働くための知識とスキルを身につける
朝礼でのスピーチとラジオ体操の後、各自がタブレットとスタイラスペンを机の上に用意し、各自の課題に取り組みます。画面をペンでタッチして文章を目で追いながら音声を聞いたり、いっしょに読んだり、時には文章を書いたりしています。それは、タブレットを使って仕事をしている姿そのものです。
これは、ピボットパンドラでのタブレットを使った公文式英語学習の光景です。ピボットパンドラでは、働くストレスに柔軟に対応できる「心の復元力=レジリエンス」を高めるために、「心と体」の土台づくりと、働く上で必要な「知識とスキル」の両方を身につけるプログラムを用意しています。公文式英語をタブレットで学習することによって、ICT機器に慣れるのはもちろん、基本的な英語の読み書きや音読を通じて、自信をつけていくことを目的にしています。
KUMONでは2023年1月よりタブレットで公文式を学習するサービス「KUMON CONNECT(クモン コネクト)」の提供を世界一部地域で開始しました。※
「KUMON CONNECT」は、指導者とのヒューマンタッチな関わりを大切にしながら、公文式プリント教材と同じ内容をタブレットで学習することができるサービスです。
※日本国内においては、現在、少数の公文式教室でのモニター検証中。今後の具体的なサービス展開の時期などは決まり次第発表。
自信がつくことを自覚できる学習法
「パンドラの会では、一人ひとり性格や向き不向きが異なるように、障害や疾病は優劣ではなく『違い』であるという考えに基づき、就労をゴールとせず、人生を見通したキャリア形成を目指していくサポートを提供しています」と坂口理事長。2013年12月からスタートした「S&Jパンドラ」での公文式算数・数学と国語の学習効果については、「利用者様一人ひとりに合った内容を学ぶことで、集中力や持続力、そして確かな学力と学び続ける力がつきます。『できた!』という体験をたくさんすることで、がんばれる自分に出会い、自己肯定感が育つことにより、利用者の就職率向上、定着率100%実現の一助となっています」とのことです。
「S&Jパンドラ」は社会経験が少ない利用者が、じっくり時間をかけて力をつけていく支援をする一方で、「ピボットパンドラ」は、就職目標期間を3~6か月に設定し、早期の復職・再就職を目指しています。また、利用者の年齢層が30~40代であるのも特徴です。「ピボット」という言葉には、転換点や分岐点という意味が含まれており、新たなキャリアを形成し明るく前向きに生きていけるように、という願いが込められています。
「ピボットパンドラ」での公文式学習について、なぜ「英語」なのか、坂口理事長に聞きました。
「発達障害の特性ゆえに生きづらさを感じながら復職や再就職を目指す方々から、『自信がない』『自分には難しすぎる』『自信があれば○○できるのに…』などの言葉をよく聞きます。公文式学習を通じて『成果を出せる環境』を整えることで、自信を取り戻すきっかけになればと考えました。また公文式は『スモールステップで取り組みやすい』『結果が目に見えてわかり、共有しやすい』『自分の力に合った教材で学ぶことが楽しくなる』学習法なので、自信がついてくるのが自覚できるのだと思います。さらに『英語』と『タブレット』というツールで『落ち着いた雰囲気で集中できる模擬的職場空間』を作ることができると考えました」。
利用者本人が気づく、自覚する、成長する
公文式学習を担当する竹内さんに、どんな支援を心がけているのか聞きました。
「利用者さん一人ひとりを尊重して、こちらがすぐに答えを言うのではなく、本人の気づきを促すサポートをしたいと心がけています。英語学習では、最後のページの英文を自分でタイム計測をしながら3回音読練習をするのですが、そこで利用者さんが3回の間に音読が流ちょうになったことを自覚できるような話を引き出したりします。また、職員のパソコンで、学習済み教材の採点をし、点数や所要時間といった学習結果を見ることができるのですが、その画面をいっしょに見て、前回の取り組みとの違い、変化などをご本人に話してもらったりします。引きこもりの期間が長かった35歳の利用者と学習後のコミュニケーションを積み重ねていく中で、自分のことを話してくれたり、『自信がない』と言っていたことを『試していいですか?』と言ってくれるようになったり、変化が見られるようになってきました」。
「この歳になって、なんで英語の勉強をするの?」という方もいたそうです。
「ピボットパンドラの訓練プログラムの一つという前提と、『聞く』『書く』『読む(話す)』『コミュニケーション(振り返る)』といったビジネスに役立つスキルや、『一定の限られた時間内に与えられた仕事を完了させる』姿勢を公文式英語で身につけるという目的を伝えたことで、学習に対する自覚が生まれ、姿勢が変わりました」と竹内さんが振り返ります。
就職後、5年・10年先を見据えた支援を
「パンドラの会」は、障害のある子どもをもつ母親たちの「わが子が将来安心して働ける場を自分たちで作ろう」という想いから始まりました。地元の企業との協働事業など、発足以来20年以上にわたり障害や疾病のある方の地域に根ざした就労支援に取り組んでいます。
坂口理事長に「ピボットパンドラ」で目指していることを聞きました。
「3~6か月で早期の復職・再就職を目指すということについては、企業からもハローワークからもニーズが高く求められていることですが、目標実現のためには、分野別に目的をもったプログラムの充実はもちろん、スタッフが物心ともに満足して、笑顔で元気に働ける場を作ることが大切で、それが私の一番の行動目標です。そして利用者には、就職はもちろんのこと、働き続けることによって自信を取り戻し、本人が目指す生活を手に入れることを主眼としたサポート体制で、良質なサービス提供を実現していきたいと考えています」。
「また、今秋から地元の企業・農園、パンドラの会の三者で『農福連携』をスタートします。付加価値の高い農産物の商品開発や栽培を通じて、障害のある人々の活躍の場の拡大、自立支援を通じて地域貢献していきたいと考えています。やりがいや成長を実感できる場となるとともに、『社会に近い』場になることを願っています」。
さらに、公文式学習に期待することを聞きました。
「公文式学習はスモールステップの学習法。スモールステップとは、行動する際に目標を細分化して小さなゴールを設定する方法を言いますが、毎回の学習で小さな目標を達成することにより、小さな成功体験を積み重ねていると実感しています。その積み重ねが『これならできそう』という自己効力感につながっていると思います。『自信は行動の後にできる』ということを、学習を通じて利用者さんに実感してもらいたいですね」。
「ピボットパンドラ」の利用者一人ひとりが、就労につながる訓練プログラムの中で小さな自信を積み重ねることができるよう、私たちは公文式学習の導入を通じ、これからも「ピボットパンドラ」の活動に貢献してまいります。