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Vol.083 2025.05.23

特別対談 
脳科学者・京都大学教授 中村克樹さん×NMB48 水田詩織さん

<前編>

安定して導くには
サルもヒトもほめることが大切!
サルを知るヒトがわかる

NMB48のメンバーとして活躍中の水田詩織さんは、大のサル好き。好きが高じて、動物園の飼育員さんに気になるあれこれを聞いて、初の著書『サル好きアイドルが飼育員さんに聞いてみた』でサルの魅力を伝えるほどです。今回は、サルの知能やコミュニケーションについてもっと知るため、脳科学者で京都大学ヒト行動進化研究センター長を務める中村克樹教授にお話を聞くことに。サルを介して、アイドルと脳科学者という異色の対談が実現しました。

目次

    脳科学者・京都大学教授
    中村 克樹(なかむら かつき)

    京都大学ヒト行動進化研究センター長・高次脳機能分野教授。京都大学大学院理学研究科修士課程修了後、国立精神・神経センター神経研究所モデル動物開発部部長などを歴任。著書に『人生100年時代の脳科学:元気に歩むために知っておきたい脳の50話』(くもん出版)ほか。

    NMB48
    水田 詩織(みずた しおり)

    1998年生まれ。愛媛県出身。2016年にNMB48研究生として加入し、その後正規メンバーに昇格。ゴリラやサル愛を公言し、公益財団法人日本モンキーセンターのアンバサダーに就任。初の著書『サル好きアイドルが飼育員さんに聞いてみた』(くもん出版)を刊行。

    サルを知ると
    ヒトのことが見えてくる!

    水田詩織

    水田詩織さん(以下、水田):はじめまして。水田詩織です。NMB48の5期生で、アイドルとして活動しています。ライブがない日は生配信のほか、個人的に動物園に行った時のことなどについてSNSにアップしたりもしています。天王寺動物園には、パスポートを持っていることもあり、よく行ってサルを観察しています。先生はどんな研究をされているのでしょうか。

    中村克樹教授(以下、中村):私は京都大学が保有しているサルの研究所「ヒト行動進化研究センター」でセンター長を務めています。ただ、私は水田さんと違って、初めからサルが大好きだったわけではないんですよ。

    私は若い頃、自分がいろいろ考えたり、うれしい、悲しいと感じたりすることが不思議だなと思っていました。そういう思考や感情は脳から生まれてくるのだから、脳のことを知りたいと思ったんです。多くの研究者はネズミや細胞そのものを研究対象にしているのですが、私は人に近いサルで調べたら、より脳のことがわかるのではないかと考えました。

    中村克樹教授

    そこで、京都大学の大学院に進み、サルを相手に研究を始めました。犬を飼っていたことはありましたが、やはりサルは犬とは違う。サルを見ていると、「通じ合うところがあるな」「このサルはわかっているんじゃないのかな」という感覚になったりします。

    人間と比べるとレベルは違いますが、サルもいろいろなことを学習することができます。例えばある条件のときは「赤いボタンを押しなさい」、別の条件のときは「緑のボタンを押しなさい」ということも学習できるんですよ。「これはサルもできる」「これはできないな」ということを知れば、「人間はこういうところが特徴なんだ」とか「人間らしさ」ということがわかってきます。人と近いサルと比べることで、より人が見えてきます。

    水田:私もまさに「人ってなんで悲しいと思うのかな」と疑問に思っていたので、さっきからずっとニヤニヤしながらうかがっています(笑)。

    中村:人間はいろいろなものに縛られていて、秩序もありますよね。本当は朝から学校や会社に行きたくない人もいるかもしれない、でも、行かなくちゃいけないから行く。ヒトは本来の姿ではない部分しか見えていないこともあると思うんです。一方、とくに野生のサルは素のまま。それを見ていると、人間は他のサルとずいぶん違っているな、ということが見えてきます。

    ところで、水田さんがサルに興味をもったきっかけはなんだったのですか。

    水田:私がサルに興味をもったのは、NMB48のライブの中で、フリーで動ける時に、ゴリラのものまねをしたことがきっかけです。リアルなゴリラをステージ上でやるために、動きや表情を研究するところから始まりました。

    中村:それはある程度まねをすることができたから、するようになったのですか? それとも後からですか。

    水田:後からです。私は比較的反り腰ですし、ゴリラの顔もつくれるかなと、結構なりきれるようになりました(と、顔まねをする水田さん)。どうですか。何点ぐらいでしょうか。

    中村:素晴らしい! 上手です!

    かっこいいのに繊細
    ニシゴリラにギャップ萌え

    日本モンキーセンターにて
    日本モンキーセンターにて

    水田:おサルの歩き方や動き方は、日本モンキーセンターのSNSの写真やいろんなYouTubeを見て練習しました。アップされているのはゴリラだけじゃないので、「こんなにいろんなおサルさんがいるんだ!」と感激したんです。最初は「かわいい!」から入りましたが、どんどん知っていくうちに「かわいいだけじゃないぞ」と思うようになりました。

    中村:そうですか…ゴリラってかわいいかな…。

    水田:あ、初めて見た時は「かっこいい!」でした。私が初めて会ったのが京都市動物園のモモタロウ。銀色に輝く背中、シルバーバックで迎えてくれたんです。それに惚れてしまって。

    中村:変なもの投げつけられたりしませんでしたか?

    水田:はい、その時は大丈夫でした。それ以来、私のイチ推しはニシゴリラです。見た目だけじゃなくて優しいところがあるし、がっちりかっこいいのに繊細なところもあって、ギャップ萌えするんです。

    中村:すごくよく観察していますね。

    水田:人間も強いからといって威張っているのはよくないじゃないですか。そういうこともゴリラから感じとれて、そこも素敵やなって思うんです。

    中村:水田さんの好きなゴリラの選び方に、私はすごく共感できます。実はチンパンジーは凶暴なんですよ。

    水田:そうなんですか。

    中村克樹教授 水田詩織

    中村:オランウータン、ゴリラ、そしてチンパンジーの仲間のボノボは、わりと平和主義であまり争いをしませんが、チンパンジーは違うんです。人間も今あちこちで戦争中ですよね。動物は普通、同じ仲間を殺すことはないんです。進化の過程で凶暴性がどこかで生まれたのでしょう。なぜチンパンジーと人間はこんなに残虐なんだろうということも、他のサルと比べてわかることです。

    人間の場合はすごく脳が発達したので、相手の心を読むことができるようになり、そこで初めて相手を騙すことができるようになりました。これはチンパンジーにもボノボにも難しく、おそらく人間しかできないこと。仲間を殺すことや騙すことは、人間らしいといえば人間らしいけど、マイナスの人間らしさですね。ちょっと話がずれましたが、平和主義のゴリラが好きというのは私もよくわかります。ただ、私の推しは今の立場もあるので…! ニホンザルですね。

    水田:ニホンザルのどんなところがお好きなんですか。

    中村:生物としてニホンザルは、すごく変わっているんですよ。ほとんどのサルが赤道の一定の幅内で生息しているのですが、ニホンザルだけが雪が降るような環境でも暮らしています。島国で育った結果、環境に適応したんですね。

    だからニホンザルは年がら年中繁殖せず、秋に交尾して春先ぐらいから夏の初めにかけて出産します。冬に生まれると赤ちゃんザルは雪の中で生き残れないからです。雪の中で生き残るために凍傷にならないように尻尾が短く、他のサルと比べて皮下脂肪がかなりあって、コロっとしている。特に子どものニホンザルはとてもかわいいんですよ。

    サルは「サルとして生きるため」
    知恵をもっている

    水田:フサオマキザルを観察していた時、木の実を地面に擦り付けて中身を出したりしていて驚きました。頭脳が発達しているということなんでしょうか。

    中村克樹教授

    中村:フサオマキザルは南米に住み、小型なので類人猿には分類されないんですが、賢さという意味ではチンパンジーに匹敵します。彼らが住むアマゾン川流域は、大雨が降ったら地面が水浸しになるような環境です。木の上に住む必要があるので、小型なんです。

    チンパンジーも硬い実を石でガンガン割って食べますが、それは人間がやるように手に持てるぐらいの大きさのもの。フサオマキザルは、自分の体と同じぐらいの重さじゃないかというぐらいの大きなものを「よっこらしょ」という感じで振り上げて、何かを叩き割る行動を取る。相当賢いんですよ。天敵動物が来たときに、崖の上から石を落として追い払うなど、いろんなことをする知恵があります。

    水田:賢いですね。フサオマキザルは毛がワシャワシャしているのもかわいくて好きです。

    中村:フサオマキザルは海外では、体が不自由な方の代わりに玄関に行って新聞を持ってくるなど、介護ザルとして活躍していたりもしますよ。

    サルが賢いという話をすると「人の何歳くらいの知恵ですか」などと尋ねられることがあります。私たち人には言葉があるので、サルや類人猿とは頭の使い方がまったく違います。だから「これができるから人の3歳児程度」というような表現はあまり意味がないと思っています。行動を観察していると、状況を把握して「こうすれば問題が解決できるだろう」という知恵をフサオマキザルがもっていることはわかります。彼らは彼らとして生きていく上でいろんな知恵があるんです。それにしても水田さんはかなりのサルマニアですね! よくご存じで驚きます。

    水田:ありがとうございます。では、もっと質問していいですか。サルはずっと動き回っているじゃないですか。あまりじっとしているところを見たことがないんですが、なぜでしょうか。

    中村克樹教授

    中村:基本的に人間の生活がおかしいんです。サルは起きている間に餌を探して食べないと食いっぱぐれるから常に探す。時間をかけて探したものを食べて、食べ終わったらまた探す。だからじっとすることがないんです。これは大昔の人間もそうだったはずです。ところが、人間は作物を栽培するようになり、安定して食べるものが手に入るようになりました。

    ただ、我々の消化管は栄養分を残さずに吸収するように進化してきているので、コンビニで何千カロリーの食料が簡単に手に入るような現代では、皆太ってしまうんですね。野生のサルの生活を考えると、じっとしていること自体がイレギュラーです。もちろん天敵から身を隠すという意味ではじっとしているときもあるとは思いますが。

    水田:後編ではおサルのコミュニケーションについてお聞かせください(後編につづく)。

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    後編のインタビューから

    -「言葉」と「笑顔」は 人間ならではのもの
    -サルもヒトも 「すぐほめる」が大事
    -しんどいときこそ おサルに会いにいってみよう

    後編へ続く(近日公開)

     

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