実体験で感じた「無理のないところから」が学習効果に
「ひまわり学園」施設長 坂口紀和さん |
まず初めに、公文式導入の経緯について、「ひまわり学園」の施設長・坂口紀和さんにお話を伺いました。
―― 公文式の導入に至ったきっかけを教えてください。
坂口さん:この施設に通う方たちは、特別支援学校を卒業した方たちなのですが、一日中作業をすることは難しいという方もいます。そこで、「職業訓練」だけでなく「生活訓練」の方も大事にしていこうという方針のもとに2006年3月に開所しました。最初は全員女性の訓練生だったということもあり、取り組みとして考えたのは「調理」と「手芸」でした。それに加えて、職員から候補があがってきたのが「公文式学習」でした。
―― 坂口さんご自身は公文式へのイメージはどのようなものだったのでしょうか?
坂口さん:実は私自身、中学校の3年間、KUMONの教室に通っていました。お世話になった先生のご指導が良かったからだと思うのですが、教室に通うようになって成績がグンと上がったんですね。身を持って学習効果を感じていましたので、とても良いイメージを抱いていました。今振り返ってみると、自分に無理のないところからスタートできたことが、続けられた要因になったのではないかと思います。
―― こちらの施設でも導入しようと思われた理由は何だったのでしょうか?
坂口さん:訓練生は中・重度の知的・発達障害のある方たちなのですが、地元の特別支援学校では、どうしても「木工」や「農園」といった、卒業後に事業所で通用するものを身に付けてもらうことがメインとなり、なかなか「学習」という時間が設けられていないという話を耳にしていました。そこで、「学習」の時間をつくることで、例えば自分の名前を読めたり書けたり、あるいは簡単なお金の計算ができたりすることで自信をつけることが、日常生活にも波及されるのではないかというのが導入の理由でした。
集合学習でお互いの存在を意識しているからこその相乗効果
―― 実際に公文式を導入してみて、いかがでしょうか。
坂口さん:まず私自身が公文式の特徴や良さを肌で経験していたということが、とても大きかったと思います。何よりも「無理なく」やれるところから、ということを重視しています。一人ひとりの学習の様子を見ながら、「無理なく」に加えて「ちょっと頑張れる」ところはどこなのか、ということを大事にしながら声かけしたり、教材のレベルや学習する枚数を考えたりしています。それは、自分自身が中学生の時にKUMONの先生にしていただいたことなんですね。その経験が生かされているかなと思います。もう一つは、あくまでも公文式はツールの一つであって、障害者支援の視点を忘れてはいけないということも、常に職員たちと確認しあっています。一番の目的は、訓練生たち本人の生活が豊かになること。そのことを念頭に置きながらやってきたからこそ、中・重度の知的・発達障害のある訓練生たちにも学習効果が表れてきているのではないかと思っています。
―― 訓練生への学習効果についてはどのように感じられていますか?
坂口さん:特に重度の知的障害のある訓練生が3人いるのですが、この3人はここに来るまでは「ひらがなを書く」「計算をする」といった学習がなかなかできなかったと思います。その理由の一つには、周囲からの「できないだろう」という先入観もあったのではないでしょうか。しかし、公文式学習によって「できるところはどこだろう」ということを探しあてることができたおかげで、学習効果が表れています。現在では、学習時間中は席に座って学習することができている3人ですが、最初は座り続けることも、職員と対面で学習することもままなりませんでした。それが今では自分からカードをめくって、一生懸命、発語しようとすることも見られるようになり、発語や表現方法が少ない訓練生とは、カードを通じて意思疎通が図れたという実感がありました。「○○君はちゃんとわかっているんだ!」ということが、私たち職員にはよくわかりました。
―― 公文式を導入して良かったと思うことは何でしょうか。
坂口さん:公文式は、訓練生一人ひとりの良いところを“見つけやすい”ツールになっていると思います。学習時間を設けたからこそ、それぞれの潜在能力を引き出すことができ、職員に「褒められる」「認められる」シーンが多く生まれ、訓練生には大きな自信が生まれています。そして、もう一つの効果として感じているのは、訓練生同士の相乗効果と、職員のモチベーションアップです。学習は、障害の程度によって場所を2つに分けて、それぞれ集合学習を行っているのですが、訓練生は自然とお互いの存在を意識しているところがあります。ですから誰かが職員に褒められたりすると、「自分も褒めてもらいたいから、頑張ろう」とか「自分も同じことをやってみたい」とやる気が引き出されてくるみたいで、職員に積極的にアピールしてきます。お互いがお互いを引き上げている、そんな相乗効果が生まれていると思います。また、職員も「こんなこともできるんだ」「こんな力を持っていたんだ」と訓練生に対して新たな発見があります。同時に、「じゃあ、次はここまでステップアップできるかな」と、スモールステップで能力を伸ばすという楽しみもできています。そうすると、職員たちにも自然と訓練生たちを「観察する力」「能力を見抜く力」「ポジティブな見方」が養われているのではないかなと。こうしたことが、お互いのモチベーションにもなっていると思いますし、信頼関係を作り出しているのではないかと思います。もし重度の利用者の方の支援に悩まれている施設の職員さんがおられたら、たべものカードや動物カードなど何か利用者の方が興味のあるものを、信頼関係のきっかけ作りとして使ってみてもらいたいなと思います。
指導者の情熱があるからこそ生まれる学習効果
不二山雅大さん |
2018年4月よりひまわり学園の職員となった不二山(ふじやま)雅大さん。もともと中学校など教育現場で40年以上、教員・校長を務められていた不二山さんですが、ひまわり学園での初日に見た感動の光景が忘れられないと言います。その不二山さんに公文式学習の効果についてうかがいました。
―― もともと公文式にどんなイメージを抱かれていましたでしょうか。
不二山さん:正直、詳しくはわかりませんでしたが、中学校の教員時代にはKUMONの教室に通っていた生徒が何人かいましたので、その子に応じた基礎的学習をきちんとする教材という印象がありました。
―― 実際に指導する立場となられて、公文式についてどのように感じていますか?
不二山さん:私にとっても毎日が勉強の日々です。最初に驚いたのが、訓練生が目を輝かせ、意欲を出して学習していたことでした。きちんと座って集中しているその姿に感動を覚えました。それは、公文式教材が個々に応じたプログラムになっている教材だということと、施設長をはじめ職員の指導の丁寧さが学習効果につながっているからだろうと思いました。
―― 公文式の導入によって、どんな効果が生まれていると思いますか?
不二山さん:訓練生一人ひとりの隠れていた能力を引き出し、それを伸ばしていくためのツールの一つとして、公文式は非常に役立っていると思います。それともう一つは、導入を決めた施設長の熱い想いが非常に大きいと感じています。やはりどんなに素晴らしい教材でも、それを使って指導する人たちの情熱があればこそだと思うんですね。それが施設長にはありますし、その想いが職員たちにもきちんと理解されているなと。だからこそ、訓練生にも伝わって学習効果が生まれているのだと思います。指導者の強い想いが、教材をより輝かせているように感じています。
―― 指導にあたるうえで、大事にされていることは何でしょうか?
不二山さん:まだまだうまくいかないこともあるのですが、職員同士でいろいろと情報交換をしながら、その中で答えを導き出していくことも多々あります。そうやって、自分自身の気持ちを高めていかないと、それこそ訓練生は非常に敏感ですから、私が悩んでいたりすると、すぐにそれを察知します。ですから、自分自身のモチベーションを保っていくためにも大事にしているのは、職員同士のコミュニケーションですね。
―― 公文式の良さをどのように感じていますか?
不二山さん:自分ができたかどうかをとても気にする訓練生もいます。少なからず訓練生みんなにあると思いますが、やはり「褒められたい」「認められたい」という気持ちがあるからだと思います。学習によって生まれた自信が、他の何かにつながっていく。そしてできたことへの喜びが、人としての生きる力になる。公文式にはそうした仕組みが組み込まれていると思います。
―― 今後、やっていきたいことはありますか?
不二山さん:まだ私自身1年も経っていませんので、まずは施設長が考えている理念をきちんと理解して、それを私自身も実践していこうと思っています。そしてゆくゆくは、そこに自分なりのものが加えられたらいいなという目標があります。やはり初日に見て感動した、集中して学習に取り組んでいる訓練生の目の輝きが忘れられないですね。ですから、私自身がもっともっとうまく指導できる術を持っていれば、訓練生たちの力をさらに伸ばすことができるのではないかなと思います。