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Vol.027 2015.12.25

武蔵大学人文学部教授
小山ブリジット先生

<後編>

間違いや失敗を恐れずに
好奇心疑問をもって
心から「好き!」なことを見つけ
よう

武蔵大学人文学部教授

小山ブリジット (こやま ぶりじっと-Brigitte Koyama-Richard)

パリ生まれ。パリ大学大学院で比較文学博士号を取得。早稲田大学大学院で日露比較文学を学んだのち、複数の大学での非常勤講師を経て、現在は武蔵大学人文学部教授。専門は比較文学、美術(ジャポニスム)。著書に、『夢みた日本 エドモン・ド・ゴンクールと林忠正』(平凡社)など。

芸術の都パリに生まれ、日本には40年近くお住まいの小山ブリジッド先生。大学で教鞭をとる一方で、浮世絵を中心に日本の文学や美術、文化をヨーロッパに紹介されています。「まだまだやりたいことがたくさんある」と、好奇心あふれる小山先生。沸き起こる意欲の源にあるものや浮世絵に関心をもったきっかけ、フランスと日本の教育の違いなどについてうかがいました。

目次

“花まる”を与えてほめる日本
“完璧はない”と考えさせるフランス

武蔵大学人文学部教授 小山ブリジット先生

武蔵大学では約30年教えています。その間に長女も生まれ、二人の子を日本で育てることになりました。わたしはフランス人なので、子どもに対しては日本語では話しかけませんでした。バイリンガルに育てようと、読み聞かせもフランス語の絵本でやっていました。日本の絵本は夫か義母の担当でしたね。

子どもたちは日本の学校に通学していましたから、フランスとの違いに驚くことがよくありました。たとえば音楽の授業で、子どもたちがいろんな楽器を使っていることには感動しました。フランスではずっと同じことの繰り返しで、いろいろ試すことはありません。美術の時間も、フランスでは1年間ポットばかり描かせられたこともありました。わたしが、“絵をみるのは好きなのに描くのが嫌い”なのは、それが影響しているのかもしれませんね。わが子を見ていて、日本の学校は「子どもが自由!」とうらやましく感じましたね。

典型的な違いは、フランスでは厳しく教育するのに対し、日本はほめる教育だということ。日本では学校でも公文式でも、よく“花まる”をもらいますよね。子どもが小1のころ、花まるをもらってきて、「私の子どもは天才ではないのにどうして?」と、ほかのお母さんに聞いたら、「日本ではできれば花まる」と聞いて驚きました。フランスでは、就学前ならともかく、ほめられることはほとんどない。逆に、いくら上手でも低い点数をつけます。「満点、完璧は存在しない」という哲学的な考えがあるのです。安心してはいけないし、「疑問をもちなさい」「自分で考えなさい」ということなんです。

こういった影響があるのか、日本は甘えん坊の学生が多い印象です。フランスでは学校が厳しく、学生が教授に気軽に話しかけることはまずありませんが、日本の学生はとても人なつっこい。日本は甘すぎで、フランスは厳しすぎ。その中間であればいいのに、とよく思います。

日本の学生は、やさしくて礼儀正しい。それはよいことですが、もっと自信をもってほしいですね。まずはしっかりと自分の意見をもってほしいと思います。大学で教え始めたころ、学生たちがみな笑顔でうなずいていたので、みんな理解してくれたんだとうれしく思っていたら、試験では1人もできていなくて、大きなショックを受けたことがあります。フランスだったら、理解していなければ笑顔にはなりませんから。

小山先生から日本の学生へのメッセージ

間違いを恐れずに
「好奇心」や「疑問」をもっていろんなことに挑戦を

武蔵大学人文学部教授 小山ブリジット先生

学びというのは、暗記ではなく「考えること」だと思います。ですから、わたしは受講生が100人ほどの講義でもマイクを持って歩きながら話し、ときどき学生にマイクを向けます。1時間半の講義を聞くだけというのは、受け身で退屈じゃないですか。そうならないよう、わたしの言ったことを理解しているか、どう思うかを聞くのです。そこに完璧な答えなんてありません。いろんな人がいるといろんな意見がありますから、何でも思っていること言ってもらい、その発言に対して必ずほめます。いわば、フランス式と日本式のミックスですね。

わたし、学生が間違えるとうれしくて。「これは素晴らしい間違いです」と、なぜ間違えたのか例を出して説明すると、二度と繰り返しませんし、むしろ学びが深まります。だから、間違うことを恐れないでほしい。

それからもっと好奇心をもって、いろんなことにチャレンジしてほしい。フランスでは疑問をもつのは当たり前ですが、日本の学生はあるテーマについて本を1冊読んだらそこに書いてあることを信じてしまう。若いときにあらゆる面で好奇心をもちながら、疑問をもつことが大切ではないかと思います。講義をしていて日本の学生には、そんな物足りなさを感じます。

もうひとつ言いますと、もっと自国の文化についての知識を深めてほしい。西洋やアジアに関心を寄せる若者は多いのですが、自分の国について関心をもつ学生は多くいません。ですからわたしは授業で両方を教えます。後期のゼミのテーマは「アニメーションのルーツ」ですが、ラスコーの洞窟から日本の絵巻や浮世絵、明治期の風刺画、ジャポニスム、現代のアニメーションまで、互いに影響し合っていることを説明します。すると、やっと自国の文化に興味をもってくれるのです。

小山先生のこれからの夢とは?

心から「好き!」と思えることをして
自分の人生を楽しもう

武蔵大学人文学部教授 小山ブリジット先生

研究はエンドレスですが、自分が研究していることを学生に紹介できるのはうれしいですね。単位を取るために学ぶのではなく、楽しいから学んでほしい。そうしてきちんと調べて学びを自分のものにしている学生は、発表するときに輝いて見えます。本人も楽しんでいるから、聞いている人も楽しくなります。

ゼミでは自分の好きなテーマを見つけて楽しく卒論を書けるように、それから自信をもって話ができるように意識して教えています。研究者になるのは100人か200人に1人くらいでしょうが、研究者にならなくても、自分のための学びになればいいと思っています。

たとえばゴッホについて研究していた学生が、卒業して関係のない仕事をしたとしても、休みでアムステルダムのゴッホ美術館に行ったときにゼミを思い出したり、素晴らしいからと自分の子どもも連れて行こうと考えたり。そうして、日常の中でフランス文化や日本文化を伝えていってくれればいいと思います。

いま、「何がやりたいかわからない」という学生や夢をもっていない子どもや若者も少なくありません。でも、夢がないと人生つまらない。わたし自身は一生、日本文化を研究し、それを本にまとめて西洋人にもっともっと紹介していきたいですね。わたしは夢ばかりもっていて、寝る前に頭の中で明日やりたいことを考えると、朝は4時半とか5時に起きてしまう。昼間は一生懸命やりたいことをやるので、夜は12時前には寝てしまいます。

どんな夢でもいいと思います。好奇心をもちながら、心から「好き!」と思えることをやって、自分の人生を楽しんでください。

 


武蔵大学人文学部教授 小山ブリジット先生 

前編のインタビューから

-フランス生まれの小山先生が浮世絵に関心を持ったきっかけとは?
-学校が苦手だった子ども時代
-就職と家庭の選択、小山先生が選んだのは?

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