Unlocking the potential within you ―― 学び続ける人のそばに

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Vol.096 2023.07.14

科学コミュニケーター
手作り科学館 Exedra館長
羽村太雅さん

<後編>

「体験」は大きな刺激に満ちあふれている
守破離の精神で育ち、自由に羽ばたいていこう

手作り科学館 Exedra館長

羽村 太雅 (はむら たいが)

手作り科学館 Exedra 館長/一般社団法人サイエンスエデュケーションラボ 理事長。慶應義塾大学理工学部を卒業後、東京大学大学院新領域創成科学研究科へ進学。専門は地球惑星科学。2010年6月に大学院の同級生らとともに柏の葉サイエンスエデュケーションラボ(KSEL)を創設。多数のサイエンスカフェなどを企画・運営し、また自ら演台にも立つ。国立天文台 広報普及員を経て、現在は複数の大学で非常勤講師も兼務。2015年東京大学大学院新領域創成科学研究科長賞、2016年・2017年日本サイエンスコミュニケーション協会年会ベストプレゼン賞(2年連続)、2018年千葉県知事賞(ちば起業家優秀賞)、2022年 若者力大賞(ユースリーダー支援賞)など受賞多数。テレビ出演やインタビュー記事など、メディア掲載多数。翻訳書に「くもんのSTEMナビ サイエンス」シリーズがある。

社会課題に光を当て、「社会と人々を科学でつなぐ」ことでその解決を目指そうと、豊かなアイディアで様々な場作りをしている羽村太雅さん。仲間と古い空きアパートをDIYで改修して開設した科学館の運営、まちなかでの標本の展示、自然体験活動を通じて理科に親しむスタディツアー「理科の修学旅行」の企画・運営、そして自治体や企業との協働など、幅広く活躍されています。その発想力や行動力の源は、公文式学習を含む、これまでの様々な「体験」があったからだそうです。どんな体験をされてきて、今後どんな未来を思い描いているのか、科学の魅力とともにうかがいました。

目次

    謎が多く残されていそうな
    宇宙に関心をもち大学院へ

    羽村 太雅

    中高一貫校で学びましたが、その頃は、カタカナの名前が多い世界史が苦手で、暗記も苦手だったので英語や古文も成績が伸び悩んでいました。一方、数学や物理は、数式を少し覚えていればテストでも点がとれたこと、また、よく雑談をしてくれた物理の先生が好きで、質問をしに物理科の教員控室に入り浸っていたことから、物理への関心が高まりました。

    当時、自分が生きていた痕跡を残したいとか、有名になりたいと思うようになりました。ただ、周りには優秀な生徒がたくさんいて、単純に賢さではとてもかなわないと悟り、まだ謎が多く残されていそうで運の要素も重要になりそうな宇宙の研究をしてみようと考えました。のちに、そんなに甘い世界ではないことは、痛いほど思い知らされることになりますが…。

    ところが、第一志望の大学は不合格。慶應義塾大学理工学部に進むも、入学すると高校時代に抱いていた野望は忘れ、ワンダーフォーゲル部で山籠もりをする日々でした。ただ当時、登山の最中に見たこと、考えたこと、身につけた技術や学んだ知識は、のちに仕事として活用されることになりました。前編で紹介した「理科の修学旅行」の開発や、監修を務めたくもん出版の『科学の力で無人島脱出ゲーム』でのアイディアは、こうした経験をもとにしたものです。

    理工学部には、大学院に進む友人が多かったので、私もなんとなく大学院に進みたいと思っていました。ところが大学院受験の際に、「自分が本当は何をしたいのか自分でもよくわかっていない」ということに気づき、大学院浪人をします。その間、様々な先生のところへお話を伺いにいったり、国立天文台の定例イベントに学生スタッフとして関わらせていただいたりして、多様な研究の存在を知ることができました。

    その過程で、自分がとくに地球外生命探しに惹かれることを認識し、東京大学の惑星科学のゼミに参加させていただいたり、のちに指導教員となる先生の授業を受講させていただいたりしました。

    大学院では、「自分が興味を持って取り組んでいる内容を、多くの人と共有したい」という思いと、友だちづくりをしたいという思いから、科学コミュニケーション活動を行うサークルを立ち上げました。仲間の一人が、まちづくりを専門にしていたので「科学コミュニケーション活動を通じて地域の交流を活性化する」ことを目標に掲げて活動を開始。それが、今でも他の科学コミュニケーターや団体とは違った道を歩んでいるルーツだと思っています。

    サークルでサイエンスカフェや小学生向けの理科実験教室、理科の修学旅行などを開催するうち、参加者や地域の方々から「活動を続けてほしい」という声をいただくようになりました。そこで事業化して法人を立ち上げる道を模索し、2020年9月に法人を設立しました。2010年6月にサークルを立ち上げてから、だいぶ時間がかかってしまいましたが、現在この活動を本業にできているのは、これまで支えてくださった多くの方々、そしていまわれわれの活動をご支援くださっている皆様のおかげだと、いつも感謝しています。

    思い通りにならなくても
    「運命だ」と受け入れた

    羽村 太雅

    振り返ってみると、研究者になる人生もあったかもしれません。しかし自分の強みは研究者向きではないとの自覚がありました。研究者になることを目指す同級生や先輩たちと比べて、研究に向いていないのではないかと思うことも多くありました。

    そもそも私は、プロフィール上は順調な人生だと見られがちですが、大学院浪人をしたり、就職活動をしたこともなかったりと、他の方とはちょっと違ったキャリアを歩んできました。

    こんなこともありました。宇宙のことを学びたくて大学に入ったのに専門の先生がおらず、大学4年の時にようやく研究室ができた!と思ったら、くじびきで落選……。別の研究室で、約マイナス270℃の「極低温」での物質の性質を研究することになりました。

    ところが結果として、ここでの研究も今の仕事に生かされています。たとえば極低温の研究においては、日常生活で使われるような温度計では温度が計測できないので特別な温度計を自作しなくてはならず、その際に金属の素材を掘削・研磨する技術を学びました。それがワークショップの銅鏡磨きのアイディアにつながっています。

    こうした経験から、その時は思うようにならなくても、そこでできることを一所懸命やれば、結果として報われるという感覚が芽生えたのかもしれません。人生はままならないものです。ですが、ふてくされずに「それが運命だ」と受け止めて、そこでしっかり学べば、後々の人生をポジティブにしてくれるのだと信じています。

    そんな道を歩んできた私が心がけているのは、「まずはやってみる」ということです。人は、いつ死ぬかわかりません。その時に後悔しながら死ぬのは嫌なので、やってみたいと思ったことは、可能な限り実現しておきたいと思っています。「常にいろんなことを気にかける」ようにもしています。新たな取り組みを始めるときには、何かのきっかけが必要です。その手掛かりを見つけるため、常に情報収集をしています。そしていざ取り組み始めるときには、その分野に詳しそうな人に聞いてみます。するとキーワードを教えてもらえるので、自分でさらにリサーチを追加して知識や思考を広げています。

    死ぬまでに地球外生命に触れてみたい

    羽村 太雅
    羽村さんの夢
    「地球外生命を手のひらに」

    私が大学院に入る時に抱いた夢は「死ぬまでに地球外生命に触れてみたい」ということでした。この夢は、今もあきらめていません。その夢が実現した時、ひとりで感慨に浸るのではなく、その喜びは多くの人と分かち合いたいと思っています。

    だからこそ、遠回りかもしれませんが、「科学の現場をみせる」ことで「社会と人々を科学でつなぎ」「基礎科学の研究が応援される世の中を草の根から作る」取り組みを進めていきたいと考えています。科学館や体験のできる場を増やしたり、科学コミュニケーションの手法を生かしたりして、社会の課題解決に取り組み続けることを通じて、私が思い描く世界を実現し、個人的な夢もかなえて「わが生涯に一片の悔いなし」と言って死んでいきたいです。

    子どもたちには、大人の敷いたレールにとらわれず、守破離の精神で育ち、自由に羽ばたいてほしいです。とはいえ、大人のサポートは成長の近道を示してくれることが多いので、すべて無視する必要はなく、教えを守ったり子どもらしく甘えたりすることも良いでしょう。でも、いつかは大人になり、自分の人生を自分の力で歩む時期がやってきます。その時に自立できるよう、自分らしさは忘れずにいてほしいですね。

    知識として学問を学ぶこともとても大事です。それに加えて、いろいろなことを体験してほしい。体験というのは、五感をフル活用できるので、ものすごく刺激にあふれています。体験すると、自分なりに疑問を抱くことがあります。それが新たな世界を切り開く鍵となるでしょう。

    保護者の方からは「どうしたら子どもが理科に興味を持つか」「どうやったら良い大学に進学できるか」「子どもの頃から科学や宇宙に興味があったのか」と頻繁に質問されます。もちろん、様々な体験をさせてあげることは非常に重要ですし、私もいま、それをサポートする立場ですが、子どものうちからそれだけに集中しなくても良いように思います。ある程度成長してからでも、興味を持ったり研究の道に進んだりすることは十分可能です。

    また、すでに理科・科学に興味がある子の場合でも、人生には他にも経験しておくと良いことがたくさんあるはずです。社会の仕組みを学ぶことも、日本の歴史と英語を勉強して海外を訪問することも、部活動でスポーツに励むことも、もちろん恋愛だって、人生を豊かにする糧になることは皆さんご存じの通りです。ぜひ、お子さんには様々な体験をしてほしいと願っています。

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    羽村 太雅  

    前編のインタビューから

    -誰もがいつでも気軽に科学に触れられる場
    -未知との遭遇が楽しめるのが科学の魅力
    -試行錯誤の大切さ、夢を語るマインドは両親から

    前編を読む

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