子どもの成長を願う数々の儀式
江戸時代、出産は母子にとって命がけの出来事であり、乳幼児の死亡率も極めて高いものでした。そのため、誕生前からのいくつもの危機を無事に通過するために、数多くの儀式を行っていました。懐妊して5ヶ月目の「帯祝い」に始まり、誕生後の「出産祝い」、「初宮参り」、「食い初め」、そして女の子は3月3日、男の子は5月5日の「初節句」にわが子の健やかな成長を願い、1年目の「初誕生」を迎えます。その後も人生の通過儀礼として「七五三」、「元服の儀」などで子どもの成長を祝いました。
子が親元を巣立つとき~元服の儀~
子どもを描いた浮世絵の中にも、当時の元服の儀を描いた作品が数多く残されています。今回は、当時の子どもたちのヒーロー的存在だった「金太郎」の元服の儀を描いた作品を紹介します。金太郎は足柄山中で山姥(やまんば)とくらし、源賴光(みなもとのよりみつ)によってすぐれた人物であることを見出され、その従者となったと言い伝えられています。
![]() 「子犬を牽く金太郎」鳥居清長 文化11年(1814)頃 |
こちらの絵を見てください。丸々と太った金太郎。頭には鳥帽子(えぼし)をかぶっており、元服した武士として描かれています。右手でひいている犬は、魔除けで出産・生育のお守りとされる犬張子(いぬはりこ)を型どっています。背後には、めでたい竹の葉の紋の柄が入った着物を着た小熊を従え、画面いっぱいに堂々とした金太郎が描かれています。当時は、金太郎のような元気な子が生まれ丈夫に育つように願い、新年の吉祥画(きっしょうが。縁起がよいとされる絵)として飾るための作品が多く描かれました。この作品は、寛政二年の戌年にちなんだ新年の吉祥画であると考えられています。
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上の作品を見てみましょう。これは金太郎が源賴光(みなもとのよりみつ)の前で元服し、従者となる場面を描いています。金太郎以外すべて女性に置き換えて描いている見立絵だと考えられています。金太郎の左には、手をつき儀式の様子を見守る母親の山姥の姿があります。その顔にはわが子の元服の喜びとともに、自分のもとから離れていく寂しさが重なった一人の母親のような表情が見てとれます。
このように、公文教育研究会は当時の子どもの日常生活や行事の様子など、当時の文化が描かれた浮世絵を中心とした「子ども文化史料」を所蔵しています。昔から伝わるさまざまな儀式や行事に込められた人々の気持ちに思いを馳せながら、行事を楽しむのもよいですね。
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