りばめられています。「自分の力で解く」という体験は、自信を生み出すきっかけにつながります。そのため私たち教材制作者は、子どもたちの「自習力」を最大限に引き出していくために、一度作り上げた教材であっても検証を繰り返し、何度も改訂を重ねています。
ヒントをくれるのは、教室で学ぶ、子どもたちの生の姿
公文の教材は、完成したらそれで終わりというわけではありません。設問を解く子どもたちの様子をつぶさに観察し、さらにいい教材に進化させていくのが私たちの使命です。「教材制作者たるもの、指導者であれ」とは、公文式の創始者・公文公(くもんとおる)の信念でもありました。そのため教材制作者は教室で、実際に子どもたちの観察や指導を行います。
子どもたちは、どういうところで集中力が途切れてしまうのか。また、英語の音読では、どんなことで困っているのか。彼らが発信してくれる生の情報をキャッチし、把握した上で、次の教材改訂案のヒントにします。
音読の例を挙げると、子どもたちにとっての「発音のしにくさ・聞き取りづらさ」は改訂の際の重要なポイントです。たとえば、大人であればある程度知識もあるため、「hundred」(100)と聞けば十分聞き取れますが、子どもたちからすると初めて聞く言葉。「ハンレン」と聞こえてしまっている場合があります。こういうことは、子どもたちの音読に耳を傾けてみて初めて「聞き取るのが難しい単語なのかな」ということがわかります。
また、教材を改訂する際には指導者の声も参考にします。たとえば、以前は英語の音を共通項として単語を教材に配列していたのですが、「egg」(たまご)と「elephant」(ぞう)は「e」という共通の音をもつ単語ではありますが、意味としての共通点はありません。そのため、子どもたちが単語の意味を覚えるのに苦労している、という指導者の声がありました。
そういった声を受けて、現在は子どもたちの身近にあるもので、イラストにしても意味が明確な単語、例えば「apple」(りんご)や「banana」(バナナ)などの「果物」といったカテゴリーごとにグループ分けをして、単語を配列するように教材を改訂しました。こうすることで子どもたちは音だけでなく、単語の意味も捉えやすくなります。このように、子どもたちの学習の様子を日々観察している指導者の声を参考にすることで、「子どもから学ぶ」という方針での教材改訂を行うことができるようになっています。
高校相当教材のストーリー 「トム・ソーヤーの冒険」 |
教材に含まれる作品の選定も重要ですね。公文式英語が最終的に目指しているのは高度な英文読解力です。そういった力をつけるためには、楽しんでどんどん読み進めていけるストーリーが必要だと考えています。そのため、作品の選定の際には実際に子どもたちにアンケートもとっています。アンケートの結果、人気のあるストーリーは次の教材改訂でも残し、逆にそうでなかった場合は採用しないということもあります。
語学習得の2つの壁を乗り越えるための公文式英語教材の特徴とは?
子どもたちには使える英語を身につけてほしい
語学で挫折する要因は、大きく2つあると考えています。一つは、「音を伴わない学習」です。未知の言葉を音を伴わずに文字列のみで理解しようとするのは、暗号解読のようで難行苦行になりかねません。そしてもう一つは、外国語の習得で高い壁となる「文法」。この2つを解消するのが、英語教材における命題です。
私が教材制作者として大きな転機だったと感じるのは、2001年の教材改訂です。グローバル化が進み、英語教育を取り巻く環境がこれから大きく変わっていくだろうという時期でした。このときの教材改訂で、一番下のレベルの教材から「リスニングと音読」を必須の学習行動としました。このような教材の改訂は、教室で指導する指導者にとっても大変大きな負担であることは重々承知していました。しかし、「これからの時代を生きる子どもたちにどんな英語力をつけてほしいのか」「英語をどのように学んでほしいのか」を考えたとき、これからの英語の学習には「音を伴った学習は必須」という結論に行き着いたのです。
専用リスニング機器 「E-Pencil」(イー・ペンシル) |
現在の公文式英語教材は、学び始めのレベルから、専用リスニング機器「E-Pencil」で音を徹底的に聞いて音読し、「音と意味と文字」を一致させていく構成になっています。それを繰り返すことで、文法を学ぶ教材に進む前に、意味がわかる単語や英文を貯めていくのです。そのあとで、意味がわかる英文を読みながら、文法を学びます。英語をたっぷり聞き、たっぷり音読し、音と意味が合致したうえで書く……これにより文法の壁はきっと乗り越えやすくなる。このプロセスが最終的に子どもたちが高度な英文読解力を身につけていくためには必要です。まずは英語をしっかりと理解し、読むことができるようになることで、豊かな語彙力や構文力でアウトプットできるようになり、実際に英語を使う際の突破口となる。実際に、公文式教材で学ぶ子どもたちの様子を見て、そう実感しています。
「教材・教室・家庭」が三位一体となって、子どもの可能性を伸ばしてゆく
公文式では、子どもたちは教室で週2回学ぶ以外に、家庭でも毎日学習します。そのため、「家庭ではどのようなサポートをすればよいか」という保護者の声を耳にすることがあります。基本的に周りの大人は「子どもたちの成果を試そうとしない」という姿勢が大切だと考えています。
たとえば、家庭では「今日勉強したことについて、言ってみてごらん」など、できるかどうかを確認するような声かけは控えたほうがよいと考えています。子どもたちにしてみれば、まったくの未知の言語である英単語を「4つ覚えた」というだけで、それは素晴らしい成長です。大人だって、「今日覚えたフランス語を4つ、ミスなく音読して下さい」と言われたら大変ですよね。それと同じで、できないことをつつくのは、目の前の子どものやる気をそぐことになりかねません。たとえひとつの単語しか音読ができなくても、「一つ読めたのはすごい!」など、「できたこと」にフォーカスを当てて、認め、ほめること。学習の初期段階にいる子どもにとっては、特にそういうサポートが学習を持続する後押しにつながるのでは、と思います。
100人の子どもがいたら、100通りのコンディションがあるもの。たとえば「今日は学校の行事で疲れているから、教材をやるのが大変」という日も、人間ですから当然あるでしょう。教室の先生は、マラソン選手の伴走者のように子どもたち一人ひとりのコンディションをつねに観察しながら、宿題の量や教材を決めていきます。つまり、「教材・教室・家庭」が三位一体となってはじめて、子どもの可能性は伸びてゆく。教材制作者として、その一端を担っていることの重責はつねに感じていますし、だからこそ、「もっといい教材を作らなくては」という思いに駆られます。
「笑顔」と「悔し涙」設問を解く子どもたちの表情が、さらなるモチベーションに
そのように責任重大であるからこそ、教材制作者としてやりがいを感じるのは、なんといっても、子どもたちが自力で正答にたどり着いた時の笑顔です。自分たちが考えた設問ですから、そのうれしさはまた格別ですね。子どもたちが、ハリのある表情をしたその瞬間に立ち会えること。それが「教材制作の仕事を続けたい」という、自身の大きなモチベーションにつながっています。子どもは正直なので、のらない時は、決してそういう顔は見せてくれませんから。
また、「わかった」と目を輝かせている子どもがいる一方で、設問が解けなくて、悔し涙を浮かべている子もいます。そういう時は、自分自身もショックを受けると同時に、「悔しい」「申し訳ない」「なんとかしたい!」という気持ちが沸き起こります。仕事のモチベーションを高めるのは、決して成功体験だけではありません。挫折や悔しさといったマイナスの要素もすべて、よりよい教材を作ろうとするモチベーションとなっています。
くり返しになりますが、われわれの仕事は「子どもに与えられている可能性を追求しその能力を最大限に伸ばす」ということにつながっています。子どもたちは学習を通じて日々成長しようと進化しているし、その子どもたちを支える教室の先生も、指導という形で進化している。だからこそわれわれ教材制作者は、そんな子どもたちや先生以上に進化していかなければいけないと感じています。解決策は一朝一夕には出てこないものですが、つねに「質を上げていこう」という気持ちを持ち続けること。その姿勢こそが、大切だと考えています。
関連リンク 公文式英語教材について 公文式教室 英語編-動画レポート