道海永寿会の学習療法、脳の健康教室の取り組み
<永寿会/学習療法・脳の健康教室のあゆみ>2001年 学習療法 共同研究開始
2005年 脳の健康教室開始 2015年 三又校区7会場に拡大(SIB調査事業対象) 2016年 大川市より認知症予防事業委託開始 2019年 大川市より成果連動型委託事業開始 |
永寿会における最初の3年間の実証実験の中で、「読み書き計算は高齢者の認知症の改善に効果がある」ことが証明され、「重度の方がここまで改善するならば、健康な人の認知症予防にも役立つのではないか」という仮説が生まれました。「脳の健康教室」はこの仮説を元に、仙台市等での調査研究を経て、誕生しました。
永寿会でも、「自宅で暮らしている地域の元気な高齢者の認知症予防にも貢献したい」と2005年から脳の健康教室を開講。「75歳から15年間教室に通い続けた方の認知機能が改善した」というめざましい成果も現れています。
2015年には「成果報酬型ソーシャルインパクトボンド構築推進事業*」(SIB調査事業)への参加を機に実施会場を増加。長年の実践実績とその成果、運営におけるノウハウが評価され、2016年には大川市の認知症予防事業として脳の健康教室を受託し、市内全域(中学校6校区)に広がっています。
*「平成二十七年度 健康寿命延伸産業創出推進事業(ヘルスケアビジネス創出支援等)」の一つとして経済産業省に採択された調査事業。健康な高齢者を軽度認知障害(MCI)、要介護認定へと進ませないために、「脳の健康教室」が認知症予防サービスとして公的コスト削減に貢献可能かを調査。
大川市の認知症予防事業(2016~18年)で見えたもの
大川市の認知症予防事業について、永寿会総所長の山崎律美さんはどのように感じているのでしょうか。
「私は2000年に介護保険制度が始まった時から、保険者が3年毎に実施している【介護予防・日常生活圏域ニーズ調査】の回答を常に注視してきました。大川市の回答変化を追ってみると、『認知症についてどう思いますか?』という問いに対して、10年前は、『何をやっていいのかわからない』『認知症は怖い…』という回答がほとんどでした。それが5年ほど前からは『認知症予防をやっています』との回答が高くなっており、市民の認識に変化が見え始めたのを感じます。これは明らかに大川市が首長の意向の下、認知症予防事業に力を入れた結果、脳の健康教室が地域に浸透してきたからだと思いますし、高齢者自身、『これをやれば自分も予防できる』と実感している人が増えているということだと思います」
山崎総所長はこう話します。
「また、現在進行中である成果連動型委託事業としての『あたまとからだの健康教室』は、評価軸を作って成果を数値によって見える化する際に、MMSE(認知機能検査)だけでなく、お金に換算することで、より市民にわかりやすくなりました。『自分たちが支払っている介護保険が何に使われているか』が明確になったことで、行政に対する信頼感が高まることは確かだと思います」
成果連動型委託事業(2019~21年)としての認知症・フレイル予防の取り組み(中間報告より)
【2019年度の成果指標】◎ 研修を受けたサポーターの充足率
◎ 8割以上の出席率を記録した教室の回数 ◎参加者のMMSEの点数の変化 ◎「通いの場」の成立と継続的参加 (2020年度は、「通いの場」に代えて、 参加者のフレイル該当者の変化) |
大川市では、2016年からの認知症予防事業の手ごたえにより、2019年からは3年間の成果連動型委託事業として、脳の健康教室(「あたまとからだの健康教室」という名称での認知症・フレイル予防を目指した教室)に加え、介護施設における認知症重症化予防にもその支援の範囲を広げた取り組みを行っています。
成果連動型民間委託契約方式とは、民間の資金とノウハウを活用し、成果が確認できたら費用を支払うという契約のことで、様々な社会課題の解決へ向けて内閣府がその活用を推進しています。
たとえば、認知症予防を目的とした脳の健康教室では、上記のような成果指標を設定していますが、民間として公文が道海永寿会の教室運営をサポートし、成果指標が達成されれば、大川市から公文へ費用が支払われるという仕組みです。受講者だけでなく、教室を支える市民ボランティア(教室サポーター)にとっても、一緒に地域をよくしていくのだという意識や手応えが得られています。
2019 年度は設定した成果指標をすべて達成し、2020 年8 月に市民向け成果報告会を実施しました。2020年度も、コロナ禍の影響により教室の開催回数は減少しましたが、成果指標はすべて達成しました。「以前のような外出機会が減るなか、人と触れ合える通いの場はありかがたかった」「毎日やること(宿題)があることで生活の張りが保てた」など、市民のみなさんの「あたまとからだの健康」の維持・改善に貢献していると言えるでしょう。
現在3年目に入っていますが、3カ年の最終報告はKUMON now!でもご報告予定です。お楽しみに。
大川市の担当者にお話をうかがいました
紅粉屋町公民館「あたまとからだの健康教室」(2019年撮影) |
今回の成果連動型委託事業について、事業を担当する大川市健康課・江﨑課長補佐に手ごたえをお聞きしました。
「大川市では、平成27年度に国のSIBモデル事業に参加したことや、市内全ての公民館で介護予防健診&もの忘れ健診を実施した結果から、認知機能が低下した人やフレイル状態にある人が地域に多くいらっしゃることがわかりました。そのため、認知症やフレイルを予防するための『あたまとからだの健康教室』を開催することにいたしました。
通常、事業を業者に委託して実施する場合、業者と業務委託契約を結び、業務が仕様書通りに行われていれば契約通りに経費を支払う流れとなりますが、今回は、成果に応じた支払いを行う成果連動型支払い事業として取り組みましたので、大川市が目指すものは何か、認知症予防やフレイル予防において可視化できる成果指標をどう考えるかなど、教室を開始する前から関係者と何度も協議して、成果指標を作成することはとても難しかったです。
それでも、慶応義塾大学や学習療法センター、道海永寿会やくまもと健康支援研究所等関係者の皆様のお力添えで、無事成果指標を形にでき、大川市独自のスタイルを作り上げることができました。とても感謝しています。受託事業者の皆さんにはその目標に向かって事業に取り組んでいただき、サポーターの育成や認知機能の改善、教室の実施とその継続、参加率などすべての項目において、目標値を超える素晴らしい結果を出していただきました。参加者やサポーターからもたくさんの笑顔と喜びの声を頂いて、私達も元気をもらい、楽しい取り組みとなりました。今は、コロナ禍にあって思うように教室開催ができない状況が続いておりますが、見直し改善しながら引き続き事業を実施して、笑顔でつながる歓びの輪を広げていきたいと思います」
山崎総所長×学習療法センター共著 学習療法実践の記録 |
前回は認知症予防セミナーをきっかけとして金融機関が開講した脳の健康教室、今回は自治体が学習療法導入施設に脳の健康教室を委託し、開講している事例をご紹介しました。脳の健康教室は、自治体やNPOがボランティアのサポーターと認知症予防を希望する受講者を募り、開講することが多いのですが、様々な形での開講も広がりつつあります。今は開講が思うように進まないなどの障害はありますが、脳の健康教室の地域のコミュニティとしての役割はこれからも続くでしょう。
学習療法センターはこれからも学習療法や脳の健康教室の実践を行うために、様々な形での導入・開講の模索やすべての方々の可能性の追求をしてまいります。
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