“子どもを守る”巾着の中身は?
『今様女扇』 菊川英山 文化8(1811)年 |
虫の音が聞こえる季節になりました。
虫の音は夏から秋にかけての日本の風物詩ですが、江戸時代には今頃になるとスズムシ、マツムシ、クツワムシ、ホタルなどとともに虫籠(むしかご)を売り歩く行商人もいたようです。
今回の浮世絵は菊川英山の「今様女扇」という作品を紹介します。
母親が右手に虫籠を持っていますね。手ぬぐいを首にかけていて、暑さを感じさせますが、これから朝の洗顔でもするのでしょうか。弁慶格子模様の着物の腰に赤い巾着をつけた幼子は、母が持っている虫籠を見つけ、虫籠の中の虫を見たくて夢中で背伸びをしてとろうとしているようです。上の「扇」には秋の七草の桔梗(ききょう)が白抜きで描かれており、虫の音とともに秋の足音も聞こえてきそうですね。
赤い巾着(『今様女扇』部分) |
いまだに新型コロナウイルスの感染が続いていますが、江戸時代は衛生面が悪い上に医療水準も低く、特効薬もワクチンもありませんから、天然痘(ほうそう/とうそう)や麻疹(はしか)などの疫病が人々を苦しめました。母親たちは恐ろしい疫病から我が子の命を守りたい一心で、お守りや迷子札を入れる巾着を手作りして子どもに着けさせていました。浮世絵の中に描かれた小さな赤い巾着からも、そんな温かい親の愛情を感じ取ることができるのではないでしょうか。
背守り(結び文) | 背守り(くくり猿) |
当時は巾着の中のお守り以外にも、子どもを守る様々な風習がありました。幼い子どもが着る一つ身の着物には背縫いがなく、災いが背中から入り込むと信じられていました。そこで母親は愛情を込めて背縫いの代わりに「背守り」を一針一針縫い込んだといいます。また、背守りとして背中に「結び文(結び目)」や願いを叶えるために「くくり猿」というお守りをつけることもありました。猿は欲望のままに動き回りますから手足を括り付けることで、欲を押さえて願いを叶える意味が込められているといいます。
子どもを描いた浮世絵を注意深く見ていると当時のお守りを発見できるかもしれませんよ。
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