テーマも行程も生徒が決定する修学旅行
神奈川県横浜市にある公文国際学園では「自ら考え、自ら判断し、自ら行動できる学力を持った18歳になる」ことをめざし、教科外教育として、中等部から高等部まで一貫した「知」の体験を行っています。中3生が参加する日本文化体験の準備は中2から始まります。グループごとに研究テーマに即した訪問先や調査内容を検討し、3泊4日の体験学習の企画書・行程表を作成。旅行会社や学年全体の前でプレゼンテーションを行い、最終決定がなされます。
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2015年度は「マグロコース」を含めて、6つのコースが実行されることになりました。この「マグロコース」を企画したグループは、乱獲による漁獲量の減少や経費の高騰による遠洋漁業の衰退といった逆境の中、「まぐろ祭り」の開催やマグロの完全養殖の試みなど、新しいことに挑戦し続けている和歌山県を訪問先に選びました。テーマは「これからも日本人はマグロを食べられるか」。この研究テーマを探求するため、3泊4日の旅程で、近畿大学水産研究所、那智勝浦町の漁協、ヤマサ脇口水産、民宿、観光協会などを訪ねる計画を立てました。
近大マグロとのご対面
縄文時代から食されてきたと言われるマグロ。昨今、水産資源の枯渇を懸念する声が上がっていますが、近畿大学の初代総長・世耕弘一さんは戦後間もない1948年に水産研究所を設立し、「海を耕せ!」の号令のもと海産物の養殖生産の研究を始めました。そして2002年、世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功。和歌山県の大島実験場でふ化したマグロが親魚となって産卵し、その卵がかえったのです。
10月1日。「マグロコース」の生徒たち31名は、小型漁船に乗って生簀(いけす)まで出向き、クロマグロの給餌を見学してきました。マグロは雷や花火の音でパニックを起こすこともあるほど音に敏感な動物です。担当飼育員が生簀に近づくと、船の音を聞き分けて餌をもらいに水面に近づくが、出荷用の船だと餌をまいても上がってこないとのこと。夏休みにインターネットで事前に情報収集をしていたものの、幼魚が水槽の壁に激突したり、共食いをしたりする話を担当者から直接聞くことで、マグロの養殖の難しさが知識から実感へと形を変えていきました。また大豆などの植物性タンパクを配合した飼料で育つマグロの開発に話が及ぶと、「マグロの養殖がここまで進んでいると知らなかった」「ドングリで育つイベリコ豚のことを考えると、大豆育ちのマグロはどんな味がするんだろうか」「大豆は遺伝子組み換えのものが多いけど、そんな大豆を食べたマグロは遺伝子配列が変わらないのか」などと各々が感想や疑問を述べ合っていました。
自分なりの主張をまとめる
日本文化体験は、実地での「体験」では終わりません。夕食後は、見聞きしたことをもとにして生徒たちが議論するミーティングの時間です。
和歌山県の南東部に位置する那智勝浦町は、日本有数の生マグロの水揚げ高を誇り、温泉にも恵まれた土地。漁業や水産加工、旅館業、観光などマグロに関係する仕事に従事する方々から、マグロにまつわる話をさまざまな視点から学びました。そして一日の終わりには、生徒たちはグループごとにフィールドワークの内容を模造紙にまとめたり、特定の課題について話し合ったりします。例えば、「本マグロの一本釣りなら大間、冷凍マグロなら清水を想起するが、生ビンチョウマグロの漁獲量が多い那智勝浦町は、近大マグロと組み合わせたイメージ作りができないか」「ビンチョウマグロの養殖に挑戦して、水産資源を守るべきではないか」などについてディスカッション。マグロの漁獲規制やマグロによる町おこしなどテーマは多岐にわたり、連日夜遅くまでミーティングが続きました。
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こうして3泊4日の日本文化体験を終えた生徒たちは、学校に戻り、各々が考えたことを論文にします。ミーティングの際、引率する教員たちは、結論を性急に求めたりはしません。紋切型の論文が31本出てくるより、生徒たちには自分らしい主張を繰り広げてほしいと考えているからです。そうして集まった論文は来年の3月、論文集という形にまとめられ、一つの「知」の体験が終わります。