よろこばせることが自分のよろこび
それがパワーの源
![]() 被災地にて“やなせたかし作品”の読み聞かせ |
演劇を観るというのは、いわば他人の人生を見るということ。客観的に見るということで、たとえば「あの人はこんなこと言っていたけど、本当はこうかもしれないな」と思いやることができるようになっていきます。そうしたことを積み重ねていけば、人間同士のつながりが薄くなってきている今の時代も、少しずつ変わっていくのではないでしょうか。
親孝行をテーマにしたミュージカルでは、親孝行とはどういうことかわからない子でも、ミュージカルの中で表現すると、効果的に伝わるようです。他の人のやっていることや言葉は、素直に受け止められるんですね。そうでないとお説教になってしまいますから。親子で来て、自由に観て自由に考えて、帰りに「親孝行ってほかにどんなことがある?」とか話しながら帰る。それで親子の会話が増えればいいなと思います。
劇場は素直になれる場でもあります。あるとき、見るからに不良っぽい男子高校生が、上演後に「涙って感動する時にも出るんですね」と言ったのです。「そんなこと、初めて知ったの?」という驚きとともに、演劇によって素直な気持ちになれたんだなと、手ごたえも感じました。
時代は変わっていきますが、何が一番お客さまの心に響くかを考えると、それはやはり“ことば”なのです。そのことばに音楽を加えると、より響きます。わたしたちはそこをはずさないでやっていこうと決めたのですが、そんな折に、マンガ家であり絵本作家のやなせたかしさんに出会い、やなせ先生の作品をミュージカルとして上演するようになりました。東日本大震災後には、陸前高田市の奇跡の一本松をテーマにしたミュージカル「松の木の歌4部作」を各地で公演したり、先生の詩を朗読して、地域のFM局の方にレクチャーしたりすることもありました。
どこからそんなエネルギーが出てくるかって?自然とエネルギーが出てきちゃうんです。「やらなきゃいけないな、うん、やりたい、やろう!」と思うんです。うーん、使命感っていうより「自分がやりたいな」と思うんです。これを伝えたい、そうしたらみんなが元気になるなって。やなせ先生は「よろこばせることがよろこび」と、表現してくださいましたが、そのとおりかもしれません。
“思い”で雰囲気を拡げるのが役者の仕事。劇場という空間で燃焼して自分の言うことをしっかり伝える。その“役者が出したエネルギー”に共感すると、劇場はその色に染まります。それは役者たちへのたったひとつのごほうびでもあるんです。